第18話 戦場の朝
ちょうどクラウスが演説で民衆を魅了していた頃、黒の森に一騎のバストラがいた。
褐色の装甲はベルグのバストラと同じであったが、右肩とシールドには薔薇の花と茨が巻き付いた髑髏のマークが描かれていた。その髑髏は大きく口を開け、苦しんでいるようでもあり、笑っているようでもあった。
髑髏と薔薇をパーソナルマークにしているのは、ブロデア帝国の子爵イルマ・ハイゼである。
イルマのバストラの足下には、3騎のヴァンクールだった残骸が転がっている。
ダイブアウトしたイルマはバストラから出てくると、メックの胸部から辺りを見回す。メック戦が行われた黒の森の樹木の多くは薙ぎ倒され、中にはスラヴァーの熱で焼かれたものまであった。
「バストラの性能が劣っていた、という訳ではなかったようだねぇ」
バストラ1騎でヴァンクール3騎を相手にした。イルマの実力を考慮に入れたとしても、バストラの性能はヴァンクールを遙かに上回っていることがはっきりした。
「だとしたら、ベルグの坊やの敗因はやはりあの白いメックか?」
ベルグのデュナミスとしての実力は、イルマには及ばないものの、それは彼が決して弱いということではない。それどころか、ベルグの戦闘能力は高いと言える部類に入る。ただ、イルマが彼よりも強いだけなのである。
イルマの視線が北へと向けられる。
「確か、黒の森の北にも砦があったはずだけど……メックは来なかった」
それが意味することをイルマが推理するのに、時間はかからなかった。
「向かったのはあっちかい……」
メックを降り、後方に控えている部隊の元へと向かう。
主な戦闘はデュナミスとメックが担当することになり、それまで戦場を駆けていた兵たちは拠点の制圧や後方支援が主な任務になった。銃撃戦よりも、メックの整備や物資の運搬に重点が置かれるようになり、戦場の様子にも変化をもたらした。
その1つが食事である。それまでの軍の食事は、パンや缶詰にちょっとした野菜程度の粗末なものであったが、メックが戦場で活躍するようになってから、後方での調理が可能となり、兵士たちは温かい食事を食べられるようになった。
パンにベーコンのフライ、白ワインで煮ているのはヴァイスブルストであろうか。辺りには旨そうな匂いが立ちこめていた。
* * * * *
食事を終えると、兵士には戦闘糧食が支給される。
ここからは戦闘が多くなるだろう。戦闘が続けば、今朝のように悠長に食事を作る暇はなくなってしまう。
イルマは再びバストラへ乗り込んだ。
ヴリル・ジェネレーターの咆哮が、荒れ果てた黒の森に響き渡る。
彼女は考えていた。この先にどんな敵が待っているのだろうと。その敵は手強ければ手強いだけいい。強い相手と戦うことは、イルマに戦う悦びを与えてくれる。彼女にとって、相手を屈服させた時の悦楽は、何物にも代え難いものである。
体が熱くなってくるのを感じてイルマは思わず微笑むが、バストラにダイブしているため、その表情を他人に知られることはなかった。
「さあ、北へ向かうよ! 野獣を狩る!」




