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ハイペリオン戦記  作者: 松本 ゆうき
第2章 追われる少女
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第8話 イルマ・ハイゼ

 白いメックが立ち去った後、後方に控えていた兵士たちによって、バストラの胸部からベルグは助け出された。

 頭部を破壊されれば戦闘不能に陥るものの、胸部を破壊されなければデュナミスが命を落とすことはない。

 救出されたベルグは、まともに立ち上がることもできなかった。肉体的な損傷はないようであったが、苦痛に顔を歪ませている。


 バストラの自動帰還プログラムを作動させ、ブロデア軍はヴェルシュナーから後退していった。


 * * * * *


 ヴェルシュナーから帰ってきたのは、頭と右腕を喪失したバストラと、デュナミスとしての威厳がないほどにふらついているベルグであった。


 ブロデアの野営地のベッドに寝かされたベルグの元へ近付いてくる女の姿があった。年の頃四十半ばの女は、ブロデアのデュナミス軍服に身を包み、長い金の髪を揺らしながら、碧眼でベルグの姿を捉えている。

 そして、ベッドの脇まで来ると、ベルグの髪を強引に掴んで持ち上げた。


「情けないねェ、アルベルト!」

「イ、イルマ……ハイゼッ……!」

 その女の名は、イルマ・ハイゼといった。爵位こそベルグと同じ子爵であるが、先の大戦にも参加しており、実戦経験の面ではベルグに勝っている。その証拠に、彼は模擬戦で一度のイルマに勝利したことがなかった。


 イルマは苦しむベルグの姿を見ると、サディスティックな表情を浮かべる。

「あれだけ威勢良く出陣して行ったくせに、総統閣下から賜ったバストラを大破させてくるとはねッ!」

 彼女は激しくベルグの頭を揺さぶる。

 強制的にダイブ解除されたベルグは、激しい頭痛と猛烈な体の倦怠感に襲われている。今の彼の頭を激しく揺さぶることは、耐え難い苦痛を生む。

 この女は、それを分かってやっているのだ。さらに言えば、この行為を楽しんですらいるのである。

「レディストのメックなんかにやられて、ノコノコ撤退とはね!」

「違う……」

 ベルグは声を絞り出すように言う。

「あれは……レディストのメックじゃない……」

「レディストのメックじゃあない?」

 イルマは怪訝な顔をし、僅かに考えを巡らせると、不敵に口角を上げる。

「じゃあ、あんたは何に負けたんだい?」

 彼女は一呼吸おいて、続けた。

「アタシが《《視て》》あげるよ」

「ま、待て……!」

 ベルグが制止する声を遮って、イルマは呟く。


「ダイブ」


 * * * * *


 イルマは、ベルグの精神へと潜り込んだ。

 元来、サイコダイブは相手の精神へと侵入して情報を知る尋問に用いられており、応用として精神を病んだ患者を治療に活用された能力である。

 能力の高いサイコダイバーは、相手の精神にまるで溶け込むように入り込み、侵入された側は心地良ささえ覚える。

 イルマのサイコダイブはと言うと、かなり強引な侵入であった。まるで人の家のドアを蹴破ってくるようなものである。


 イルマはベルグの記憶を探っていく。彼の記憶にアクセスし、映像としてそれを視ることができる。

 バストラで出撃し、ヴェルシュナーを焼いている映像とともに、その時彼が感じていたことも筒抜けであった。


「これだね……」

 ベルグと退治したメックは変わった姿をしており、確かにレディストのメックではない。

 レディスト王国にはヴァンクールという名のメックがいる。ヴァンクールもバストラと同じく重装歩兵のような見た目をしている。もっとも分かりやすいヴァンクールの特徴は、頭部に二本の角が付いていることであり、その見た目からブロデアでは「二本角」とも言われている。

 しかし、ベルグの記憶から辿って視たメックには、角もなければ重装歩兵らしくはなかった。そのメックには、兵器としての無骨さは感じられず、本来兵器には不必要な「品」や「優雅さ」を備えているようであった。白い色が、より印象を強めているのかもしれない。


 この時、ベルグが感じていた戸惑いや、思い描いた戦いのシミュレーションなども、イルマには全て知ることができる。

 装甲の差で勝負が決まる。それはイルマも考えた。

 バストラの装甲なら、2~3回のスラヴァーの攻撃に耐えるはずだ。

 それに、ベルグの思考に相手を侮るといった様子もない。


 ——ならば、なぜ負けた?


 答えはすぐに視ることができた。

 白いメックのスラヴァーが金色に輝くと光波を放ち、バストラの頭部と右腕を破壊したところで、ベルグの映像が途切れた。


 しかし、完全に映像が途切れる直前に、白いメックの胸部が稼働していたのをイルマは見逃さなかった。


 * * * * *


 ダイブから復帰すると、ベルグは気を失っていた。


「ふんッ……!」

 イルマはベルグの髪から手を離すと、彼の後方部隊として現場に行った兵の元へと向かった。

 彼女がやってきた途端、ベルグの部下たちは身構える。


「この中で、メックから出てきたデュナミスを見た者はいるか!?」

 戦場に行ったすべての兵士が手を挙げる。

 その時、もっともイルマの近くにいた兵士が答える。

「ベルグ卿と戦った白いメックから出てきたのは、少女であります!」

 イルマの手が兵士の首へ伸びる。成人男性の首を片手で締め上げており、よく見ると兵士の足は地面から僅かに離れている。

「どんな女だい?」

「と、歳は……十五か六……」

「レディストの軍人か?」

「いえ……ディアンドルを……着て……いました」

「メックはどこへ行った?」

「ヴェ、ヴェルシュナー……から離れ、レディストの……方へ……おそらく、黒の森の方へ……」


 兵士がそこまで言うとイルマは首を拘束を解き、踵を返して立ち去る。

 その表情は、ベルグの姿を見ていた時以上に邪悪で猟奇的な笑みを浮かべていた。

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