第23話 ハイペリオン
やってきた男は、見た目にもだらしない男であった。無精髭にボサボサの髪、服は皺だらけである。
「彼はセルチルナー博士。見た目はさておき、優秀な人物だ」
レオはそう紹介したのだが、レニにはどうも信じられないでいた。
セルチルナーは人懐っこい笑顔を浮かべ、手を差し出してくる。
「やあ、あなたが客人ですね。どうも、初めまして。ヨハネス・セルチルナーです」
「ど、どうも……レニです……」
恐る恐る握手をしたものの、レニの表情は固かった。
「レニさん、私の専門はデュナミスの研究です。特に歴史や能力などを専門的に研究しています」
「そ、そうなんですか……」
「ユニコーンの首飾りを持っていますね?」
「ええ……」
「拝見できますか?」
レニは胸元から首飾りを出して、セルチルナーの目の前に出す。
彼が触ったら傷付けてしまうかもしれないので、見せる距離に注意したのだが、セルチルナーはぐいっと近付く。
「なるほど……触れたいのに触れられないのは悔しいですねぇ……」
彼の瞳はきらきらと輝き、首飾りをじっくりと眺めている。
「えっと、あの……」
困惑するレニの言葉を、セルチルナーは遮る。
「そういう首飾りなんですよ、これは。特定の人間にしか触れることができない。そうすることで、この首飾りを守ってきたんです」
「守るって……」
「様々な存在からです。それだけ、この首飾りは狙われてきた……それだけ強力な力を象徴しているのです」
「ちから……」
「力とはいっても、この首飾り自体に特別な能力はありません。単に触れていい人物かどうかを選別するものですから」
セルチルナーは持っている本を開いて、首飾りと交互に見ながら何かを呟いている。
「やっぱり……どうやら本物だ。となると、やっぱり触りたくなる」
そして、彼はレニを見つめる。
「レニさん、大きい音が出ますよ」
彼女が返事をする前に、音がした。レニにとっては3回目の音である。
セルチルナーの指先からは血が滴っている。
「こういう感じなのかぁ……なるほど……思ったより痛いね」
そう言いながら、彼はどことなく嬉しそうであった。
フローラに手当をされながら、セルチルナーは話を続ける。
「レニさんは『ハイペリオン』という言葉をご存じですか?」
「ハイペリオンは……メックの名前です……」
「歴史は詳しい方ですか?」
「あまり詳しくは……でもなぜ……」
持っていた本をレニに突き出した彼の息は荒くなっている。
「デュナミスが生まれてくるには、血筋が大きく関係しています。いい血筋のデュナミスは能力が高いばかりか、遺伝もしやすいのです。かつての貴族や王族は、そういった良質な血を持った血族であるわけです」
「そ、それは聞いたことあります……」
「有名な一族の名前はいくつもありますが、多くの歴史家や研究者の中で共通していることがあります。もっとも強大な血族は、ハイペリオン王家であると」
「ハイペリオン……王家……」
「もちろん、知らないのも無理はありません。聖ハイペリオン王国は100年以上前にこの世から姿を消したのですから。それでも滅びたわけではありません。王族は生き残っていたんです。国を治めていなくても、デュナミスとしての能力は本物です……恐怖したんですよ、ハイペリオンの血を。そして、戦争が起こりました。開戦の原因は、ある夫婦の暗殺です」
「それがハイペリオンの生き残り……?」
「そう! ハイペリオンを恐れるあまり、彼らはその血族を根絶やしにした。ただひっそりと暮らしていたハイペリオン家を。だが、それでも根絶やしにできなかった」
セルチルナーは、レニの目を見つめる。
「ハイペリオン王家の紋章はユニコーン。ユニコーンの首飾りはハイペリオンの血族以外に触れることはできません」
彼は、一呼吸おいて続けた。
「あなたは、ハイペリオンの血族です」




