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ハイペリオン戦記  作者: 松本 ゆうき
第7章 7月10日
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第52話 揺らぐ決意

 クイーン・ハイペリオンと名乗ったメックとの戦闘が始まろうとしていた時であった。


「接近する機体があります!」

 ベルグはカミラとリアに通信する。2人ともクイーン・ハイペリオンとの戦いに集中すりために、余計なセンサーを切っているのだろう。異変に気付いたのはベルグだけだった。

「数は……10騎……識別はグレートアロン王国のメックです!」

『クイーン・ハイペリオンは私が相手をする。ベルグとリアはグレートアロンのやつらを倒せ。終わり次第合流しろ』

 ケーニギンが離れていき、クイーン・ハイペリオンもそれに続く。


 同時に、遠方から土煙が上がっているのを確認した。

 センサー上では、グレートアロン王国のメックは旧型の機体である。新型機であるゾルダートであれば、決して負けはしない。

 グレートアロンのメック・シュメイルが、ベルグとリアをぐるりと取り囲む。

「リア、あまり前に出るな。やつらの動きに……」

 ベルグはリアに通信を入れるが、何か小さな音だけが返ってくる。

「……リア?」

『……イルマ様……』

 リアのシュライが一歩踏み出した。


 素早い新型機は、敵の動きを見てから攻撃を繰り出した方が有利である。特に複数のメックを相手にする時には、わざわざ自分から隙を作りにいく必要はない。

 シュライはスラヴァーを振り下ろす。


 ——我を失っているッ……!


 復讐を胸に戦場へ飛び出せば、心はあっという間に冷静さを失ってしまう。今のリアがまさのその状態だ。

 助けに行きたかった。

 しかし、彼もまた戦闘中なのである。


 ゾルダートに向かって、シュメイルが二騎走ってくる。シールドを装備している分、スピードはないが防御力がある。

 2騎は左右に分かれ、シールドを体の前に構えている。あのシールドはスラヴァーで貫くのは難しい。


 ——ならば、シールド以外を攻撃するだけだ。


 ゾルダートは2騎のメックを引きつける。

 左右からスラヴァーが襲いかかる。

 避けるべきか受け止めるべきか。ベルグは一瞬のうちに複数回シミュレーションを行う。

 2騎の間をすり抜ける。


 ——背後なら守る物は何もない。


 振り向きざま、シュメイルの頭部を2騎まとめて破壊する。

 最初の動きは派手にして、相手に恐怖を植え付けなければならない。恐怖で敵の動きを制限すれば、ベルグが戦いやすくなる。


『ああッ!』

 リアの悲鳴が聞こえた。

「リア!」

 ベルグが見た時、シュライの右腕が失われていた。

 前に突っ込み過ぎたせいだろうか。足下に4騎のシュメイルの残骸が転がっている。敵を倒せたのはいいが、武器を失っては意味がない。


 考えるより前に、ベルグの足が動いていた。

 シュライを助けるのが最善なのか。自らの身の安全を優先するべきなのか。思考する冷静さを失っていた。


『来てはいけません!』

 シュライのヴリル・エネルギーが高まっている。ゾルダートのアラートがけたたましく鳴っていた。


* * * * *


 ——右腕と引き替えに、4騎を破壊できた。


 さすがに前へ出過ぎたようだ。

 シュライに搭載された自爆装置を作動させる。

 クイーン・ハイペリオンをこの手で倒すことができなかったことが、唯一の心残りであるが、きっとカミラ・ローゼンハイムが成し遂げてくれるはずである。

 ヴリル・ジェネレーターのうなり声は、さらに高くなる。

 死ぬことに恐れはない。


『リア、死ぬんじゃない!』

 彼女の固い決意は、ベルグの一言で揺らぎ始める。


 ——私は……


『生きるんだ、リア!』


 ——恐れてなんかいない……


『リア!』

 気が付くと、リアはダイブアウトしていた。

 胸部コクピットから出ると、ゾルダートの左手に飛びついた。

「走って! 機体が爆発する!」


 ——私は何をしているのだろう。


 頭のどこかでは冷静に自分を見ている。

 大地が揺れた。

 強烈な光が広がる。

 ゾルダートはスラヴァーを捨て、リアを手の中に包み込む。


 衝撃波がメックごと吹き飛ばしていった。

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