第25話 父の友人
自分が王家の生き残りである、と聞いたレニには、その事実をゆっくり受け入れる時間はなかった。
「さて、君を守るために色々しなきゃあならない」
レオがそう言うが、彼女には意味が分からなかった。
「え、守る……?」
「レニ、君がハイペリオン王家の生き残りであると分かった以上、このままにしておくわけにはいかないんだ。さっきの博士の話でもあったように、ハイペリオンの血族はハイペリオンであるというだけで命を狙われてしまうんだ」
「でも、私は今まで何ともなかったのに……」
「それは今まで知られていなかったからさ。今の君は違うだろ? メックにも乗ったし、ブロデアのメックも撃破したし、レディストでも大暴れした。遅かれ早かれ、ハイペリオンのことは知られてしまうだろう」
ヴェルシュナーでの生活は、不自由がないと言えば嘘になるが、毎日が楽しいものであった。そんな生活がもう戻ってこないのだ、と思うと、レニは泣きそうになってしまう。
「これからのレニは、今までとは違う。大変、っていう言葉では表現できないほどに、様々な困難が訪れると思う」
「私は……どうすれば……」
うつむくレニに声をかけたのは、セルチルナーであった。
「そのために私たちがいます。あなたは、我が主・レオポルト様を救ってくださいました。主の恩人は、私の恩人です。恩人の危機を見過ごすわけにはいきませんからね」
昨日まで田舎で暮らしていた少女が、突然王家の生き残りと言われて、素直に受け止められるはずもなかった。
そんなレニの戸惑いを察してか、フローラが優しく手を握ってくる。
「レニ様、私たちにお守りさせてください」
黒髪の少女の瞳から大粒の涙がこぼれる。それは失われた過去の生活に対する悲しみと、目の前の者たちの優しさに触れた嬉しさが入り交じった涙であった。
レニは数分間泣き続け、落ち着いた時には気持ちは落ち着いていた。
「レニ様」
セルチルナーは泣き止んだレニの前に跪く。
「私は研究者として、デュナミスの歴史を学んできました。あなたがハイペリオン王家の生き残りと知った今、敬意を払いレニ様と呼ばせてください」
「え、えぇ……」
「さて、色々聞かなければいかないことがあります。レニ様はメックを1人で組み上げたわけではない。メックはどなたが?」
「メックは……私もその時まで知らなかったんです……自宅の小屋の地下にあって、小屋はパパがいつも籠もっているところだったから……そこでメックを見つけて、首飾りもパパから受け取ったんです」
「では、メックはお父様が作ったのかもしれません……お父様のお名前は?」
「マヌエルです」
「マヌエル……マヌエル……首飾りを持っていたところを見ると、血族には違いないようですが、もしかしたら記録にないのか、名前を変えたのか……」
セルチルナーはなにやら顎に手を当てて考え込んでいる。
「パパの本当の名前は私も分かりません。私にはママもいなかったですし、パパはずっと小屋に籠もりっきりで……あ、そう言えば……」
レニは、ある人物の姿を思い出した。
「パパの友人っていう人が来て、私にデュナミスとしての力の使い方を教えてくれました」
「友人? それは誰ですか?」
「白髪の男性で……一度に複数の標的を斬りつける疾風剣という技を始め、いろんな剣技を教わりました……ええっと……名前は……そう、ヴァイスザッハ……そう、ヴァイスザッハと呼ばれているのを聞いたことがあります」
レオ、セルチルナー、フローラはお互いの顔を見合わせる。
「え、な、なに……?」
「3人とも心当たりがあるんです。ヴァイスザッハという人物に」
セルチルナーは微笑みながら言った。
「ヴァイスザッハ卿に関しては、近日中にお連れできるがと思います」
そう言われ、博士と質問はそれからしばらく続いたのだが、有力そうな情報は出てこなかった。




