第34話 7月3日
イルマ・ハイゼの機体には、映像やメックの表示データを記録できる装置が付いており、その情報は後方の車両へ送られていた。イルマの部隊は、彼女が戦死した後にデータを回収してブロデア国内へと急いだ。
車を飛ばし、データをカミラ・ローゼンハイムの執務室へ届けることができたのは、昼過ぎのことであった。
データを確認しながら、カミラは何度も映像を見直した。
——なんだ、このメックは?
装甲を薄くして機動力を上げている。設計思想としてはケーニギンのそれに近い。この白い装甲のメックがベルグのバストラも破壊したのだろう。仮にケーニギンと同等の性能であれば、バストラでは太刀打ちができないのも頷ける。イルマのように手段を問わない戦い方をしない限り、今までのメックでは勝機を掴むことすらできない。
このメックがどの国の所属なのかは問題ではない。ケーニギンに匹敵するかもしれない、ということが問題なのである。ケーニギンと同じタイプのメックが量産されれば、他国のメックを破壊し、領土を蹂躙することなど造作もない。
圧倒的戦力差で敵の戦意を奪い尽くす。戦争はなるべく短期的に終わらせなければ、先の大戦の二の舞になってしまう。しかし、それには強力な軍事力が必要になる。ブロデアのメックは、無敵でなくてはならない。
——このメックだけは破壊しなければならない。
ブロデアを勝利に導くため、そしてイルマの仇を取るために。
執務室にノックの乾いた音が響き、ベルグが入ってくる。
「アルベルト・ベルグであります!」
ベルグの表情は固く、明らかに緊張していた。カミラとベルグの立場は天と地ほども違う、と言っても過言ではない。さらにベルグはレディスト王国侵攻に失敗しており、その責任を追求されるかもしれない、と思っているのだろう。
「ベルグ、イルマが戦死したのは知っているな?」
「はい……先程報告を受けました」
「これで、白いメックと実際に戦ったことがあるのは、卿だけというわけだ」
カミラはベルグにファイルを渡す。
「総統閣下から許可をいただいて、新型のメックの生産を開始している。すでに先行して生産している分もあり、近いうちに数騎が実戦投入可能になる。そのファイルは新型機の設計書だ」
「わ、私に……何故、設計書を……?」
「卿に1騎くれてやる。白いメックとの戦闘経験を持っているのは卿だけだからな。他のデュナミスよりも役に立つ」
多くのデュナミスは、バストラの性能に慣れてしまっていると同時に、他国のメックはバストラより性能が低いということにも慣れている。撃破されたとはいえ、白いメックとの戦闘経験は役に立つだろう、というのがカミラの考えである。
「ベルグ、ダイブアウト障害の方はどうだ?」
「はっ……少々頭痛が残りますが、任務に支障はありません」
「明日までにダイブアウト障害を直し、設計書を叩き込んでおけ。明後日には実機での訓練を始める。出撃は一週間後、7月3日とする」
ベルグは立ち上がり、踵を鳴らして敬礼をする。
彼を退室させると、カミラは再び映像を見た。
——とどめは、私のケーニギンで。
カミラの中に、復讐のどす黒い炎が渦巻きはじめていた。




