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ハイペリオン戦記  作者: 松本 ゆうき
第10章 妖精の国
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第74話 退却

 エルフェン共和国側の砲撃によって阻まれたものの着実に部隊を進め、カミラ・ローゼンハイムは敵軍をダーマト海岸へと追い詰めた。クイーン・ハイペリオンもこの海岸に入っていったことは、偵察に出ていた部下からの報告で聞いている。

 海岸地帯は、メックにとってはやっかいな場所である。砂浜では踏ん張りがきかないためにバランスを崩しやすい。一撃必殺の剣撃を振るうメックにとっては、わずかな隙すら致命的だ。

 海岸には当然だが海がある。重量のあるメックは海を渡れない。メックが海を渡るには、船が必要になるが、現在沖では潜水艦を用いて軍の船を迎撃している。

 不利な地形と渡れない海を二つによって、カミラはハイペリオンを追い詰めた。


 ——あとはこのままゆっくりとエネルギーが切れるのを待てばいい。


 加えて、ダーマト海岸にはエルフェン・レディスト両軍の兵士もいる。報告によれば、その数20万とも30万とも言われている。彼らはブロデア軍によってこの海岸に追い詰められているため、充分な弾薬や食料なければ、士気も低い。

 さらに、ブロデア側は、後方の支援部隊にいくらかの損害が出たものの、メックは1騎も欠けることなくここまでやってきた。


 ——負ける理由が見あたらない。


 決してカミラは油断していたわけではないが、この戦力差はいかに相手がハイペリオンであろうと、覆ることはない。確実に詰めていけば、勝利が手に入る。そう思っていた。

「よし、全軍、これよりダーマト海岸へと進攻を開始する。砂に足を取られないように……!」

『……こち……部隊……ただ……たい……』

 ノイズ混じりの通信が聞こえる。

「邪魔だ、通信を切れ」

『こちら……くう……これは……令である』

 徐々に通信内容がクリアになっていく。

『こちら第一空戦部隊……第一機甲師団、応答せよ……ただちに後退せよ。繰り返す、ただちに後退せよ』

「後退だと? ここまで来てそんなこと出来ると思うか!」

『これは総統閣下のご命令であるぞ、カミラ・ローゼンハイム』

 別の声で通信が入ってきた。

「その不快な声はミュラー!」

 空軍将グレイ・ミュラーの声だった。

「何をしに来た! 救援を頼んだ覚えはない!」

『ここから先は砂浜だ。重いメックでは足が取られて思うように動けまい。この先は航空機による攻撃に切り替えるように総統閣下が命令を下された』

「貴様が進言したのか!」

『さあな』

「そうまでして功績がほしいか!」

『おとなしく退け、カミラ・ローゼンハイム。これは総統直々の命令である。退かねば反逆の意思ありと判断する!』

「どこまでも腐った男だ……!」

 グレイ・ミュラーは権力にしがみつく男だが、まさか作戦の邪魔をしてくるとは考えてもいなかった。


 ――これ以上進攻するわけにもいかないか。


 上空には、まるで挑発するようにブロデアの航空機が複数海岸へと向かって飛んでいく。

 ミュラーとの通信を切り、部隊メックへ向けた通信へと切り替える。

「退くぞ。これ以上の進攻は不要だ。ハイペリオンを後退させた、それだけで今は充分だ」

 部隊の兵は、誰もが不満を持っていたに違いないが、カミラの通信に異議を唱えるものはいなかった。

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