24・狂者の理由
(もうダメ!)
レヴェッカがそう思った瞬間、横から使徒に光弾が直撃した。
使徒は弾かれ、宙を舞い、身を翻して着地する。
「レヴィ、あいつは私に任せろ。」
見ればマシューが側に来ていた。
マシューが助けてくれたのだ。
使徒は着地すると首を回し、ローブを被ったマシューを睨む。
「痛いなぁ。何するんだよ、肉が焼けただろう?・・・お前使徒だな?誰だ?」
「・・・。」
「誰だ、って聞いてんだよっ!」
答えないマシューに痺れを切らし、使徒はマシューに飛び掛った。
使徒が刃を浴びせるとマシューも同じ刃で返し、使徒が光弾を放てばマシューも光弾を返す。
目にも止まらぬ速さの戦いは互角に見えたが、ローブを頭まで被っているマシューは分が悪かった。ついに使徒にローブを切り裂かれ、マシューは大きく後方に跳んでローブを脱ぎ捨てる。
ローブの下から現れた姿に、周囲からはどよめきが起こる。
「あれはマシューじゃないか!レヴィ、どういう事だい!」
「・・・そういう事なの。」
レヴェッカが返すと、事情を察したアレクサンドラは盛大なため息をついた。
「ああもう!やってくれたねぇ。」
そう言うアレクサンドラの怪我は、どうやら強化した義足を切断されただけで済んだようだ。
ホッと息を吐き、アレクサンドラを背後にかばい、レヴェッカは使徒を見た。
使徒はマシューを指差し、身体をよじって高笑いをする。そして、さもおかしそうに口を開いた。
「マシューかぁ。このあいだあれだけ痛い目に会わせてやったのに、またやられに来たの?もう諦めたらどう?」
「お前こそ諦めろ、サウロ。わかっているはずだ。ルーカスの話はただの理想論。現実になるはずがない。」
「へっ!これだから真面目な奴は!」
サウロはそう言うと、床に転がった手近な兵士を右手の刃で串刺しにした。痛みに絶叫し、血を溢れさせる兵士を串刺しのまま持ち上げ、サウロは笑った。
(おかしいよ。あの人絶対おかしいよ!)
レヴェッカは楽しそうに兵士を嬲るサウロにゾッとした。明らかに殺す事を楽しんでいる。そんな顔に見えた。
「勘違いするなよ?ルーカスの考えなんかどうだっていい。俺はねぇ、殺せれば相手が誰でもいいの。神でもソールでもルーカスでも関係ない。俺に殺せと言ってくれる奴に俺は従う。それだけ。」
「何を言っている。」
動揺するマシューにサウロはニタリと笑いかける。
「お前もそうすればぁ?そうすりゃ今よりずっと楽に生きられる。苦しまずにいられるんだ。それに、俺達と違って人間なんかほっといてもどうせ死ぬんだからさ。俺が殺したっていいだろ?」
サウロは苦しむ兵士を串刺しのままマシューに投げつける。
マシューが兵士を避ける間に、サウロはレヴェッカに襲い掛かった。
レヴェッカはとっさに盾を作りサウロの刃を受け止める。クラウソラスでサウロを押し戻すように力をかけ、アレクサンドラから少しでも離そうとした。
「やめろ!」
サウロの背後からマシューが攻撃を仕掛け、サウロが脇へ飛ぶ。そのまま二人は何度か刃を交え、離れた。
ふと見回せば、立ち上がっているのはもう誰もいなかった。
全員が満身創痍で床に膝をつき、倒れ、IDEAの兵士にいたっては逃げ出した者もいるようだ。
動けるのはレヴェッカとマシュー、そしてサウロだけだった。
「お前おかしな武器を使うなぁ。人間か?」
サウロがレヴェッカに問い掛ける。
「サウロ、私と戦え。」
「んん?」
サウロは口をはさんだマシューを見て、顔を歪めて笑う。
サウロがレヴェッカに向かって走ると、マシューはその前に回りこみサウロの刃を跳ね返した。
サウロがレヴェッカに光弾を放てば、マシューがそれを光弾で打ち落とす。
またレヴェッカに近付こうとするサウロをマシューが阻む。
何度かそれを繰り返し、突然、サウロはゲラゲラと笑った。
