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ハイペリオン戦記  作者: 松本 ゆうき
第6章 出撃準備
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第41話 女王の風格

 レニの剣を振る音が、訓練を重ねるごとに洗練されていった。

 元々、ハイペリオンの血族のデュナミス能力は非常に高いのだが、それに訓練が加わったことで更なる力を手に入れていた。

 剣技で名の知れたヴァイスザッハの二刀流でさえ防ぎきり、なおかつ反撃さえしてくる。


 ——まったく……恐ろしい。


 この調子では、いずれヴァイスザッハなど足下にも及ばなくなってしまう。それは嬉しくもあり、寂しくもあった。まるで娘の成長を見守る親の気持ちである。

 直接血は繋がっていなくとも、弟が育てた娘である。


 ——マヌエル、よく育ててくれた。


 剣の達人であるヴァイスザッハは、相手の剣技を通してその心の中をある程度見ることができる。清い心の剣は美しく、邪悪な者の技は禍々しく感じる。

 レニの剣から感じるのは、神々しいまでの輝きだった。これがハイペリオンの血なのか、とさえ感じる。自分にも僅かながら流れているはずの血なのだが、まるで違う。

 ヴァイスザッハが距離を詰め、右の剣で薙ぎ払う。避けられても攻め直すことができる。防がれても、左の剣で追撃できる。


 ——さて、どうする?


 レニの体が動いた。後ろへ大きく下がる。大きく後退すれば、追撃される心配はなくなるが、同時に自らの反撃の手段を捨てるということも意味している。

 しかし、ただ下がっただけではなかった。レニは剣を下段に構えている。無意味な行動で相手を油断させよう、などという姑息な手は使わないはずだ。だとすれば、レニの行動にはどんな意味があるのだろう。


 彼がある結論に達したのは、その直後であった。

 レニの剣が動いた。

 ヴァイスザッハの全身の筋肉をフルに使い、横へ飛び退く。

 今まで彼がいた場所を、エネルギーを帯びた疾風が通り過ぎる。

 離れた相手でさえも倒すことができる剣技・闘牙疾風 (オーラ・ストライク)である。並のデュナミスでは習得するだけも苦労する大技であり、仮に使えるようになっても威力を高めるだけで一生を費やしてしまうことだって珍しくない。16歳の少女が高威力の大技をいとも簡単に放ってしまった。


 疾風が通り過ぎると同時に、レニの剣はヴァイスザッハの首元を捉えていた。

 闘牙疾風に気を取られていたが、それもほんの僅かな時間でしかなかった。剣は首に触れる直前で止められていたが、これが実戦であれば命を失っていた。

「……強くなりましたな」

 レニは剣を下ろす。

「ヴァイスザッハ……何か考え事?」

 集中力を欠いていたことを見透かされている。

「レニ様には敵いませんな」

「何を考えているの?」

「あの闘牙疾風、威力もスピードも素晴らしいものです。並の者が一生を費やしたとしても、あれだけの技は使えません。その才能を、私は恐ろしいとさえ思いました」

「私が恐ろしい……?」

「恐ろしい、という言葉では言い表せないかもしれません。ハイペリオン王家の王位継承者とは、こんなに違うのかと」

「確かにそうかもしれません……実を言うと、私も戸惑っています」

「レニ様も?」

「今までも私はデュナミスとしての力を持っていました。必死に力を隠していましたが、ヴァイスザッハに訓練を受けていましたから……例えて言うなら、小さな泉に水が湧き出すように、少しずつですが確実に力は宿っていました」

 レニは手を握り締める。手の平にある力をしっかりと掴もうとしているようであった。

「しかし、ここ数日の訓練で私の中に溢れ出す力の量が変わってきました。泉から溢れてしまうほど、体の奥底から噴き出してきているんです。それと同時に、泉がどんどん大きくなっているんです」

 レニもまた、その膨れ上がる能力をどう受け止めるべきか困惑している。

 確かに、今のレニの体からは針のように鋭い闘気のようなものが漏れているように感じる。

「レニ様、幼い頃に教えた精神の統一は覚えていますか?」

「ええ……」

 そう返事をすると、レニは目を閉じる。

「呼吸は深すぎず浅すぎず自然に……意識を少しずつ小さく……心の中を無にしてください。何も考えないことを考えるのではなく、精神を無の状態に」

 これはデュナミスの能力の制御に用いられる精神統一方法である。かつて修行僧や修道士が生み出したとされるもので、今では能力だけでなく精神の安定を保つためにデュナミスの多くが習得している。

「デュナミスの力は、体中の細胞から生み出されます。1つ1つの細胞からの力の放出を穏やかにさせてください。焦らずゆっくり……それがコントロールすることに繋がります」

 レニの力の放出が収まるのを感じる。圧力が弱まり、体の奥へと入っていくようであった。

「溢れ出した力は行き場を失い、暴走してしまいます」

 長く細く息を吐き出すと、レニは目を開いた。

「ありがとう、ヴァイスザッハ……落ち着いたわ」

 その表情は柔らかく、穏やかであった。


 ——女王としての風格が、少しずつだが出てきたか。


 2人の訓練はまだ続いたが、レニの剣技はさらに洗練されていった。

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