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ハイペリオン戦記  作者: 松本 ゆうき
第4章 王家の末裔
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第26話 グレートアロン

 ブロデア帝国やレディスト王国がある大陸の北西に島国がある。その国は、かつて世界の覇者として各国に植民地を持っていた国であり、現在も強大な影響力を誇っている。

 グレートアロン王国。それが歴史と伝統のある、この国の名前である。

 この国の首相ベネディクト・エッジワースは、受話器を戻すと葉巻に火を点けた。


 ブロデアとレディストとの戦争が始まったことは、昨日のうちに知っていた。しかし、電話での報告でエルフェン共和国にメックが逃げ込んだことを知り、戦争の拡大を覚悟しなければならなかった。

 先の大戦を軍人として経験したエッジワースにとって、今の状況は地獄のような戦争の記憶を呼び起こすものでしかなかった。二国間の戦争が世界を巻き込む大戦へと発展しかねない。


 ——またあの地獄を地上に作り出してしまうのか。


 いつも愛用している葉巻も、今日ばかりは味気ない。かと言って、このまま放っておけば、戦況は悪化してしまう。だが、果たしてグレートアロンが参戦することで収まるのだろうか。最悪の場合、余計に戦果を拡大させてしまう可能性だってある。


 エッジワースが葉巻をもみ消すと、陸軍大臣のナイトレイが部屋を訪れた。

「ちょうど呼ぼうと思っていたところだ、ナイトレイ」

「どちらの用事で、ですかな?」

 ナイトレイはそう言うと、懐に隠したスコッチのボトルを取り出す。

「両方だ」

 エッジワースはデスクの引き出しからグラスを2つ取り出した。

 2人が首相の執務室でスコッチを飲むのは、決して初めてではない。それはお互いにスコッチが好きだったり、皆に隠れて飲むのが好きだったりするのもあるのだが、それ以上にこの2人は先の大戦を同じ戦場で生き抜いてきた仲なのである。

 スコッチをグラスに注ぐと、エッジワースは琥珀色を眺めながら、一口飲むとしみじみと言う。薬のような、独特のピート香が鼻に抜けるの

「懐かしいな……復員船を降りて、真っ先に口にしたのはスコッチだったな……」

「ええ、あの地獄をくぐり抜けたのに、結局行き着く先はこいつでしたね」

「祖国の土を踏めて、スコッチがあれば、あの時はそれでよかった……とにかくつらい戦争だったからなぁ……」

「スコッチと寝心地のいいベッド……あとは一夜を共にする相手。あの時の兵士はみんなその3つを欲しがりましたからね」

 エッジワースはスコッチを飲み干すと、空になったグラスを見つめる。

「そんな兵士たちを……また生み出してしまうかもしれない」

「メックが誕生して、戦争は確かに変わりました」ナイトレイもスコッチを飲み干す。「でも、今度の戦争も悲惨でしょうね……戦争はいつも残酷です」

「しかし、同盟国のレディスト王国の戦争だ。無視するわけにはいかないんだ」

「現状であれば、10騎のメックをすぐに派遣することができます。あとは、首相のご命令があれば」

「……派遣してくれ……」

 ナイトレイはすっと立ち上がり、踵を揃え「ただいまより、グレートアロン派遣軍を組織いたします」と、言うと「スコッチは預かっておいてください。またこっそり来ますから」微笑んだ。


 彼が退室した後、エッジワースは窓から空を見上げた。

 この空が戦闘機で埋め尽くされるような、そんな光景を国民に見せてはならない。彼はそう心に誓った。

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