第12話 囚われの男
レニが連れて行かれたのは、砦の隅に建っている塔であった。
薄暗い階段を一歩ずつ上がっていく。女性の細い腕がようやく入るような窓とも言えない窓があるだけで、空気はどんよりと重くて湿っぽい。
造りだけ見ても、この塔がかつて誰かを幽閉するために使われたことが分かる。上に向かうにしたがって、生者なのかも死者なのかも知れない怨念に似た名状しがたい雰囲気を感じる。
最上階への扉を開けた途端、言いようもない臭気が鼻をついた。何十年分もの汗と涙が、床や壁に染み込んだような、臭いと言うよりもおぞましい恨みである。
部屋にある4つの牢のうちの1つに入れられた。寝具であろうそれは、ボロ切れのように汚れて損傷も目立つ。その他に部屋にあるのは、古びた桶のようなものが一つだけだ。唯一外に繋がっている窓には鉄格子がはめられ、僅かな隙間からは夜空が見える。
——ここから出る方法を探さなければ。
使われている鉄格子はメックのフレームにも使われている特殊合金のため、素手ではどうすることもできなければ、小型のノコギリなんかを密かに持ち込んだとしても切断することはできないだろう。
強度を確認するために格子に触れていると、向かいの牢にも人がいるのに気が付いた。
「新入りが女の子とはね……」
男の声がした。
声の主が格子へと近付く。30歳過ぎの男性であった。手枷をはめられ、ブラウンの髪は乱れ放題で服も汚れているが、人懐っこそうな表情だけは分かる。
「俺を楽しませるために連れてこられた……ってわけじゃなさそうだな」
「当たり前でしょ」
「ま、それもそうだな……俺の名前はレオって言うんだ」
突然名乗られて、レニは戸惑う。
「わ、私はレニ……」
「レニ……そうか、いい名前だ」
レオと名乗った男は、部屋の外の見張りを気にしているのか、時々視線をドアの方へ向ける。
「で、あんたは何したんだい?」
「何って……」
「ここは重犯罪者を閉じこめておくための牢だ。相当なことしたんじゃなければ、こんなところにぶち込まれるはずがない」
「私は別に何も……ただ……」
「……ただ?」
「ブロデアがメックで責めてきたから、こっちもメックで撃退して……逃げたところを捕まって……兵士詰め所に押し込められたから暴れただけ」
それを聞いたレオは、くすくすと笑い出す。
「何がおかしいのよ……」
「いや、すまない……キミみたいな娘がそんなに大暴れするところを想像してしまって」
ひとしきり笑うと、レオは真剣な表情をする。
「で、何人倒したんだ?」
「20人よ」
レオは笑みを浮かべた。
「なるほどね……じゃあ、今がチャンスかな」
そう呟くと、レオは格子の鍵穴を指で塞ぐ。
「レオ、あなたは何をして捕まってるのよ?」
「ん? スパイだよ。レディストで新しいメックが作られているって情報があったから、それを確かめるためにね」
「で、それは何をしてるわけ?」
カチッと小さな音がした。
「鍵開けさ」
レオは格子を開けながら、そう答えた。ついでに手枷も外し、手首を回している。
「この砦にいるデュナミスは25人、そのうち20人倒してくれたのなら、こっちとしても都合がいい。脱出のチャンスだ」
「あ、あなた……逃げようと思えばいつでも逃げられたのね」
「ただチャンスがなかっただけさ。キミも逃げるかい?」
その問いに、レニは迷うことはなかった。




