第49話 凶暴な闘争心
午前2時、エルフェン共和国領内のフォルネ平原に8騎のメックが向かい合った。両者の距離は500メートルほど離れている。
カミラ・ローゼンハイムのケーニギンに搭載された各種のセンサーは白いメックを捉えていた。
——あれが白いメック。
イルマのメックから回収された映像で見た姿とは違い、シールドもなく、装甲も薄くなっている。全体的にほっそりとしているものの、メックとしての力強さを感じる。
しかし、相手のメックも改修されていることを予想して、ブロデアのメックは調整されている。白いメックの姿が変わっていたとしても、それは予想の範囲内である。
白いメックの横には2騎のメックがいる。
——あの青い装甲はアウグストのメックか。
レオポルト・アウグストと直接戦ったことはないが、なかなか強いという噂は聞いている。相手を翻弄する戦いや、馬鹿にしたような動きをするものの、剣の腕はかなりのものだという。
——銀色の方は……ヴァイスザッハか?
銀光のヴァイスザッハという名前を知らない者はいないだろう。剣技に関しては右に出る者はいない、とさえ言われている。彼に指導を請う者は絶えず、エルフェン共和国のどこかにいるとは聞いてたのだが、まさか目の前に出てくるとは思わなかった。
それでもカミラは慌てることはなかった。
あくまでも、カミラの目的は白いメックである。それさえ達成できればいい。仮にヴァイスザッハやアウグストのメックを相手にすることになっても、負けることなどあり得ない。
カミラの能力である超加速は、メックを操縦している時には制限がかかる。僅かにメックの動きは速くなるが、それ以上は機体がついていかないのである。ただし、周囲の時間は歪んで遅くなるため、相手のゆっくりした動きをじっくり見て対策を練ることができる。
メックの総数も5対3で明らかに勝っている。
——勝てる……この戦い。
カミラは勝利を確信したが、決して油断してはできない。勝利を確信した時ほど、足下をすくわれやすい。
「レヒトは青いメック、リンクは銀のメックの相手をしろ。ベルグとリアは私と白いメックを倒す」
レヒトとリンクのメックが動き出すと、それに対応するように青と銀のメックも移動を始める。
フォルネ平原には、4騎のメックが残された。
カミラは白いメックに向かって通信を入れた。
「ブロデア帝国、カミラ・ローゼンハイム侯爵、メックはケーニギンだ。そこの白いメック、名前を聞いておこうか」
『私はレニ』
白いメックに乗っているデュナミスは少女である、とは聞いていたが、改めて聞くと軍人らしからぬかわいらしい声がした。
『……レニ・ハイペリオン』
「ハイペリオンだとッ……!」
そんなはずはない。ハイペリオン王家はもう存在しないはずである。
『機体名は……クイーン・ハイペリオン!』
——ふざけた名前をッ……!
ハイペリオンの名前は、デュナミスでなくとも知っている。すでに存在しない名前のため、それは半ば伝説と化している。
だが、そんなことで怯むカミラではない。ローゼンハイム家は名門であり、彼女はその中でも最強の能力を持っている。これまで一度も負けたことはない。そして、これからも負けるはずがない。
カミラの中にある魔獣のように凶暴な闘争心が膨れ上がっていくのを感じた。




