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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ガラス越しの君

作者: 浅葱 あさひ

「君はシワが多い方が綺麗だ」


 私と彼女を隔てる、ガラス越しにキスをする。直接触れられないのは無論、寂しい。だが、君を愛する心は変わることは無い。手のひらをガラスに添えて、静かに撫でる。私の愛する恋人。せっかくだから、昔話でもしようか。





 *





 彼女と出会ったのは職場だ。職場で噂が絶えない美人だった。あいにく私は君に興味なかったんだ。法外で、なんでも研究できるこの職場の方が、魅力的に写ったんでね。その時の私は研究に没頭していたんだよ。

 そんな私に声をかけてきたのが、関わるきっかけだったと思う。私から声をかけた記憶は一切ないから、この時が初めてだろう?…はは、多分そうだ。君は初対面の私になんて言ったと思う?


『あなた、酷い人だわ。』


 自覚はしている。他の同僚だって、分かっている。周知の事実だ。それなのに直接言いに来たものだから、私は君が暇なのかと思ったよ。それか、正義感の強い人間。でもあいにく、この職場に正義というものは存在しない。野心しか集まらない場所だ。もしそんな奴が入社してきたら、ついに面接官の気でも狂ったかと思うよ。だってそうだろう?ここはなんでも出来るんだ。生きた人間を麻酔無しで施術できる場所でもある。倫理なんて持ち込んだら、ここの均衡が崩れてしまう。まぁ、もっとも、私以外にそんな施術をする人間は見たこと無かったが。

 君に話しかけられた私は無視したよ。君に時間を割くより、研究に時間を割いた方が有意義だ。元々人と話すのは好きではないしね。

 で、2度目はどこで出会ったと思う?私はこちらの方が印象的だ!何故なら起きたら手術台の上で拘束されていたから。


『何故こんなことを?』


『あまりにも酷いお人だから、気持ちをわかってもらおうと思ったのよ。』


『誰の』


『この論文に出てくる方の』


 …これは確か、手術台が使われていたから、近くの防音室で施術したものか。器具も何も無かったから、スプーンで瞳を取りだしたけど、これはもう大変だった。うるさいし暴れ回るし。血が飛び散るのにも関わらず、エプロンもやらずに施術したから、服を洗うのには骨が折れた。これからはちゃんと手術室でやろうと思ったよ。本当だ。だって、血で汚れるのは誰だって嫌だろう?

 そうそう。この人間の瞳は特殊でね、魔法との関わりを研究しているこの職場ならではなんだが。人魚と同じ成分を持っていたんだ。ちゃんと足が生えているのに不思議だ。人魚の魚の部分は、中は人の足だったりするんだろうか?それとも、何かの魔法で魚から足に変化したのだろうか。凄く興味深い。おっと、話がズレたね。この話はまた後で君に話すよ。

 まぁ、結局私も瞳をほじくり出された。…でも随分優しいと思ったさ。麻酔はあったし、衛生面も良かったから、何も思うことはなかった。私が死ぬことはなかったしね。私の常識とは少し違ったかな。

 君はサイコパスだけど、善良な人間だった。自分が傷つけた相手をずっと気にしているんだ。流石だよ。私にはそうする意味がわからなかったけれど。でも、心配されて悪い気はしなかったよ。…君ってば、なんでここに入れたんだろうね?こんなに頭が悪いのに。

 研究出来ないのは、君のせい。この会社が発展しないのも君のせい。私の罪なき瞳が奪われたのも、君のせいだ。なんて、ずっと囁き続けたら、彼女は何故か私に従うようになった。君の場合なら、今度は私の鼓膜を破るかと思ったんだが。私の体が不便になっていくから、個人的にはすごく嫌だけどね。もちろん、そんなこともされなかった。


