14
「この子は天使猫の三日月です」
と言って、十六夜は太っちょの白い天使猫の三日月を見ました。男の子は、「天使猫?」と言いながら、同じように、三日月のことを見ました。
「そうだよ。よろしくね」と言葉を喋ることのできる天使猫の三日月は自分のことをじっと見ている男の子に、にやっと笑って、言いました。
すると、猫が喋ったので、男の子はとてもびっくりとして驚いたみたいでした。(いじわるな三日月は、男の子のことを初めから、驚かそうと思っていたみたいでした)
「猫が喋った!」
と男の子は三日月を見ながら、不思議なぐるぐるの瞳を大きくして、言いました。
「喋るだけじゃなくて、空だって飛べるんだよ。ぼくは天使猫だからね。ほら。よく見ていてね」と得意げな顔で言って、三日月はその背中に生えている二つの小さな白い翼をぱたぱたと羽ばたかせて、空の中をゆっくりと飛びました。
そんな鳥のように空を飛んでいる三日月を見て、男の子はまた不思議なぐるぐるの瞳を大きくして「猫が飛んでる!」と言って、びっくりして驚いていました。(三日月の背中の白い翼は作りものの飾りだと思っていたみたいでした)
そんな(驚きすぎて)口を大きく開けている男の子を見て、白ふくろうと十六夜は面白そうに、くすくすと笑いました。
三日月は男の子が驚いてくれて満足したのか、それから男の子のひざの上にゆっくりとおりました。
そして、男の子の体に自分の顔をなすりつけるようにして、甘えました。
そんな(初めて出会う、人間の男の子に甘える)三日月を見て、白ふくろうと十六夜は目をぱちぱちとさせて、驚きました。
男の子は自分に甘えてくる三日月を見て、くすっと子供っぽい顔で笑いました。(そんな男の子を見て、白ふくろうはどきっとしました)
「えっと、では、私たちの自己紹介は終わりましたので、今度は君のお名前を聞いてもいいですか?」とこほん、と小さく咳払いをしてから、十六夜は言いました。
「……、ぼくの名前」と三日月の頭を優しく撫でていた、男の子は十六夜を見て、言いました。
「はい。君のお名前です」
と(まるでお姉さんみたいな)優しい顔で、十六夜は言いました。
すると男の子は、ずっと心の奥の深いところにあって、まるで、ずっと忘れてしまっていたかのように、自分の名前をゆっくりと思い出すようにして、「……、人狼」と、そう自分の名前を下を向いて、小さな声で言いました。
「じんろう。それが君のお名前なんですね」とゆっくりとした言葉で、十六夜は言いました。
すると人狼は、十六夜を見て、こくんと小さく顔を動かしました。
……、人狼。
この男の子は人狼くん。
と白ふくろうはどきどきとしながら、(十六夜の背中の後ろで)思いました。
「ようこそ、人狼くん。ここは大天球。私たち天使が暮らしているお家です。ここには、もう一人、天使の女の子がいます。その女の子のことは、もう少しあとで、出会ったときに人狼くんに紹介しますね。楽しみにしていてください」と、にっこりと笑って、本当にそのときが楽しみだと言ったような顔で、十六夜は言いました。
「……、大天球」
とそう小さな声で言いながら、人狼はぐるりと初めてみる大天球を、ゆっくりと見渡しました。