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041 雪どけ

「こんにちは!Sun Diva Orchestraです!聴いてください『ムーンライト』!」


 僕がギターリフを刻み、同期している音源のイントロが始まったところでステージにはカラフルな照明が降り注ぐ。

 そうして鵜飼さんの自己紹介とともに、Sun Diva Orchestraのヴェールが脱がされていった。


 先程の梓のステージのおかげで、会場は驚きと戸惑いに溢れている。

 梓までの3組が作った雰囲気は一気に壊されていて、熱い鉄を一気に氷水の中に打ち込んだかのような、変にひんやりした空気があった。


 正直に言えばめちゃくちゃやりにくい。

 梓を超えるようなアクトを見せつけなければ、僕らの印象というのは無いものに等しくなるから。


 他の出場者たちもこの順番じゃなくて良かったと、内心思っているだろう。

 でも僕は逆にこの順番で良かったと思っている。ここで今日イチのライブを演れば誰も文句のつけようがなくなるのだから。


 イントロの疾走感あるフレーズを鳴らす。オクターブ奏法でシンプルに作ったこのリフは、ES-335の歪んだサウンドとよく合う。

 鵜飼さんが歌い出すまでのお膳立ては完璧だ。


 ――さあ頼んだよ、太陽みたいな僕の歌姫。

 この凍りついたオーディエンスを、一気にとかしてくれ。


 ガイコツマイクを片手に客を煽る鵜飼さんが歌い出す。

 その瞬間、梓の勝ち抜けで決まっただろうと思い込んでいた会場の雰囲気が一変するのだ。


 伏兵、と言うにはちょっと違うかもしれない。しかし、番狂わせが起こったことは間違いなかった。

 人の目を見るのが苦手な僕でさえ、オーディエンスの面々が驚きの表情をうかべているのがわかる。


 鵜飼さんはその歌声で、一瞬にして皆の心を奪ったのだ。


 のど自慢のときや、叔母さんのカフェで歌ったときとはレベルが違う。

 僕の作ったメロディに、鵜飼さんが紡いだ言葉を乗せて、この会場中を揺さぶっている。


 ステージに立つ鵜飼さんは太陽のごとく、凍てついたオーディエンスに熱を与え、とかしていく。

 それはいきなりやってきた大寒波に凍え、耐え続ける大地に、やっと訪れた春のよう。


 僕はそれをただ後押しするように、ギターでコードをかき鳴らす。できるだけシンプルに、鵜飼さんの歌が活きるようにと考え抜いたアレンジ。


 春の訪れが喜びであるならば、それを祝福する人々の営みのように、僕は歌メロへ彩りを加える。

 雪はとけて川になり、そのほとりには花が咲く。


 僕ら2人が積み上げてきたものが、やっとここで花開いたのだ。


 こんなにも楽しい演奏はない。

 ピアノに比べたらそんなに得意じゃないギターでも、永遠に弾いていたいと思うぐらい。


 永遠ではないからこそ、この1秒1秒をしっかり噛み締めたい。そして少しでも長く、鵜飼さんと同じステージに立っていたいというその一心だった。


 大サビ前のブレイク、ふと鵜飼さんと一瞬目があった。

 彼女も僕同様、心底楽しそうな目をしている。


 彼女とつり合いがとれる存在だとかそうじゃないとか、この瞬間だけはどうでもよく思えた。

 同じステージで同じサウンドを奏でている。それが全ての答えでいいだろう。


 僕は鵜飼さんのその楽しそうに歌う姿が見られて、本当に幸せだ。


 鵜飼さんは身体の奥底から声を出して、かなりのハイトーンかつロングトーンである大サビを歌い切った。

 その立ち振る舞いは一端の高校生ではない。この会場はおろか、世界に飛び立っていけそうな歌姫だ。


 その歌姫の全力の歌声をもらった僕は、もう1度足元にあるアイバニーズのTS9を踏む。


 アウトロのギターソロ。

 自分が今出来るテクニックを詰め込むだけ詰め込んだ、僕の等身大のギターソロだ。


 エレキギターに感情を乗せ、正確なタッチが出来ているのかどうか、もうわからなくなるぐらい勢いで弾いた。

 必死だったというよりは、ただ単純に嬉しかった。


「ありがとうございました!Sun Diva Orchestraでした!」


 鵜飼さんが笑顔で観客に手を振ると、僕は最後のEコードを鳴らした。


 満足のいく演奏が出来たのだろう。その時の僕は、屈託なく笑っていたと思う。

読んで頂きありがとうございます


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「バンドをクビにされた僕は、10年前にタイムリープして推しと一緒に青春をやり直すことにした」

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