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ハイペリオン戦記  作者: 松本 ゆうき
第8章 東方からの使者
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第59話 ハイペリオンの戦力

 カフェでの食事を終えたアスカ・フジワラは、レニ・ハイペリオンに案内されて郊外へ移動した。

 街から車で1時間ほど離れた場所に倉庫のような建物が建っていた。

 周囲には民家もなく、宿舎に使えそうな古びた建物が1棟あるだけだ。


「ここは一体……」

 アスカは建物を眺める。

 窓からは何人かの視線を感じるが、暗過ぎてどんな人相なのかも分からない。

「アスカさん、あなたに見せたいものがあるんです」

 レニは微笑んだ。

「それは重要なものですか?」

「ええ、とても……」

 そうやって油断したところを殺そうとしているかもしれないから、決して気を抜けない。


 倉庫の入り口にはエルフェンの兵士が立っていたが、レニの姿を見るなり背筋を伸ばして敬礼する。

「ご苦労様」

 レニは彼らに優しく声をかける。

「彼女に中を案内したいの。通してくれる?」

「はい!」

 勢いよく返事をした兵士は、倉庫の扉を開けてくれた。


 中にはいくつかの木箱が置いてある。食料や生活用品など品名が刻印された箱が多かったが、中には何が入っているかも分からない木箱もあった。

 ここは食料などを備蓄している施設なのだろうか、とも思ったが、それにしては郊外にあるのはおかしい。倉庫までの道は悪く、交通の便はお世辞にもいいとは言えない。荷物を運び込むにも運び出すにも手間がかかってしまう。


 ——カモフラージュか。


 積んである木箱の間を通っていくレニの背中を追いかけながら着いていくと、まるで隠すように配置された地下への階段があった。

「ここを降ります」

 振り向かずにそう言うと、レニは階段を下りていく。

 何が起こるか分からないから、すがるようにしてスラヴァーに手を伸ばす。


 階段はかなり長く、10メートル以上は降りたであろうか。

 地下は明かりも少なかったが、下へ降りた頃には目が慣れていた。

「これは……」

 アスカが目にしたものは、一騎のメックであった。第三世代の特徴があり、細身で装甲が薄い。

「現在のクイーン・ハイペリオンです」

 レニは白いメックの足元へ向かい、そう言った。フォルネの戦いでは白と銀と青の装甲をまとった3騎のメックが活躍したとされている。

 目の前のメックは、クイーン・ハイペリオンの特徴にぴたりと一致する。白い装甲と、頭部から伸びた1本の角は、ハイペリオン王家を象徴したものらしい。しかし、様子がおかしい。大部分の装甲が外されており、女王と言うよりはまるで敗残兵のような雰囲気さえある。

「物資が不足しており、1年前の戦いの損傷を修復できていません」

 レニは、クイーン・ハイペリオンの脚部を撫でる。

「動かせるのですか?」

「ええ、動かすことはできます。ですが、ヴリル残量が40%を切っています。1度戦闘ができるかどうか、と言ったところでしょうか」

 メックは戦って初めて戦力になる。動くだけではただの効率の悪い乗り物でしかない。

「これが私の……ハイペリオンの戦力です」

 レニは苦笑いしながら言う。

 ヤーパンにいた頃は、ハイペリオンには計り知れない戦力がある、と考えられていた。だからこそハイペリオンの動向も気にしていたし、同盟を結べれば今後のヤーパンは大いに発展する、とさえ信じられていた。

 だが、事実上レニ・ハイペリオンが保有している戦力はゼロに等しい。

「アスカさん……これで戦えると思いますか?」

「はっきり言わせていただければ……無理でしょうね」

「そうです……私の持っている戦力は無いのです。他国が感じているのは我々の戦力ではなく、ハイペリオンの幻想です」

「それでもブロデアの侵攻を思い止まらせるだけの効果はあります」

「確かに……ですが、そう長くは続かないでしょう。この現状が敵国に知られればすぐにでも攻められてしまいますし、こちらに抵抗するだけの力はありません」

 ハイペリオンの血族という圧倒的な力を有しているにも関わらず、あまりにも弱気なレニの様子は、アスカにとってはとても意外であった。

「もし攻められたら……?」

「そのときは……クイーン・ハイペリオンを連れて逃げるでしょうね」

 メックを見上げるレニの表情は、愛おしい者を見つめるようだった。

「これはエルフェン共和国全体にも言えることです。旧型のメックを国境に配備し、ハイペリオンの影響力で何とか防衛しているようなものなのです。ヤーパンから技術提供を受けたとしても、我々にはその技術を活用できるだけの設備を持っていません」

「国家の利益を考えたら、ブロデアについた方が良さそうですね」

 アスカはそう言ったものの、再び心がチクリと痛んだ。

 ブロデアと組むのがごく自然な選択だ。しかし、それはレニを敵に回すということになる。


 ――彼女のために何かしてあげたい。


 そう考えたものの、アスカ一人の力ではできることなど限られている。彼女のヤーパンでの立場は低い。政治的な発言力も、軍部での影響力もないのだ。


 倉庫を出たとき、敷地内に一台のトラックが停まっていた。男たちが忙しく荷物を運び出している。

「ああやって、ときどき倉庫の食料なんかを足りないところへ運んでいるの」

 レニは言う。

「おかげでここはいつも食料不足」

「ここには兵士もいるのですから、少しくらい多めに持っていても……」

「近くに畑もあるので、何とかなってます」

 これはお人好しというべきだろうか、それとも慈善家といったところだろうか。

 だからこそ、レニ・ハイペリオンを慕う者もいるのだろう。

「でも、いつもの人たちとは違いますね……」

 レニはトラックの方を見ながら言う。

 アスカも男たちの様子を観察した。

 帽子も目深に被り、どことなく落ち着きのない様子である。

「まずいですね、このままでは」

 それよりもアスカが気になったのは、唇の動きからするに彼らが仲間の間で話すときの言葉がブロン語であることだった。

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