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ハイペリオン戦記  作者: 松本 ゆうき
第4章 王家の末裔
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第28話 近付くバストラ

 日暮れ前、レオの部屋に慌てた様子の兵士がやってきた。

「レオ様、ブロデアのメックが接近しております!」

「やはり来たか」

 レオはため息を吐くと、部下の報告を聞く。

「現在国境へ近付いています。侵攻スピードは早く、まもなく共和国内に侵入します」

「メックとデュナミスは?」

「メックはバストラ、シールドとスラヴァーを装備しています。エンブレムは髑髏と薔薇を確認しております」

「イルマ・ハイゼか」

「後方部隊もハイゼの部下たちなので、間違いありません」

 レオはブロデアの人間ではないが、他国のメックやデュナミスの知識は一通り持っている。もちろん、その中にはイルマ・ハイゼの情報も含まれていた。

 イルマの爵位は子爵であるものの、その実力は伯爵と言ってもおかしくはないほどである。サイコダイバーとしての力は言うまでもなく、メックを降りても強い。レオは直接剣を交えたことはないものの、演習を見たことがあった。


「面倒なことになった……」

 思わず呟いたレオには心配ごとがあった。

 バストラと戦えるメックがないのである。現在城には4騎のメックがいるが、3騎は整備が行き届いておらず、バストラの相手になるとは思えない。もう1騎はレオ専用のメックだが、まだメンテナンスが終わっていなかった。

 3騎を1騎のバストラ迎撃に向かわせる、という手もあるが、部下の命を捨てるような作戦を立てることはレオにはできない。


「レニ様に協力していただくことはできないのでしょうか」

 部下は恐る恐る言い出した。

 現状、レニのハイペリオンで迎撃することが最善であることは、レオにも分かっていた。ハイペリオンは、バストラを大破させた実績がある。

「それは駄目だ」

「しかし……!」

「大の大人が成人にもなっていない少女に頼って迎撃をしたところで……そんなものは軍とは言わない!」

 軍とは、敵を殺す存在である前に国民を守るもの。それは代々アウグスト家の家訓として親から子へと伝えられた言葉である。先の大戦では、多くの命が奪われたから、余計に強く思う。

「私が出る」

「しかしレオ様……メックはまだメンテナンス中です」

「手足が付いていれば装甲はいらない。相手を戦闘不能にさせて撤退させれば、今はそれでいい」

「……分かりました……準備を進めます……」

 兵士にも、それが無謀な作戦だと気付いている。だが、レオの気持ちもよく分かるのだ。

「それから、レニには知られないようにな」

「かしこまりました」

 兵士は部屋から出る時、落ち着いた様子で出ていった。


* * * * *


 廊下が騒がしかったので、レニは部屋を出た。一見、廊下は変化がないようであったが、何かが違った。どこからともなく漂ってくる緊迫感がある。

 静かなようで、遠くでは様々な音がしていた。食事の準備をする音が廊下の奥から聞こえ、外からはメックの整備をしているであろう金属音やモーター音がしている。

 しかし、それとは別の音がする。いくつかの足音がバタバタと歩き回っている。慌てている様子で、話し声まで聞こえるが、何と言っているのかは聞き取れない。

 何かが起こっていた。たぶん、あまり良くないことが起こっている。

 感覚を研ぎ澄ませてみるが、それ以上のことは分からなかった。

 この状況を説明するのに、いくつかの選択肢が浮かんだものの、真っ先に浮かんだのはブロデアのメックが侵攻してきた、というものであった。もっとも可能性が高いだろう。

 レオたちがレニを捕らえようとしている、という可能性はゼロではないが、その気があるなら彼女が目覚める前に捕らえていたはずである。

 レニが思案していると、兵士が歩いてくるをの見つけた。

「レニ様、いかがなされましたか?」

「ええ……お腹が空いてしまって……」

「もうすぐ夕食ですから、お部屋でお待ちください」

 簡単な会話を交わした後、兵士はレニの前を立ち去る。


 彼女には、兵士の焦りが分かった。急いでいて、なおかつ何かを隠している。それも、レニに対して必死に隠している。視線の移動や指先の動きを総合的に見て、直感的にそう感じる。

 敵が来た。エルフェン共和国を狙ってきたのではなく、ハイペリオンを追ってきた相手だ。

 レニは部屋に戻ると動きやすい服に着替え、窓から庭へと飛び降りる。音も無く着地して、物陰に隠れながらハイペリオンの元へと急ぐ。メックの周囲に作業員はおらず、人がいる気配もない。近付いてみても、やはり誰もいなかった。

 傷付いたシールドもそのままに、スラヴァーも装備したままだった。武装が外されていなかったのは幸いだ。

 素早く胸部ハッチの中に乗り込むと、レニはハイペリオンへとダイブする。左腕の損傷は変わらなかったものの、ヴリル・エネルギーの残量が40%を下回っていた。戦闘が長引くと、エネルギー切れを起こすかもしれないギリギリの残量である。


 だが、もう心を決めてしまった。メックに乗ってしまった。引き返すことは、できない。

「ハイペリオン……もう一度戦ってね……」

 レニの言葉に応えるように、ハイペリオンがヴリル・ジェネレーターの唸る声をあげて、城を飛び出していった。

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