「やけに庇うなぁ。」
サウロはニヤニヤとマシューに笑いかけた。
「どういう関係?」
「お前には関係ない。」
「ふうん?怒ったの?マシュー。・・・ふふっ、その女。俺が殺したらどうする?」
サウロに視線を投げかけられ、レヴェッカはビクリと震えた。
サウロは目つきも言動も、まともだとは思えなかった。もし彼が人間だったなら、今のような状態を「狂っている」と表現するだろう。
「その目、いいねぇ。ゾクゾクするよ。ふふ、殺してみようか?」
サウロは自分を睨み付けるマシューを眺め、満足そうに頷くと、レヴェッカに攻撃をし始めた。
レヴェッカが避け、マシューが庇い、またサウロが攻撃する。
マシューとサウロは互角だったが、レヴェッカはただの人間だ。サウロの攻撃が速過ぎて見切れず、マシューの足手まといになっている事は確実だった。
しかも、レヴェッカはもともと潜入捜査や撹乱する為の要員で、前線で戦った経験が無い。ここに来るまでの慣れない戦いで力を使い過ぎ、体力も精神力も消耗していた。
(どうしよう、このままじゃ・・・。)
勝負がつかないどころか、不利だった。マシューはレヴェッカを守るのに集中し、攻撃に転じられずにいる。
(私が戦力にならないと!)
レヴェッカは必死で攻撃方法を考えた。
向こうは一人。こちらは二人。自分がサウロを攻撃できれば、こちらが有利なはずなのだ。
マシューとサウロは刃を交え、お互いにいくつかの傷を負っている。このままではいつマシューが致命傷を負うかわからない。
(行くしかない!)
レヴェッカはクラウソラスに障壁を張り、前方に盾を作ると全速力でサウロに向かっていった。
「レヴィ!」
驚いたマシューの声が聞こえたが、レヴェッカは止まらない。光弾を浴びせるサウロに猛然と突っ込み、体当たりをした。
「ぐうぅぅっ!!」
両腕で盾を受け止めたサウロがレヴェッカを止めようとして、その足が床をえぐった。
勢いを殺さずレヴェッカはサウロを押しつづけ、壁際まで追い詰める。
逃れようと左を向いたサウロに気付き、レヴェッカはとっさに盾から触手にクラインボトルを変化させた。サウロの全身に絡みつかせ動きを封じる。
「お前ぇぇぇっ!!」
縛りつけようとするレヴェッカと、それから逃れようとするサウロの力が拮抗し、両者とも動けない。
しかし、サウロの放った光弾が戻ってきてレヴェッカを襲い、避けた耳元をかすめて壁に当たった。
次の瞬間、マシューがサウロの背後に現れ右手を一閃させる。
「!!」
声も無く、サウロの首が横にずれ、床に落ちた。瞬く間の鮮やかな手際で、マシューはサウロの首を一刀両断したのだ。
レヴェッカは呆然と、マシューがその首を拾い上げるのを見ていた。
「死んだ・・・の?」
「死んではいない。だが、この状態ではもう動けない。」
サウロの身体が動き止めたのを確認して、レヴェッカはサウロの身体を床に横たえた。
と同時に、周囲からは安堵の声が聞こえた。
(助かった・・・。)
レヴェッカも深く息を吐いて、クラウソラスから下りた。思い切り緊張していた分、気が抜けて座り込んでしまう。
「怪我をしたのか?」
レヴェッカの側に膝をつき、心配するマシューにレヴェッカは首を振る。
「ううん。なんかサウロが動かなくなって、安心しちゃって。」
疲れた様子のレヴェッカを、マシューは優しい瞳で見つめる。
「そうか・・・だが、まだIDEAの飛空船がある。」
そう言うと、マシューは立ち上がった。
「見に行ってくる。レヴィは休んでいるといい。」
そう言って一人で行こうとしたマシューを慌てて呼び止め、レヴェッカもクラウソラスに乗った。
もしかしたら飛空船にルーカスや他のIDEAの兵士達がいるかも知れないのだ。一人で行かせるわけにはいかないと、レヴェッカは気合を入れなおした。




