第20話 ユニコーンの首飾り
正午前に、レニはベッドの上で目を覚ました。
レオを乗せて、レニのハイペリオンは北へと向かった。幸い、レディスト王国の追っ手は来ず、国境を越えて無事にエルフェン共和国へと逃げ延びることができた。
当然、正体不明のメックが国境を越えてきたら、その国のメックが動き出す。エルフェン共和国に入って数分後、3騎のメックが目の前に現れた。しかし、レオの姿を見るなりスラヴァーを収め、近くの城へと案内された。
「レオ、あんたって本当にすごい人だったんだね」
レニはついそう漏らしたが、そんなすごい人物がなぜ他国で捕まっていたのか、と疑問に感じた。
だが、安心感からか急激な疲労を感じていたため、訪ねるのは後回しにした。
城についた時には、夜明けが間近に迫っていた。
メックから降りて部屋に通されたレニは、ベッドに横たわると睡魔に抗うことができず、すぐに眠りに落ちてしまった。
彼女が目を覚ましたことを察知したのか、部屋にメイドがやってくる。年齢はレニより少し上くらいで、赤毛の落ち着いた雰囲気の少女であった。
体を拭き、ブラッシングをされる間も少女とのやりとりは多くなかった。
「レニ様、この辺りでは珍しい髪色でございますね」
「私もなんで黒髪なのか分からないの。ヴェルシュナーの辺りではブロンドかブラウンの髪の人ばかりだったから」
「お美しいですよ、レニ様の黒髪」
「……ねえ、そのレニ様っていうの、やめてよ……」
「でも、レニ様はお客様ですから……」
つい昨日まで田舎町に暮らしていた少女にとって、体験したことのない呼ばれ方であった。
「あなた、名前は?」
「フローラと申します」
「きれいな名前ね」
レニの背後でブラッシングをしているフローラの表情は分からないが、髪から伝わる振動が僅かに変わった。照れているのか緊張しているのかまでは知ることができなかった。
ブラッシングを終え、レニはドレスに着替える。真っ白なシルクのドレスであった。
鏡に映った自分の姿が、まるでおとぎ話のお姫様のように思える。くるくると回り、滑らかに揺れるドレスを動きに感動し、レニはついはしゃいでしまう。
フローラはそんなレニを見て、一緒に笑うわけでもなく、諫めるわけでもなく、ただ見守っていた。
「レニ様、お食事をご用意しております……」
ひとしきりレニの気が済んだタイミングで、フローラが静かに告げる。
食事をするために部屋を出ようとした時、フローラが言う。
「レニ様、お忘れ物です」
ユニコーンの首飾りをベッドの脇に置きっぱなしにしている。
「いっけない、忘れてたわ」
「私がお持ちします」
フローラはそう言って、首飾りに手を伸ばした。
バチンッ!
まるで小さな爆発が起こったかのような音がした。
レニが振り向いた時、フローラは首飾りから素早く遠ざかっていた。
「フローラ、その指……!」
彼女の指先からは、鮮血が滴っていた。




