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ハイペリオン戦記  作者: 松本 ゆうき
第2章 追われる少女
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第15話 砦からの脱出

 レニは走った。

 普通であれば、つい先ほど知り合ったばかりの、しかも捕まっていた男に背を向けることは、危険なはずである。

 それしか自分の助かる術がない、と考えてメックへと走っているというのもあるだろう。だが、それ以上にレオを信用することができた。

 それは直感的なもので、レニ自身も言葉にできないくらいに曖昧だが、確実な信用であった。


 彼女の姿に気付いた兵士の1人が自動小銃を構える。銃声とともに、複数の弾丸が飛来する。

 斬り払うこともできたが、そのためにはスピードを落とさなければならない。

 体の最小限の動きだけで、レニは弾丸を避ける。彼女の目には高速の弾丸の軌道が完全に見えていた。

 走るスピードは落とさず、レニは兵士へと近付き、スラヴァーに粒子を纏わせると、すれ違いざまに自動小銃を切断する。


 複数方向から銃声がする。そのうちのいくつかはレニへと向かってきたが、いちいち処理している暇はない。


 ——ハイペリオンに搭乗した方が早い。


 スラヴァーの粒子を解除し、再び疾走する。

 ハイペリオンの周囲には科学者や整備士たちが右往左往していた。兵士のように戦場には慣れていない。

「死にたくなければ退きなさい!」

 スラヴァーを持って走ってくる少女の声に、男たちは慌てながら道を作る。彼らが開けてくれた道を通り、レニは飛び上がるとハイペリオンの腕へ上がり、続けて肩へと上がる。


 幸い、スラヴァーもシールドも外されていない。


 ——開けなさい。


 そう念じたレニに呼応するように、ハイペリオンの胸部装甲が開く。

 メックの胸部装甲の下にあるダイバールームは、お世辞にも快適とは言えない環境である。暗くて狭く、椅子さえ無い。だが、レニにとって数時間ぶりに入ったダイバールームは、懐かしくて安心する場所だった。


「……ダイブ!」


 視界が暗くなり、レニの体の感覚は溶けていく。

 ゆっくりと視界を取り戻していくに従って、左手に痛みが走る。左腕での戦闘は期待できないだろう。

 ヴリル・ジェネレーターの高いうなり声を上げて、ハイペリオンが動き出す。簡易的な拘束具が取り付けられていたようだが、前へと踏み出して強引に破壊していく。


 振り向きざま、隣でまだ起動していない2騎のメックをスラヴァーで斬りつける。動いていない標的に当てるのは容易い。脚部を破壊され、真っ赤なオイルを滴らせ、大地へ倒れ込む。

 これで、このメックは追ってくることはない。

 地上の兵士がハイペリオンに向かって自動小銃を撃ってくるが、もちろん効かない。所詮は人間用の武器である。何十発当てようと、特殊超合金製の装甲を傷付けることさえできず、せいぜい空しい金属音を響かせる程度だ。

 例え大砲であっても、ハイペリオンの歩みを止める要因にはならない。


 20メートル先、壁際にレオが追いつめられていた。相手はクレマンと名乗った指揮官である。クレマンがトライエッジを放つ。非常に精度の高い剣技だったが、刃で焼かれるより早くレオが前に踏み込む。トライエッジは止み、レオのスラヴァーはクレマンの胸を貫いていた。


 ハイペリオンで彼の元へと走っていき「レオ、乗って!」叫んだ。彼女が乗りやすいように手を差し伸べようとしたが、レオは一度の跳躍でハイペリオンの肩まで乗る。

『レニ、砦を出るぞ!』

「ええ!」

 もはや、2人が砦を脱出するのに、何の妨げもなかった。

 指揮官を失って混乱している砦を後にし、ハイペリオンの白い装甲は闇の中へと消えていく。

「レオ、これからどこへ行くの?」

『このまま北へ向かってくれ』

「でも、北に行ったらエルフェン共和国に入るわよ」

『そうだ、エルフェンへ向かう』

 メックは兵器である。他国の兵器が侵入すれば、その先の展開は明らかである。

「戦争になるわよ」

『ならないさ』

 レオは、自信たっぷりに言う。

『俺の名前はレオポルト・アウグスト。エルフェン共和国の侯爵だ』


 1930年7月1日へと日付が変わろうとしていた。

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