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ハイペリオン戦記  作者: 松本 ゆうき
第5章 拡大する戦火
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第38話 ブロデアの部隊

 設計書を読み終わったベルグは衝撃を受けた。それは、戦場に飛行機や戦車が登場してきたのと同様、いやそれ以上に衝撃的であった。

 新型機のスペックは、バストラとは比べ物にならないほど高い。実機に触れなくても、紙の上で分かるほどだ。

 装甲は従来のメックと比較しても薄くなっているが、低下した防御力は機動力へと変わっている。大きくて重いシールドも無くしたことで、さらに軽量化しており、各関節もバストラに採用されているものより複雑になっているが、性能は格段に向上している。

 これは、まるで白いメックの設計思想そのものではないだろうか。

 白いメックと対峙したことのあるベルグだからこそ、新型メックの有用性が身に染みて分かる。そして、この設計書に書かれたメックは、まさにその有用性をブロデア帝国として形にしたものと言える。


 ——メックが大きく変わろうとしている。


 戦争中、メックは恐るべき進化を遂げていたが、先の大戦が終結してから約10年間、メックに大きな変化はなかった。ヴリル・ジェネレーターの性能向上や、デザインの部分では多少の変化はあったものの、それはメックという兵器を改良したものであり、進化させたわけではなかった。

 しかし、この新型機は違う。戦争に大きな変化をもたらすほどの影響があり、これが戦場で活躍することになれば、全ての兵器は過去の物となってしまう。


 ——なるほど、これでは勝てぬわけだ。


 バストラで白いメックに負けたことは、ベルグにとって屈辱であったが、ブロデアの新型機のスペックを知った今となっては、勝てないのは明白である。鋼鉄の鎧を着ている騎士が、陸上競技で良い記録を残せないのと同じことだ。

 だが、ベルグにも新型機が与えられる。これでようやく、あの白いメックと並ぶことができる。いや、スペックを見る限り、白いメックを遥かに凌駕している。

 あとはデュナミスの能力差である。シールドでの受け方はあまりうまくなかったことから、白いメックに乗っていたデュナミスは、そこまで戦いに慣れていないのだろう。


 ——こちらにも、まだ勝機はある。


 設計書を頭に叩き込んだベルグは、カミラの指定した試験場へと足を運んだ。ついに実機による訓練である。ダイブアウト障害の影響もない。肉体も疲労は残っておらず、万全の状態である。

 試験場では新型機が2騎、模擬戦を行っていた。

 予想通り、いや、それ以上の動きをしている。模擬戦用のブレードが振るわれる度に、バストラの斬撃とは違う鋭い空気を切り裂く音がする。複雑なはずの新型機の関節はスムーズに動き、足の運び方は滑らかで、それが機械であることを忘れ、大きな人間であるように錯覚してしまうほどだ。

