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プロローグ ネットでファンだった人が実は上司ってアリですか?

 千紗は、今まさに会社の苦手な上司の井村に迫られていた。


「まままま、待ってくださ」

「もう待たない。絶対落とすと決めてる。君も俺を好きだと言ってくれた時は嬉しかった」

「一体なんのことですか」


 井村に好きだなんて言ったことはない。


 動画配信を生業にしている千紗には、オンライン上で恋人ごっこをしているファンがいた。その名を田吾作という。リアルで会ったことはない。


「あ、あの私好きな人が……だからごめんなさい」

「うん、知ってる。俺でしょ」


 あ、やばい。勘違い野郎だ。怖い。顔がいい奴はこれだから。


「俺が田吾作だよ。君がネットで好きだって言ってた相手は俺なんだよ。黙っててごめん。正体隠して連絡取ってたことは謝る」

「ど、どうしてその名を?」


 井村の知らないはずの名前が出てきて驚いた。


「二人が同一人物なんて信じません。一体どういうことですか」

「それを話すと長くなるんだけど……まず言いたいのは俺は君が好きなんだ。これだけまずわかってほしい」

「なにがなんだか」

「何度も通話したじゃない。高倉さん、酔っぱらって、泣いたり脱いだりして随分心配したよ」


 確かに通話したあと、朝起きたら全裸だったこともあるが、まさかそんな──。


「俺のこと好きって言ってくれて嬉しかった」

「それは田吾作さんで、井村さんではありません」

「俺は田吾作であり、井村でもある。ゆえに君の好きな人は俺である」


 ネットだけの関係だからこそ、素直になれた部分もあるというのに、それが現実社会で繋がっている人だったなんて到底受け入れがたい。

 そもそも井村と自分ではまるでタイプが違うから、恋愛なんてとんでもないと思う。


「私なんてリアルじゃただの地味なだけの人間で……井村さんとは生きてる世界線が違います」


 動画ではきわどいコスプレ姿も披露しているが、会社では眼鏡をかけて、なるべく目立たないようにしているし、人との関わりも避けている。井村が千紗に執着する要素などどこにもない。


「そんな眼鏡くらいで君のかわいさは全然隠しきれてないから。駄々もれだよ。もう嫌なんだ。オンラインだけの関係は」


 会社で見せる優しい顔とは別の真剣な眼差しに、千紗は戸惑った。人望があり、周囲からが信頼も厚い井村の別の一面を見て、まだ信じられないでいた。


「嘘だって言ってください」

「ずっと埋まらない距離がもどかしかった。君はネットでは素直に甘えてくるのに、会社ではいつも塩対応ばっかりで。嫌われてると思ってどんどん言い出せなくなったんだ」

「本当に田吾作さんなんですか」

「そう。信頼を裏切った分これから挽回させてほしい。リアルでも絶対俺に惚れてもらうから」


 千紗の意見など不要だと言わんばかりに、そのまま唇を塞がれた。


 ──一体全体どういうこと?


 いつもは紳士でさわやかな上司が、オンライン上で別人を騙り千紗を騙していた?

 ことの真偽はともかく、とりあえず頭が沸騰してなにも考えられなくなった。


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