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忍者参上3

作者: 西順

 両親の殺害現場を目撃してしまった少女の保護から始まった一連の事件。主人公はその殺害を命じたマフィアのアジトに潜入するも、潜入はマフィアにバレ、囲まれた主人公は、マフィアのボスに銃を向けながらも、自身もマフィアたちから銃を向けられている。


「そして、ここで選択肢、と」


 モニターに向かってカタカタとキーボードを叩いていた手を止め、私は「ふう」と椅子の背もたれに身体を預ける。


 天井を見上げながら、どうしようかなあ。とブツブツ声に出して考える私。三択なのは決定で、一つはマフィアのボスへ向かって銃を撃つ。一つはその場から一時退撤退。もう一つは銃を放り投げて土下座。これで決まりかな。


「残るはどの選択肢を忍者から外すかだよねえ」


「何ともバカバカしい悩みですね、闇を呼び起こす者、ダークネス・アウェイクナー」


 私の腕時計から、そんな非難の言葉が紡がれた。


「ラブっち、それは言わないお約束でしょう?」


 腕時計の盤面に描かれた、絵文字のような顔に向かって私は、いつもの反論を述べる。


「それはそうですが。毎度毎度、その荒唐無稽な選択肢をプログラミングさせられる私の身にもなって欲しいのですが」


「それは、さーせん」


 だが私たちが作っている同人ゲーム『忍者参上3』では、タイトル通り、忍者を出さない訳にはいかないのだ。


 私たち同人ゲームサークル『アンタッチャタブー』の次回作である『忍者参上3』は、選択肢を間違うと、忍者が突然現れ、敵味方関係なく全員殺す。と言うバッドエンドを回避しながら、何とかして物語を進行させていくノベルゲームだ。ちなみに『3』と表記されている通り、これが3作目である。


 売れない同人作家として、一人侘しく即売会の隅っこで自身の一次創作を売っていた(正確には売れていなかったが)私は、どうやったら自身の作品が売れるだろうか? とあれこれ思索をめぐらせていたのだが、結論として、表紙絵や挿絵が欲しい。と言う事になり、ネットの大海原から探し出した、自分の作風に合う絵師さんとコンタクトを取ったまでは良かったのだが、その絵師さんがやりたかった事が、ゲーム作りだったらしく、ノベルゲームを作るのなら、全面的に協力する。との言質を取り、私ことダークネス・アウェイクナー(恥)は、手探りでノベルゲームを作る事となったのだった。


 しかしこれには問題があった。プログラミングは私の腕時計からチャチャを入れる、今や個人に一機となったAIのラブっちが担ってくれるが、音楽をどうするか? と言う問題が立ちはだかったのだ。


 同人ゲームなのだから、ネットに転がっている使用料無料の音源で満足すれば良かったのだが、絵師さんはそれを良しとしなかった。拘りの強い絵師さんだったし、私も出来るなら専用の音楽を付けたかったが、では誰に頼めば良いのか? と私が頭を悩ませている間に、絵師さんが作曲が出来る人物を見付けてきたので、結果として私、ラブっち、絵師さん、作曲家さんの四人体制で初めて作り上げたのが『忍者参上』である。


 サプライズニンジャ理論と言う、イギリスの脚本家が提唱した、物語に関係ないニンジャが突然現れ、場を滅茶苦茶にする事よりも面白くなる作品でなければ、それは作り直さなければならない。この場合、ニンジャでなくともサプライズになるなら何でも良い。と言う理論を逆手に取り、何でか分からないけれど、毎回選択肢次第で忍者が現れ、バッドエンドになると言うフザケたゲーム進行を、忍者出現を避けながら物語を進めていく。と言う私たち『アンタッチャタブー』の作品は、意外と受けた。


 私が個人で活動していた頃を比べれば、雲泥の差で、正しく天と地、月とスッポンの売り上げだった。まあ、何とか黒字になった程度だが。


 そんな訳で私たち『アンタッチャタブー』は、この幸運を自分たちの実力だと勘違いして、『忍者参上2』を制作し訳だが、これがまた受けた。『2』では忍者の他にくノ一が出てくる仕様となったのだが、これは隠し要素で、何とか忍者を避けながら、特定の選択肢を踏んでいかないと、くノ一が出てこないのが受けたのだ。私は同人小説よりも、ゲーム制作の方が向いている。と『2』が受けた時には思ったものだが、『3』制作は難航していた。


