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ハイペリオン戦記  作者: 松本 ゆうき
第8章 東方からの使者
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第57話 対面

 アスカには、やらねばならないことがあった。

 1つはブロデア帝国軍のカミラ・ローゼンハイムと会うことだった。ヤーパンの政治家が行くより、学生時代の友人でもあるアスカが行ったほうがいいだろう、という判断から彼女が派遣された。

 もう1つはエルフェン共和国のどこかにいると言われているレニ・ハイペリオンを探し出すことだ。ただ、彼女は政治の表舞台に立つことないため、どこにいるのかも分からず、政治的発言力をどの程度持っているのかも知られていない。

 聞けば、レニ・ハイペリオンは可憐な少女であるとも、恐ろしい女戦士であるとも言われている。

 そんな少女の動向を国家が気にするのは、彼女がハイペリオンの血族だからである。

 絶えたと思われていたハイペリオンの血が復活した、という事実はあっという間に世界中を駆け巡った。

 ある者はその強大な力を利用しようと近付いたが、とうとう見つけることができなかった。

 またある者は、永久にハイペリオンを抹殺しようと企んで密かに部隊を派遣したが、暗殺部隊は誰一人として帰還しなかったという。


 ヤーパンとして会談を申し入れたとき、さすがに相手は受けないろうと考えていたが、あっさりと実現した。

 条件は、指定されたエルドアのカフェに1人で来ること。

 どんな危険が待ち受けているかも分からないため、向かうのは自然と戦闘能力の高いデュナミスに限られた。

 話し合いに末、アスカが選ばれた。カミラとも縁があり、戦闘力が高い。会談とは言うものの、実際は敵情視察である。両国を見て、ヤーパンの益になるのはどちらなのか、それを見極める。

 本国は今にも戦争を始めるために政治家が動いている。彼らは、ヤーパンは必ず戦争に勝つと信じて疑わない。

 戦争を始めるのは政治家であり、戦うのはデュナミスである。

 だが、戦争にならなければデュナミスたちは存在する意義を失う。

 彼女の行いや発言が、祖国の発展させるかもしれないし、破滅させるかもしれない。


 ——とにかく落ち着かなければ。


 冷静にならなければならない。

 自分の不用意な一言が戦争を招く可能性があり、2度目の世界大戦ともなれば何万人が犠牲になるのか見当もつかない。


 市内のカフェで待ち合わせるというのも珍しいことではあるが、合理的である。見通しがいいカフェなら敵がいるかどうかも把握しやすく、いざ戦闘になったとしても動き回ることができる。きっと1人で来たことを確認した後、どこかに移動するのだろう。

 指定されたカフェに入り、メニューを眺める。

 考えが煮詰まったとき、アスカは甘い物を食べるようにしている。特に留学中に食べたパイが気に入っており、ヤーパンに帰国してからも真似してみたものの上手にいかなかった。

 カミラのところでたくさん食べたものの、本日のおすすめで「ブルーベリーのパイ」を見つけてしまったから、どうしても頼んでみたくなる。指定された時間にはまだ余裕がある。

 エルフェンの言葉はまだ上手く話せないため、ブロン語を交えながら、店員にブルーベリーのパイとコーヒーを注文する。

 待っている間、周囲を観察した。

 国境が遠いからか、そこまで戦争の雰囲気はないものの、活気があまりないような気がする。待ち行く人が、何か怯えているような視線をアスカに投げかける。

 その視線が腰元あたりに集中しているのを知り、彼女のスラヴァーを気にしているのだとようやく気が付いた。

 ヤーパンのスラヴァーは大陸の物とは違い、細身で軽量だった。見慣れないのは仕方がないだろう。

 なにより、明らかな武器がそこにあるのだから、気にするな、というほうが無理というものだろう。

 上着を脱いで、スラヴァーを覆う。不自然であるが、この場はしのげるだろう。

「ブルーベリーのパイもいいですけど、ストロベリーパイもおすすめですよ」

 突然女性の声がしたので顔を上げると、帽子を目深に被った少女が目の前の席に座った。

 少女はアスカの注文したブルーベリーパイを差し出した。

「えっと……お店の方……ではないみたいですね」

「ええ、そうです」

 すると少女は帽子を取った。

 艶のある、滑らかな黒髪が溢れ出る。

「はじめまして、レニ・ハイペリオンと申します」

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