第36話 ハイペリオン改修
難民たちは翌朝、エルフェン共和国の街へと送られていった。当初は国内に難民を入れれば混乱が生まれるのでは、と懸念する声もあっり、城に留めておくべきではないか、という案も出たが、城の周辺は再び戦場になるというヴァイスザッハの意見により、受け入れが決定した。
そして、入れ違いに複数台の輸送車が城へ到着する。その中には、ハイペリオン用の部品も含まれていた。
「これって、ハイペリオンの……?」
レニはメックに関して詳しい知識は持っていないが、整備をするだけにしては量が多すぎる。
キョロキョロしているレニの元へ、ヴァイスザッハがやってくる。
「ハイペリオン改修のためです」
「改修?」
「この状態では、性能の半分ほどしか発揮できません」
「あれで半分……」
バストラを圧倒する性能であるにも関わらず、それでも本来の性能ではないことに、レニは驚きを隠せなかった。
「マヌエルが作っている段階では、レニ様にお渡しできる確証はありませんでした。万が一、敵の手に落ちた際に破壊できるように、性能を制限しておかなければなりません」
「そのための改修をおじさまが……?」
「ヴァイスザッハ……そうお呼びください」
彼は1つ咳払いをする。
「レニ様が王位を継承しない場合や、ハイペリオンが敵の手に渡った場合は、私が破壊する予定でした。しかし、レニ様とメック両方が健在で、王位継承を決定した場合は、私がハイペリオンを本来の性能を発揮できる状態に改修する。それが私のもう一つの役目です」
「でも、そんなに急がなくても」
「それが、急がなければならないのです。ブロデア帝国で新型メックの生産がされています。密偵の報告によれば、新型で編成された部隊で我々へ攻撃を計画しています」
「じゃあ、それまでに改修を?」
「ええ、1週間後にはこちらに攻めてくるでしょう」
バストラと戦った以上の戦闘が繰り広げられるまで、たったの1週間しかない。次の戦闘では、難民が大勢出るといった程度では済まないだろう。
「レニ様にとっては大変な1週間になるでしょう……しかし、逃げることはできません。我々は立ち向かっていかなければならないんです」
「元より、逃げる気はありません」
レニは毅然と言い返す。
そんな姿を見て、ヴァイスザッハ思わず笑う。
「強くなられましたな、レニ様。少し前まで転んだだけで泣いていた女の子だと思っていたのに」
「そ、それは10年も前の話でしょう?」
「老人にとっては10年前はつい最近のことです。それから木に登ったはいいけれど降りられなかったときも泣いていましたな」
レニは顔を真っ赤にしていた。調子に乗り、デュナミスとしての身体能力を使って木登りした時のことをよく覚えている。
「あの頃は、レニ様に力の制御の仕方を教えていました。これからの1週間は、力の使い方について学んでいただきます。改修後のハイペリオンの性能を発揮できるように」
だが、レニには1つ気がかりなことがあった。
「その……訓練は厳しいの……?」
幼い頃にヴァイスザッハから受けた訓練は、とにかく厳しかった、という記憶しかない。
「それはもちろん、厳しくいきます」
「はぁ……やっぱり……」
「生き残っていただくためですから、覚悟してください」
訓練の光景を想像し、レニの気持ちはどんどん沈んでいく。
「じゃあ訓練は明日から……」
「いえ、今日これからです」
「どうしても?」
「どうしてもです」
ここから走って逃げ出そうとしても、ヴァイスザッハを振り切ることはできないだろうと覚り、おそらく子供の頃よりも厳しい訓練を受ける覚悟を、仕方なく決めざるを得なかった。




