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序文

雨がふっている。


雨が上がったら決戦だ。



ほそい雨が、熱気をおさえこむようにふりつづいている。


目のまえには、二車線の国道がとおっている。


追い越し禁止のオレンジ色は、雨にぬれそぼり鮮やかに発色している。


半世紀ほどまえのアスファルトは、ゴムの車輪に削られ、割られ、塩風と太陽光をあびつづけ、賞味期限のきれた干物のように疲れきっていた。


道路のあちらこちらに大小さまざまな水たまりがある。


その水たまりに雨がおち、音のない花火のような水紋が咲きほこっている。


車道を横断すると、高さ1メートルほどの壁にぶつかる。


その壁は疲れていないコンクリートで造られた防波堤だ。


1メートルほどの高さの防波堤にのぼると、大人二人が並んで歩けるほどのスペースがあり海を一望できる。


海側は断崖絶壁。ストンと海に落ちこんでいる。


用事がないかぎり、防波堤のうえを歩いてはいけないと書かれた看板がかかげられている、みなの安全を祈るように。



防波堤のうえに立つと湾を一望できる。


おおきな鳥が緑の羽をひろげたような樹木と土にかこまれた丸い湾だ。


緑の羽は、とじきっておらずスキマがあいている。


湾外の海がどれほど荒れようとも、湾内の海は荒れないと彼に教えてもらった。


湾の右翼には、大型の漁船7隻と小さい漁船10隻ほどが係留されている。


さらに、魚介類のセリ場、干物をほす網、魚介の加工場、つみあげられた黒い網やオレンジ色のブイ、大型のトラックが10台は駐車できるスペースがある。


湾の左翼は遠浅の砂浜だ。夏は海水浴客でにぎわう。


雨がふっているいまは、負けかけの人生ゲームの棒のように人の姿はまばらだ。


鳥が翼をひろげた湾の中央よりも、すこし左翼によった位置にツルの頭のようにも見える防波堤がつきだしている。


その防波堤は、釣人に解放されており、朝から晩までたくさんの釣り竿がならべられる。


小魚から根魚、回遊魚、季節によってはイカも釣れる人気の釣りスポットだ。



わたしは、この街で釣りのたのしみを知った。


そして、釣りの厳しさも知った。


それを教えてくれたのは彼だった。


いま雨宿りしている本屋の店先で彼とはじめて出会った。


はじめて彼と出会った日も、生きた彼を最後に見た日も、今のような雨がふっていたのをしっかりと覚えている。

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