『これどうすればいい?』


『検査キットに入れて置いてくれないかい?あぁ、そうだ。今日は午後から手術室を予約してある。』


『分かりました。準備しておきますね』


 関係ないが、私が瞳を失ったことでバリアフリーが一気に進んだ。上の人間がいくら老けてもそんなことされる気配もなかったのに。なんと皮肉なこと。しょうもないことで利用されてしまった。

 施術は昔より随分静かに終わる。今回は悪魔の羽をもぎ取るだけだから、あまり面白くない施術だ。過去に何回かやって来ているから、慣れてしまっただけかもしれないが。君は面白かったか?…そんな事ないよな、君がそんなこと思うはずがない。恐怖か、無かのいずれかだ。目が見えないから分からないが、この時の君は多分慣れて虚夢だったと思う。…正解か?…はは、まぁ、そんな昔のこと覚えてないだろう?

 ここら辺から、一緒に過ごすことが多くなった。それは、必然だったと言える。君からいつも駆け寄ってくるからね。毎日目の心配をして、包帯を変えて、『大丈夫?痛くない?』だって。ちょっと笑えてくるな。本音を言えば、鬱陶しかったよ。でも君は、そんな私に恋をしていたんだろう?人づてに聞いたんだよ。君は元々執着が激しい人間だったと。この職場に来る時点で、普通じゃないのは当たり前だが。目をほじくって心配してるのは、罪悪感ではなく周りへの牽制だと。意味わからないな。私は君の顔が見られない。だから、それがひとつの誤算になった。

 いつの日か、愛していると言われるようになった。いつから恋人になった?盲目だから、何も見えていないと思っているのか。何をしていいと思っているのか。だが残念だが、私は人形じゃない。食事?薬で栄養は取れる。だから平気だ。トイレだって行ける。ここの施設はいつでも新しいからね。だから老人みたいに介護しなくて結構。君は私を愛しているが、私は君を愛してはいない。だから、休んでいる時に襲うのはやめて欲しい。君と交合うつもりは無いよ。そもそも、君は私の何が好きなのかさっぱりだ。

 流石にやっぱりウザイから、彼女に合わせることにした。私の常識は彼女に通用しないから。彼女に合わせて困ることは、尊厳が破壊されることだが、別に研究に支障はないので腹を括ることにした。


『愛してるわ、愛してる。███。』


『私もだよ。ハニー』


 愛の確認は交合うことで完了する。愛してると言う割には薄っぺらい。…私の思考がロマンチックになってきた。君のせいだよ。はは、うん。その通りさ。それでも、私は君に恋をした。

 君の話術は巧みだった。どんな人でも騙せる。この会社の発展の3割は君だ。君のおかげ。だから私はより、研究に精を出せた。

 でもそろそろ鬱陶しい。妊娠したと嘘をつかれた時は気が狂いそうだった。まず、子供が出来て嬉しく思う人間に見えるか?…見えないだろう。当たり前だ。なんで喜ばないのって?君に恋はしているが、君の子供には恋をしていないから。子供がいる必要性が感じられない。子供を研究対象にして欲しいのか?と質問したら、初めて君にビンタされたよ。久しぶりに痛い思いをした。君は好きな人を痛めつけて支配するのか?頭が悪いね。でも面白い。嘘をつくって意味のわからないことをしでかしたのが、私にとってすごく愛らしかったんだ。君の話はとても興味深いのに、焦ったら手が先に出るところが愛おしかったよ。





 *






 …あぁ、人に呼ばれてしまった。ごめんね、思い出話はまた今度しようか。


「ネクシス、お前またここに…」


「その呼び方はやめてくださいと言ったでしょう?リーダー」


「███、か。こっちの方が気味悪いぞ」


「せっかく親が着けてくれたんだ。大切にしないと」


「はっ、とんだサイコ野郎だな。」


「人聞きの悪い」


 とある馬鹿げた学者が言った。脳みそは、シワが多い方が頭がいいと。愛する君にぴったりの言葉だ。


「また来るよ、私の愛しの人」


 小さくなった君に、愛を込めて。

 消灯をしてこの部屋を去った。

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