 今のところ、『2』を超えられるものが作れている気がしない。結局のところ、二番煎じ、いや、三番煎じ感が半端ない。


「愛奈、そろそろ二人とのチャットの時間ですよ」


 ラブっちに言われてハッとなる。それはそれとして、


「創作中は本名呼びやめてって言っているでしょう?」


「思考の海に沈んだあなたは、ダークネス・アウェイクナーと呼んでも返事をしないじゃないですか」


 それは……、はい。


 反論も出来ないので、私は静々とチャットアプリを開いて、絵師さんと作曲家さんとビデオ通話を始める。


『やっほー。闇ちゃん元気している?』


『闇殿は物語を書き始めると、誰の声も届かなくなりますからな。心配でござる』


 モニターに現れたのは、エルフの絵師と宇宙人の作曲家だ。本物のエルフと宇宙人である。


 二十年程前、ある科学者がワームホールの開き方を発明し、これによって遥か遠くの銀河、星雲などだけでなく、異世界までそのワームホールが繋がるようになり、二十年後の現在は、ファンタジーとSFが混在した、二十前の地球人類からしたら、信じられない未来を生きている。まあ、そのお陰でこうして絵師さんと作曲家さんを見付けられた訳だけど。


『闇殿、進捗はどうでござるか?』


 私を闇殿と言うのは、全力疾走マン銀河のどこかにある、惑星ツカレッタに住む作曲家のカメレオさん。爬虫類みたいな名前だけれど、容姿は一見地球人類と変わらない。でも炭素生命体である地球人類とは違い、こちらは珪素生命体なので、少し半透明で珪素以外の成分の影響で、ところどころ赤や青、緑と言った色が付いている。


「う〜ん……、まあまあ」


 私の反応が芳しくないのを察して、苦笑いをするカメレオさん。


『闇ちゃんの「まあまあ」は当てにならないからなあ。何なら、今回の即売会、キャンセルする? まだ即売会まで時間あるし、参加費返金してくれるでしょ?』


 このように諭してくるのは、異世界モーシンデルにあるエルフの里、イキノビッタで活動している、長い金髪の下にあなた自体が絵画じゃないか? と疑う程美しいお顔をした、地球人類よりも少し耳の長いエルフの絵師、シリアルキラー(本名)さんだ。その物騒な名前に違わぬ、エルフのイメージからは懸け離れたビビッドな色彩の絵を描かれるお方である。カメレオさんも作曲だけでなく、自身で透明感のある歌まで歌う凄い人なので、チャットの時はいつも少し萎縮してしまう。


「いえ、締切までには時間もありますし、もう少しだけやらせてください」


 私がそう応えると、二人はモニターの中で互いに視線を交わしながら、それ以上私を追及してくる事はしなかった。


『ああ、そう言えば、主題歌完成しましたぞ。後はお二人から意見を聞いてブラッシュアップするのみでござる』


 明らかな話題転換だが、ありがたい。そして興味をそそられる話題だ。


「主題歌完成したんですね!」


『わあ! すぐ聴きたいんだけどオッケー?』


『そう仰ると思って、すぐに聴けるように準備してありますぞ』


 私とシリアルキラーさんが興奮して詰め寄ると、カメレオさんが落ち着くように手を上下に動かしながら、そのように場を収める。そうしてすぐに送られてくる主題歌のデータ。


「ラブっち」


「今再生します」


 ラブっちに頼んで主題歌をかけて貰う。流れてきたのはカメレオさんの透明感のある歌声を存分に発揮したミドルテンポの楽曲だ。作詞をしたのが自分なので、歌詞に聴き入ると少し恥ずかしいが、それを超えてくるカメレオさんの歌唱に胸を打たれる。


