第42話 新型機完成
出撃の日が近付くにつれ、レヒトの闘志は高まっていった。
元々、レヒトは好戦的な性格である。それは双子のリンクも同様であった。これはヴァッケンローダー家の特徴でもあった。
ヴァッケンローダー家は、死刑執行人の一族だった。かつて革命の嵐が吹き荒れた時も、数多くの人間を処刑していった。死刑の執行には武器や道具に対する知識も必要になるが、人体についても知らなければならない。どこを斬れば速やかに命を奪えるか、どこを傷付ければ痛みを与えられるのかなど、長い時間をかけて一族は人殺しを技術を高めていった。
その知識を用いて拷問の執行にも携わり、邪悪な精神をじっくりと育てていった。その精神は世代を重ねるごとに強くなっていく。死刑執行人が必要ない時代になったとしても、ヴァッケンローダーの一族の性格は変わることはなかった。
そして、一族に双子が誕生した。美しい金髪だが、左右で目の色が違っていた。「レヒト」「リンク」と名付けられた双子は、ヴァッケンローダーの呪われた血の結晶ともいえる邪悪な精神を宿していた。
幼い頃の少年たちは、児童文学ではなく人体解剖図を見て無邪気な笑顔を浮かべていた。文字か読めるようになると、死刑執行について知りたがり、ヴァッケンローダー家の過去の記録を読み漁っては空想することを楽しんでいた。
邪悪さだけでなく、デュナミスとしての能力も非常に高く、一族でも最強とも言える才能を持っており、七歳の時にヴァッケンローダー家の剣術指南役を1人で倒してしまった。
少年たちの強さは軍に知られることとなり、その時にやってきたのがカミラ・ローゼンハイムであった。
——ボクたちが負けるはずがない……まして女になんか。
実力を見せてほしい、というカミラに対して、レヒトはそう思っていた。少年には、自分たちは大人の剣術指南役を倒せたのだ、という圧倒的自信があった。それが例え軍人であろうと、負ける気がしなかった。
だが、カミラには敵わなかった。惜しい、という感覚さえ抱けないほど、完璧なまでに敗北した。レヒトとリンクが2人で挑んだとしても、勝敗が覆ることもなく、チャンスを生み出すことさえできなかった。
カミラの能力が知覚できないのである。どんな能力かも分からないまま、気付いたら一方的に敗北している。
人生で初めての決定的な敗北だった。
この時の戦いの様子を気に入ったのか、カミラは2人を軍で引き取ることにして、今の地位がある。
——いつかは倒してやる。
レヒトはカミラに対して常にそういう感情を抱いている。新型機の訓練の際にも、本気でカミラの殺すつもりで戦っている。しかし、幾度戦おうとも、実力差が埋まる気配はない。
カミラはまるで化け物のように強かった。
そして、彼女の執務室に行く時、レヒトはいつも複雑な感情を抱く。恐ろしさと悔しさ、信頼と敵意、尊敬と侮蔑の入り交じった不思議な感情であった。
部屋へ入ると、カミラがレヒトへと視線を向ける。
「レヒト、訓練の様子はどうだ?」
「ベルグもリアも、なかなか使えるようになりました。我々ほどではありませんが」
「それはそうだろう」
カミラは笑った。
「本日午後、予定通り新型機の生産が完了します。出撃を1日早めることもできます」
「いや、作戦は予定通り明後日の7月10日とする。明日1日は全員に休暇を与えるつもりだ」
「そうでしたか」
「お前たちもヴァッケンローダー家に一度顔を出してみてはどうだ?」
レヒトは言葉に詰まった。
生家に戻ることに、意味は感じられない。
——あの家に居場所はない。
軍だけが、唯一の居場所である。
「いえ……出撃前ですので……」
「そうか……好きにするといい」
——この女、わざと言っているのか?
感情が表情に出てしまう前に、レヒトは部屋からそそくさと出て行くことしかできなかった。
* * * * *
新型メックが5騎、レヒトたちの前に並んでいた。訓練機とは違い、装甲を身に纏っていた。
新型機用に生産されたスラヴァーは従来の物よりも高出力で、メックのシールドに対してさえ深い傷を負わせることができるらしい。ヴリル放出器を左腕に装着し、スラヴァーを物理的に防ぐのではなくスパークで弾くことを目的としている。
真紅の装甲のケーニギンは、カミラの専用機である。訓練でも彼女はケーニギンに乗っていたが、強さは圧倒的であった。性能も良く、デュナミスの能力も高い。従来のメックよりも細身で、優雅さも兼ね備えた機体だ。女王という名前にふさわしい佇まいである。
レヒトには右肩に金色の装飾の施された緑色の装甲のメックが与えられた。ケーニギンと比べて男性的な印象も受ける。リンクには左側に金の装飾がされたメックが与えられている。それぞれ訓練のデータが反映されている専用機のため、機体名が付けることができる。レヒトはズィーガー、リンクはズィークと命名した。
ベルグ用の機体は、バストラと同じ褐色の装甲であった。これはベルグ自身の希望があったらしく、バストラでの敗北を忘れないように、という思いが込められているらしい。機体名はゾルダートと彼は名付けていた。
そしてリアのメックも褐色の装甲であるが、右肩に髑髏と薔薇がペイントされている。あれは確かイルマ・ハイゼのパーソナルマークだったはずである。しかし、ただハイゼ家を背負って戦っているようには見えない。もっと覚悟を決めた表情でメックを眺めている。少し迷った後、機体の名前をシュライと名付けていた。
出撃の準備は整った。