「驚いたか?」

 カミラはベルグに近づくと、そう言った。

 驚きよりも、感動すら覚える。

「設計書は覚えてきたな?」

「はい、すべて記憶しております」

「ならば、聞こう。ブロデアの新型メックはどうだ?」

 カミラの問いに、ベルグは素直な気持ちを口にした。

「メックの性能だけなら同等か、それ以上。相手はシールドを持っていますから、重量の点で我が方が有利です。動きの素早さだけを考えるなら、こちらの性能の方が上です」

「なかなか素直な意見だな」

「あと、白いメックにはスラヴァーから光波を放ちます」

「報告にあったな。光波は避けられそうか?」

「新型機の性能ならば、油断さえしなければ……」

 新型機同士の模擬戦が終了したのか、メックの動きが止まった。


 胸部装甲が開き、デュナミスが降りてくるが、その姿を見てベルグは我が目を疑った。

「……子供……?」

 美しい金髪の少年であった。だが、それ以上に驚いたのは、両騎から降りてきた2人はまったく同じ顔だった。

 2人はベルグの前にやってくる。よく見ると、同じ顔をしているが、瞳の色が左右で違う。右目だけ青い少年と左目だけ青い少年であった。

「やあ、キミがアルベルト・ベルグだね」

 右目が青い少年が言葉を発した。

「まあ、驚くのも無理はないね。ボクはレヒト」

 レヒトと名乗った少年は左目が青い少年を指さす。

「彼はリンク。レヒトリンク だなんて、ボクたちの親は安直だね」

「えっと……君たちは……」

 ベルグがそう言った時、レヒトの目が鋭くなる。

「ボクたちはヴァッケンローダー家、爵位は伯爵……つまり子爵のキミより上だ。覚えておくといい。口の利き方には気を付けたまえ」

 リンクと呼ばれた少年の方を見るが、彼もベルグを鋭く見据えている。背筋が凍り付くような、冷たくて恐ろしい視線である。

 この少年たちは、ベルグの半分以下の年齢に関わらず、まるでカエルを握り潰そうとしている直前に浮かべる残虐さの入り交じった視線で、どうして年上のベルグを見ることができるのだろう。

「彼らも新型に乗ることになった」カミラは言う。「見た目こそ少年だが、その辺のデュナミスよりも遙かに強い」

 ベルグから見れば、レヒトもリンクも怪物のように思えた。

「さて、ベルグ……さっそく腕前を見せてもらおうか」

 カミラに言われ、ベルグは一礼すると、新型機へと近付く。足下まで行くと、改めて機械の構造の美しさに見入ってしまいそうになる。ここでカミラを失望させるわけにはいかない。新型機で白いメックを倒さなければならない。


 すると、もう一方のメックの起動音がした。すでに模擬戦相手はメックに乗り込んでいる。

 ベルグも急いで胸部のダイバールームに乗り込む。

「……ダイブ!」

 体の感覚が一瞬失われ、新型機とベルグの神経が接続される。

 ブレードを構え、相手メックを捉える。実際にダイブしてみると、設計書以上に反応がいい。


 ——これなら、いける!


 模擬戦相手が動き出した。素早い動きだが、新型機の反応で対応できるスピードである。相手の剣筋を読み、ブレードで受け流す。

 ブレードを切り返し、ベルグは頭部を狙うが、メックの頬をわずかに掠めただけで、ブレードは空を切った。

 バストラとは違い、素早く細かい動きができる。これまではシールドで防いでから反撃、という戦法が一般的であったが、新型機ならギリギリで避けることもできる。

 空振りしたブレードの勢いを利用し、ベルグは距離を取る。

 ベルグが再び構え直した時、ブレードが襲いかかる。


 ——相手もなかなかやるッ


 思い切りブレードを振り上げ、斬撃を強引に弾く。強烈な金属音が周囲に響き渡る。

 続いて、鈍い金属の擦れ合う音がした。視線を下げてみると、相手メックの蹴りが腹部に入っていた。

 吹き飛ばされるものの、ベルグは堪えて立て直す。


「それまで!」

 カミラの声が響きわたり、両騎とも動きを止める。

 ベルグはダイブアウトし、メックを降りると、模擬戦相手の胸部装甲も開いている。

 女性であった。それも、ベルグが何度か見たことのある人物だ。

「リアか……?」

 イルマ・ハイゼの副官のリアであった。

「お互いに初対面ではないな?」カミラは2人を交互に見ながら言う。「リアはイルマの模擬戦の相手をしていた。彼女も白いメックの戦闘を目にしている。新型機も乗りこなしていて、動きも申し分ない」

 確かに、模擬戦をした限りでは十分メックを乗りこなしている。

「よろしくお願いします、ベルグ卿」

 リアの握手に応じながら、ベルグは戸惑いを隠せなかった。単なる副官だと思っていた人間が、まさか自分と同じほどメックを動かせるとは思っていなかった、というのが率直な気持ちある。


 ——負けてはいられない。


 ベルグの中に闘志が燃え上がっていた。

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