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019 誰が為にカランコロンと鳴る

 次の日の昼休み、僕は鵜飼さんに相談を持ちかけた。


「ねえ鵜飼さん、そろそろ『ティーンエイジ・ライオット』の応募について打ち合わせしない?」


 10代限定の音楽コンテスト――『ティーンエイジ・ライオット』、その応募期間が間もなく始まる。

 鵜飼さんはマイクを買ってモチベーションも上がってきたみたいだし、ここらで応募に向けて話し合うのがいいだろうと僕は思ったわけだ。


「そ、そうだね!こういうのは早め早めが大事だもんね!」


 なんだか鵜飼さんはぎこちない感じでそう言う。

 この間のスタジオ練習からちょっとテンパり気味だ。


 多分、鵜飼さんのことだしワクワクしてしょうがないんだろう。そういうのはパフォーマンスにもいい影響を与えるだろうから、あまり僕が気にしてもしょうがない。


「えーっとじゃあ、鵜飼さんのバイトが入ってない日に打ち合わせしようよ。次はいつ空いてる?」


「んーと、木曜日なら空いてるかな。それでいい?」


 お互いにスマホのカレンダーアプリを開いてスケジュールを確認する。

 僕は予定がスカスカなので、鵜飼さんの都合に合わせるのが間違いが無い。


「オッケーだよ。じゃあ木曜で。場所はマクドナルドでいっか」


 さり気にいつものマクドナルドで打ち合わせしようと提案すると、鵜飼さんはちょっと待ったと別案を提示する。


「どうせなら『Good times Bad times』でやろうよ。香苗さんもサービスしてくれるって言うし」


「えっ……、で、でも木曜日でしょ?」


「木曜日だけど……、それがどうかしたの?」


 叔母の店――『Good times Bad times』は水曜日が定休日。

 木曜日は営業日だけど、とある理由があって鵜飼さんには絶対にシフトが入らなくなる。


 僕はあのカフェの常連ではあるけど、その『とある理由』のおかげで木曜日だけは店に行かないようにしているのだ。


「いや……、知らないなら何でもないや。とにかく木曜日にあのお店に行くのはちょっと勘弁して欲しいかなあ……」


「なんでなんで?そんな風に言われると気になって仕方がないんだけど!」


 鵜飼さんはいかにも怪しいぞという眼差しで僕のことを見る。探偵モノの漫画で、主人公が証拠になりそうな手がかりを見つけたときみたいに、鵜飼さんはちょっと前のめりだ。


「ま、まあ……、僕にも色々あるんだよ……」


「怪しい……」


 獲物を見つけた蛇のようなジト目で鵜飼さんは僕をにらみつける。


「怪しくないって!別にそんなやましいことがあるわけじゃないんだよ!」


 僕は必死に弁明する。

 本当にやましいことは無い。ただ木曜日だけはあの店に行きたくないただそれだけなのだ。


「だったら行けるじゃん。やましくないんでしょ?」


「そ、それは……、そうかもだけど……」


「じゃあ決まり。木曜日の放課後にお店でね。すっぽかしちゃダメだからね!」


 鵜飼さんは木曜日に来るようにと僕へ念押しする。

 こうなってしまうと、断るにも断れない。仕方がないので腹を括って行くしかない。


 もっと鵜飼さんを諦めさせるような嘘をつくべきだったなと僕はこの時後悔した。


 ◆


 木曜日。僕は日直だったので放課後少しばかり雑務をこなしていた。

 一方の鵜飼さんは僕が逃亡しないようにと、なんやかんや日直の仕事を手伝ってくれた。


 普段ならとても助かるところだけど、今日に限ってはやめてくれと言いたくなる。おまけにこんなところを山下たちに見られたら、また何か面倒なことを言われるだろう。


 はぁ……、と僕はドデカいため息をついた。


「大きなため息ついちゃって……。そんなに木曜日にお店に行くのが嫌なの?」


 鵜飼さんは黒板を消しながら、日誌をまとめている僕に話しかけてくる。彼女が思わず気に留めてしまうぐらい、僕のため息は大きかったのだろう。


「……うん」


「じゃあ理由のひとつぐらい教えてくれたっていいじゃん。そんなに隠されるのってなんだかイヤ」


 鵜飼さんは真面目なトーンでそう言う。

 ここで適当にごまかすようでは、余計に彼女を怒らせてしまう気がした。


「ま、まあ……、今日お店に行けば理由がわかると思うよ……」


 自分の口では説明するのも嫌だったので、僕はこうやって回答を先延ばしにする。

 お店に行きたくはないけど実際に見てもらった方が理解も早いだろうし、いずれ知ることになるだろうからこのほうがいい。『百聞は一見にしかず』ということだ。


 日直の仕事を終えて、僕らはお店へと足を伸ばす。

 カランコロンと鳴る扉を開けると、いつものように叔母が出迎えてくれた。


「あら、茉里奈ちゃん。紅ちゃんもいらっしゃい」


「こんにちはー!今日はお客として来ちゃいましたー!」


 鵜飼さんは元気に挨拶を返すと、案内されるまでもなくテーブル席へ向かう。

 叔母さんがお冷を持ってくると、今日が木曜日だというのに僕が店を訪れたことに気がついたようだ。


「そういえば珍しいわね、木曜日に紅ちゃんが来るなんて」


「僕も来たいわけじゃなかったんですけどね……。どうしても鵜飼さんが……」


 僕がそうこぼすと、叔母さんは軽く呆れたようにため息をつく。


「もう、まだあの子とそんな感じだったの?もう高校生なんだからいい加減に仲直りぐらいしなさいよ」


 叔母さんに喝を入れられると、それを聞いていた鵜飼さんが前のめりになって僕を問いただす。


「あの子……?仲直り……?ねえ、岡林くん、一体何のこと?」


「い、いや……、それは……」


 僕がたじろいでいると、店の扉がまたカランコロンと鳴った。


 入ってきたのは、僕らと同じ高校の制服を着た一人の女子生徒だった。

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