第39話 リアの想い
ベルグは訓練が進むにつれて、自分には特別な能力のない人間である、と思い知らされることとなった。
レヒトとリンクはまだ少年であるにも関わらず、戦闘のセンスはベルグを遙かに越えていた。何度戦ったとしても、勝てないのである。子供は大人と力比べをしても勝てないが、このときばかりはその常識は通用せず、ベルグと少年たちの間には圧倒的な戦闘能力の差があった。
2人の方がメックをうまく扱え、まさにメックと一心同体になったように乗りこなすのである。
そして、カミラはレヒトやリンク以上に強かった。ベルグより強い少年たちでさえ、足下にも及ばないのである。当然、ベルグが相手になるはずもない。例えて言うなら、赤子と大人である。
訓練の中、カミラのメック・ケーニギンに斬りかかった時である。
渾身の力を込めてブレードを振り下ろしたが、刃はケーニギンに触れることはなかった。不意打ち気味の一撃でさえ、あっさりと避けられる。
ブレードだけではない。拳も蹴りでさえも、当たることはなかった。まるで、全ての動きを予知しているとしか思えないような、異様な動きであった。
唯一の救いといえば、、3人とも味方であるということだろう。訓練であるから、倒されはするものの、命までは奪われることはない。敵対すれば身が震え上がるほど恐ろしいが、味方にいればこれほど心強いことはない。
白いメックの強さは、ベルグは誰よりもよく知っている。だが、カミラの強さには到底敵わない。白いメックがカミラと戦った場合、何分持ちこたえられるだろう。いや、60秒以内に決着が付いたっておかしくない。
自らの戦闘能力の低さを嫌というほど思い知らされる一方で、驚いたこともある。
それはリアのことであった。
イルマ・ハイゼの訓練相手をしていたそうで、メックの戦闘経験もその時に培ったという。
彼女の戦い方は、カミラにもイルマにも似ていなかった。とにかく前へ出て、攻めてくるのである。最初はそういう戦い方なのか、とも思っていたのだが、それにしては前に出過ぎている感もあった。
まるで、防御を捨てているようでもある。
ある時、ベルグはリアに戦い方を訪ねた。
「イルマ様に戦い方を教えてもらいました」と、リアは言った。
「確かに、イルマ卿は攻撃に重きを置いた戦い方をする……しかし、君の戦い方は……」
「死に急いでいるようですか?」
リアは不敵な笑みを浮かべる。
「そうだ。君の戦い方は死を恐れないどころか、死に急いでいる者の戦い方だ」
「ベルグ卿の言う通りです。私は死を恐れていません」
彼女は淡々と言う。
「どうしてそこまで……」
「イルマ様のためです」リアは静かにそう言う。
「復讐か……?」
「そうです。私は復讐のためにメックに乗っています。イルマ様の仇を討たなくてはならないんです」
「仇討ちを責めるつもりはない。むしろそれはリアの忠誠心の高さを表しているのだからな。だが、死んでしまっては意味が……」
「命など惜しくはありません。白いメックは私が刺し違えたとしても倒します」
何という覚悟なのだろう。これは忠誠心なのか。いや、執念なのかもしれない。それとも、もっとどす黒い感情なのだろうか。
「気分を害したのであれば、謝ります。しかし、戦い方を変えるつもりはありません。今度の出撃が、私の最初で最後の出撃です」
リアは一礼し、ベルグの前から立ち去った。
——私には、あんな覚悟はできるだろうか。
ベルグは不意にそう思った。
命を捨てる出撃など、考えたこともない。戦果を上げて、生きて帰還する。それこそがデュナミスの戦い方であるとベルグは教わってきた。
だが、リアは違う。恐るべき気迫で戦闘に臨もうとしている。その気迫に、ベルグは今まさにたじろいでしまった。戦闘経験は彼の方が上回っているはずにも関わらず、である。
——私には何ができる。
自室に戻った後も、設計書を眺めながら自問自答を繰り返していた。




