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ハイペリオン戦記  作者: 松本 ゆうき
第10章 妖精の国
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第73話 ブロデアの未来

 高速で飛来する弾体を受けて進軍の止まったブロデア軍を、アレクサンドラ・ロマノヴァは数キロ離れた山頂から双眼鏡で眺めていた。

「無敵の機甲兵団と呼ばれたカミラの兵が、まさか鉛弾を受けて転げ回るとは!」

 アレクサンドラは嬉しそうにウォッカをあおった。

 メック自体に損傷はないようで、転んでもまた起き上がるものの、順調だった進攻はぴたりと止んでいる。

「だが、いつまで止められるか」

 カミラの軍も、じりじりとではあるが進んでいる。このまま行けば、いずれエルフェン軍は接近戦に持ち込まれる。旧型メックしかないエルフェン側にとっては、接近戦に移行することは敗北を意味する。

「女王を逃がすために犠牲となる、か」

 クイーン・ハイペリオンは後方を注意しながら、撤退していく。エルフェン軍は、この戦いに勝とうとは思っていない。ただ、ハイペリオンを逃がすことのみが目的だ。

「ここで逃げ切れなければ、ハイペリオンもそこまでの人物というわけだ」

 ウォッカを注いだが、グラスに半分も注げずに、瓶は空になった。

「ウォトカの飲み過ぎよ、サーシャ」

 背後から声がした。

「よく来た、ヴィーカ」

 アレクサンドラは振り向かない。

 彼女のことをサーシャと愛称で呼ぶのは、この世に1人しかいない。腹違いの妹であるヴィクトリヤ・ロマノヴァだ。

「ヴィーカが来たんだから新しいボトルを持ってこないとな」

 新たなウォッカを開けると、ショットグラスになみなみと注ぐと、互いに一息で飲み干した。

「さあ、ヴィーカ。もう1杯飲まないか?」

「ウォトカは再会の1杯だけでいいわ。私はブランデーを飲むから」

「紅茶もあればよかったな」

「サモワールを持ち歩くわけにもいかないでしょう?」

 ヴィクトリヤはブランデーを飲みながら、戦闘の様子を眺めた。

「あれがハイペリオンね」

「そうだ。ヴィーカ、あのメックはどうだ?」

「美しいわね。それに動きも良さそう。戦闘を見られないのが残念ね」

「我が国のメックは勝てるか?」

「不可能ね」

「相変わらず手厳しいな」

「ただ逃げてるように見えるけど、動きの軽さは分かるもの。ロマノヴァ連邦のメックでは一太刀も浴びせることはできないでしょうね。たとえ、サーシャのメックであってもね」

 そう言われても、アレクサンドラは腹を立てなかった。ヴィクトリヤの言っていることは正しく、アレクサンドラ自身も幾度となくハイペリオンとの戦闘をシミュレーションしてみたが、勝つことができなかった。

「さて、問題はこの状況だ」アレクサンドラは言った。「今のハイペリオンに大した戦力はない。一方、ブロデアには豊富な戦力がある。だからこそハイペリオンは逃げているわけだ」

「なら、無事に逃げ切れたとしたら、きっと戦力を整えてくるでしょうね」

「そうなったら、ブロデアは勝てないだろう。ブロデアが西に領土を延ばすにも限度がある。そうなれば、彼らの目は東に向く。そうなれば、我が国に攻め込んでくるだろう」

「サーシャ、あなたはブロデアとの不可侵条約を結び、手を組んだんじゃないの?」

「ああ、だがあのハイペリオンのメックを見て、考えが変わった。ブロデアは負ける。ブロデアと手を組むのは得策ではない。不可侵条約は、あくまでも東への進攻を遅らせるためのものに過ぎない」

 アレクサンドラは、またグラスにウォッカを注いだ。

 彼女が見ている砲撃を浴び続けているブロデア軍の姿は、その後の国家の未来を暗示しているようでもあった。

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