第14話 トライエッジ
レオはドアから出ると、すぐにスラヴァーを作動させる。
刀身に灯った光は、夜には非常に目立つ。案の定、走っていったレニよりも注目を集めることになった。
だが、それでいい。
見回りをしていた兵士の視線と機関銃の銃口が集中する。
距離は7メートル、人数は4人といったところか。いずれもデュナミスではなかった。
4つの銃口が一斉に火を吹く。
数の上では圧倒的に不利であったが、レオは冷静だった。ほとんどの銃弾は彼に触れることなく通り過ぎ、数発の弾はスラヴァーの一振りで弾かれた。
デュナミスだからこそできる芸当に、兵士たちは一瞬たじろぐ。
そのわずかな隙を、レオは見逃さなかった。
7メートルの距離を一気に詰めると、スラヴァーの光が煌めく。
その軌道は、まるで妖精が無邪気に飛び回っているかのように優雅で美しいものであったが、妖精はスラヴァーの粒子をまき散らし、男の腕を8本斬り落としていった。
刹那、レオはその場から飛び退く。
すると、そこにもう1つのスラヴァーの輝く刀身が現れた。上空から飛び降り、スラヴァーの一撃をレオが今までいた場所へと叩き込む。悲鳴を上げていた男たちは吹き飛ばされ、地面は大きくえぐられていた。
剣を振ると同時に粒子を飛び散らせ、衝撃波を発生させる<フォトン・ブラスト>という技だ。比較的初歩的な技であるが威力に優れることから、デュナミスがよく使う技の1つとなっている。
上空より奇襲を仕掛けてきたデュナミスは、レオに向き直って再びスラヴァーを構える。そして、すぐにレオへ向かって走り出した。
距離は3メートル。デュナミスの脚力であれば、瞬きする間に勝敗が決する間合いである。
勝敗は唐突だった。レオのスラヴァーの一閃が敵を切り裂き、大きな肉塊を2つ作り出した。
しかし、レオに休む暇はなかった。彼の視線の先にスラヴァーに粒子をまとわせたジョエル・クレマンが立っていた。
「単なるスパイ、というわけではないようだな」
クレマンの言葉に、レオは笑みを浮かべる。
「仮にそうだとしても、自分から答えるヤツがいるかい?」
「捕らえずに、すぐ殺すべきだった……!」
クレマンがレオに向かって歩いてくる。不用意に距離を詰めることはしないものの、スラヴァーの構えに隙はない。一歩ずつ距離は縮まるが、相手の攻撃の予測ができない。
一撃必殺のスラヴァーの攻撃が読めないというのは、もっとも神経がすり減る。すり減った神経では判断を誤ることもあり、一瞬の油断で命を落としかねない。
互いの距離が4メートルに近付いたとき、クレマンが先に仕掛ける。大きく一歩を踏み出し、加速する。
しかし、見るべきはスピードではない。スラヴァーの太刀筋が3本見える。上からと左右に3つ。連撃ではなく、3点同時の斬撃である。
——左、右、上……退路はっ!
レオは後方へ飛び退く。
彼の鼻先を3つの剣が掠める。
「トライエッジ……」
レオが思わず口にしたその技は、同時に3人を斬ったことで名が知られるようになった技である。当然技の修得にはそれ相応の実力が必要で、精度の高いトライエッジを扱える者は少ない。
今繰り出されたトライエッジの精度は非常に高いものである。
「このトライエッジ……いつまで避けられるかな!」
叫んだクレマンは、再びトライエッジを放つ。またしても、後方しか逃げる場所がない。だが、安全な他の場所を探している時間はない。
再度後ろへ飛び退くが、背中に固い物が触れる。
煉瓦の壁へと追いつめられた。
3度目のトライエッジが襲いかかる。
もはやレオに逃げ場はない、はずだった。
素早く踏み込んだレオのスラヴァーは、クレマンの胸を突き刺していた。
「必殺技は何度も見せちゃ駄目だよ」
レオは静かに言ったが、その言葉をクレマンが聞いているかどうかは分からない。
「でも、そのおかげで見切ることができたよ、さようなら 」
レオがスラヴァーを引き抜くと、クレマンの体は抵抗する力を失って地面に突っ伏した。スラヴァーを突き刺されたことによって気管を潰されたが、息苦しさを感じる前にショック死しているのだろう。
仮に初撃でショック死できなければ、スラヴァーの粒子に焼かれる苦痛を味わうことになってしまうため、彼にとってはある意味幸運だったのかもしれない。
『レオ、乗って!』
レニの声がして振り向くと彼の元に白いメックがやってきた。