「カメレオさん、最高です!」


『サイコー!』


 私とシリアルキラーさんの語彙力が足りない感想に、ご満悦な表情を浮かべるカメレオさん。半透明のお顔が様々な色に変化するその姿は見ていてちょっと面白い。


「このままでも充分ですけど、まだブラッシュアップしたいんですか?」


『うむ。拙者としてはサビに入るところで、もっと盛り上げた方が良いかと思っておるのでござるが、このままミドルテンポで行った方が良いでござろうか?』


 カメレオさんって本当に職人だよなあ。


「なら、一番はこのままミドルテンポで行って、二番のサビで転調するのはどうですか?」


『うむ。それは良い考えでござるな。その方向でもう少し考えてみるでござるよ』


 そんな感じで主題歌の方向性が決定した。


『じゃあ、アタシはこの超絶サイコーな主題歌に合う絵を描くわね!』


 曲を聴いてインスピレーションを得たのだろう。その長い耳をピクピクさせながら、シリアルキラーさんはもう描く気満々である。


「はい。じゃあ、主題歌周りはそれでお願いします。それで、こちらが発注した忍者とくノ一の三面図どうなりました?」


『出来ているよ〜ん』


 そう言って見せてくれたのは、これじゃ隠れられないだろ? って言う派手派手な忍者とくノ一。でもカッコいいんだよなあ。……あれ?


「何か、忍者の三面図多くないですか?」


『うん。こっちは2Pカラー。いっつも同じ配色だと飽きるでしょ?』


『忍者の数を増やすのでござるか?』


『ううん。単に別バージョン描きたかっただけ』


『シリアルキラー殿らしいでござるな』


「……それだ」


『うん?』


『どうしたでござる?』


 二人が忍者の別バージョンで盛り上がっている中、私の意識はまたも思考の海に沈んでいた。そして浮き上がったのが一つのアイディアだった。


「2Pバージョンも出しましょう」


『お? 採用? ヤッター』


 喜ぶシリアルキラーさんに、そしてカメレオさんにも私のアイディアを伝える。


「はい。これまでって1Pカラーの忍者に遭遇したら、即バッドエンドだったじゃないですか?」


『うん』


『そうでござるな』


「今回は主人公の捜索ターンで、忍者召喚の笛が手に入るようにします。それを持っていると、忍者バッドエンドの時に、2Pカラーの忍者を呼び出す事が可能となり、その忍者が1Pカラーの忍者と闘う事で、バッドエンドを避けられる仕様にするんです!」


 このアイディアに、暫し沈黙する二人。…………駄目だったかな? 沈黙に不安を感じながら、二人の反応を確かめる。


『それだと、ゲーム進行が前作までよりも簡単になるのではござらぬか?』


 カメレオさんの厳しい指摘。これにシリアルキラーさんも深く頷く。


『別バージョンが採用されるのは嬉しいけど、それでゲームが詰まらなくなっちゃうのは嫌だなあ』


 うううううう、正論。いや、考えろ! 考えるんだ私! このアイディア自体は悪くないはずだ! 私の脳細胞よ! このヒラメキから答えを導き給え! …………ッ! 


「なら、これはどうです!? 1P忍者と2P忍者が出会った場合、ボタンを連打するんです! ボタンを連打して闘って、負けたらバッドエンド。これなら難易度調整もし易くなると思います!」


 最初の方は簡単に倒せるレベルにして、後半に進むにつれて、連打の難易度を上げていく。コンフィグで難易度調整したって良い。これならいけるでしょ!?


 モニターの向こうでは、カメレオさんとシリアルキラーさんが目配せしている。私と出会う前から仲の良かった二人だから、目配せで相手の思うところが分かるのだろう。二人は同時に頷き合う。


『オッケー。アタシはそれで良いよ』


『拙者もそれに賭けるでござる』


 良っしゃあ!! これは我ながら良いアイディアを思い付いたんじゃないの? 自分で自分を褒めたい気分だ!


 その後はそれぞれの近況を話し合ったり、現在サブスクで人気のアニメの話をしたりと駄弁りつつ、何となくそれなりの時間が過ぎたので、お開きとなってチャットアプリを閉じた。


「良ーし良し! いける! いけるぞ!」


 アプリを閉じた瞬間からガッツポーズする私に、ラブっちが冷ややかな声音で窘めてくる。


「その連打のプログラミングをするのは私なのですが? そもそも、どのボタンを連打させるつもりですか?」


「…………あはは。ラブっち任せた! 私もシナリオ頑張るから!」


「答えになっていません!」


 ラブっちの愚痴をBGMに、私は2P忍者を入れ込むように、これまでのシナリオを練り直すのだった。


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