表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

公爵令嬢はバーサーカー

作者: ボヌ無音

ヒロイン×悪役令嬢百合が書きたくて書いたのですが全然違うものになりました。

なのでそれっぽい要素(ねえさま好き好き)があります。

「……今、なんと?」


 震える声でベルヴァ・ファン=ローンは問う。

 纏うのは黒と紫の大人っぽい落ち着いたドレス。このパーティーの場で一際目立つ美しさだ。

緩くカールした黒髪。緑がかった青い吊り目。上品で美しく、貴族の娘であれば誰もが憧れる公爵令嬢。

マナーと令嬢たる振る舞いには厳しいが、それも家柄だと形容してしまえばみなが納得するだろう。

 そんな彼女が扇で口元を覆っているのは、その表情を隠したいからなのか。それとも普段からの彼女の癖なのか。今この状況でそれを判断するのは、誰もが不可能なことだった。


 ベルヴァは、この国における公爵家に生まれし生粋の貴族令嬢である。

幼い頃から貴族としての立ち振舞いや知識知恵、作法、様々なことを学んできた。それは将来、国のため一族の繁栄のためにと彼女も理解していた。

厳しくも優しい父親は、ベルヴァが小さな頃に母親を亡くしてから一人で家を支えてきた。

なんと真面目で努力家なのだろう。

だがそれも、ベルヴァがそう思っていただけであった。


 実際は、この父親は良く言えば恋人――悪く言えば愛人が居たのだ。

しかも、ベルヴァの実母が死ぬ前から。

これは由々しき事態である。今まで敬愛し尊敬してきた父親は、実はそれなりに落ちぶれていたのである。

 愛人が絶対に認められないというわけではない。今まで信じてきた厳しい聡明な父親がそんな男だったと、幼いながらに落胆したのだ。

だがまだ成人にも程遠く精神年齢も幼いはずの当時のベルヴァがそこまで絶望に至らなかったのは、彼女の中にストレスを発散できる趣味が存在したからである。

 そんなこんなで、ベルヴァの頭の中における父親の好感度が下がれども、軽蔑までには至らなかった。


 ただし問題が存在する。

その愛人との間に子供がもうけられていたのだ。

……ここまでを許容範囲としよう。ベルヴァの懐が海のように……宇宙のように広かったと仮定して、そこまで許せたとする。

問題はその後のことであった。


 なんとその子供は、聖女としての力を発現していたのである。


 付き合いは実母が死ぬ前からだと言うのに変に紹介が遅い。そしてあろうことか、子供ごと引き取ると思えば。箱を開ければとんでもないサプライズが入っていたのだ。

きっとその少女が聖女として覚醒しなければ、公爵の黒歴史としてなかったことにされていたに違いない。普通に今までの予定通りベルヴァが公爵令嬢として育ち、何も知らずに過ごしていたはずなのだ。

 だがその聖女のせいで、ベルヴァの居場所は、使命は全て奪われてしまった。

つい先程まで平民だった名も知らない誰かのせいで。


 その聖女こそが、ビューラ・クレーデルもとい、ビューラ・ファン=ローンなのである。

柔らかい金髪はすっと伸びていて、人懐こそうな丸い瞳はあまり見たことのない紫色をしている。その瞳はただただ彼女を見れば不気味だが、聖女と聞けばその妖艶たる美しさに引き込まれることだろう。

人とはそのようなものである。

 なんと言っても高嶺の花のような秀才で見目麗しいベルヴァとは違い、儚く愛らしい誰もが守りたくなるようなそんな少女だった。


「二度も言わせるな! ベルヴァ、お前がビューラにしでかした悪行を、しらばっくれるのか!」


 皇太子――アルバート・フリッツ・テイアーズは横に立つビューラを指す。

上品なドレスのベルヴァとは違い、淡い色合いで少女らしさを全面に出した可愛らしいドレスに身を包むビューラ。

 この断罪の前のパーティーでも、会場ですれ違ったり会話する誰もがビューラを見て褒めていた。

一方近寄り難い高嶺の花・ベルヴァは、一人でただその場に居た。ダンスにも誘われず、誰もエスコートがいない。完全に浮いていた。

それもどれも、この断罪の余興だと思えば納得がいく。


「……何のことでしょうか? さっぱりわかりませんわ」

「この期に及んで……! 証拠は上がっているんだ!」

「証拠……」


 ベルヴァはビューラを一瞥する。いたたまれないような表情の彼女と目が合った。

おどおどと怯えていて、はたから見れば本当にいじめられていそうな様子だった。こんな儚げな少女であれば、誰もがいじめられていると思ってしまうだろう。

 横でべらべらと喋っている皇太子だってそうだ。部下が証拠とやらを持ってきて、なんだか熱弁しているようだがベルヴァの頭には微塵も入ってこない。

どうやってこの場を切り抜けるべきか。とっとと帰宅してしまいたい。いっそのこと来るんじゃななかった。


 ぱちん、と扇をわざとらしく閉じれば、その音で会場が静まり返る。

ぐだぐだと喋り続けていたアルバートでさえも黙ってしまった。そのわざとらしい動作に弁論を邪魔をされたと思ったのか、表情は少し苛立っている。


「お前は公爵家を追放され、路頭に迷うことになろう! 貴族として生きてきた娘が、すべてを奪われて生きていけるはずがないだろうがな!」

「………………なんですって?」


 ベルヴァはそこで反応を示した。アルバートはしめしめと不敵に微笑む。

流石に気丈に振る舞っていたベルヴァも、今ある全てを奪われると思うと生意気な態度が消え去るらしい。――そう思った。

 ベルヴァはそのまま扇を強く握りしめて、ふるふると震えながら俯いてしまった。パーティーに出席していた誰もが、彼女に対して「罰を聞いてショックを受けている」と考えるだろう。


「ふ、くっ……」

「フンッ! あのお堅いベルヴァも、追放となれば涙を流すか!」

「く、……ふ、ふふ、ふっ、あははははは!」

「つ、ついに狂ったか!?」

「ぷっ、狂ったですって!?」


 突如ベルヴァは、扇を落として腹を抱えてはしたなくも大声で笑う。いつものベルヴァであれば「貴族の淑女たるもの優雅な~」だとか「無作法にもほどがある~」だとか言うだろう。

 そう、言う側であって決してやるはずがないのだ。

 崇高で気品のあるベルヴァ、ベルヴァ・ファン=ローン。

そんな彼女が、貴族や王族が集まるこのパーティーで、全てを捨てるかのように大笑いしている。


「いいわ、良いわ! お受けしましょう。ですけれど――貴女はよくって? ビューラ」

「…………」


 誰も恐れぬような気丈な笑顔をビューラに向ければ、ビューラはその言葉を受け取ってギュッと唇を噛み締めた。

 傍から見れば虐めてきた令嬢が、狂ってしまって最後の最後に足掻こうとして喧嘩を吹っかけているように見えるだろう。

当然皇子でありビューラにべた惚れのアルバートは、そんな悪女の悪足掻きを阻止しようとビューラの前に立って守ろうとする。

 この場において、ベルヴァの味方をするものは誰一人として存在し得なかった。


「……す、」

「ビューラ。答えなくていい。あの女はすぐにでもつまみ出――」

「狡いです、義姉様!!!」

「その通りだ! ………………ん?」


 ビューラは自身を庇っていた皇子を押しのけて前へ出た。そしてベルヴァのもとへと駆け寄っていくではないか。

パーティー会場に居た誰もがそれを信じられなかった。

皇子を押しのけたこと? 不仲を囁かされていたビューラとベルヴァが仲よさげに喋りだしたこと? 上げてしまえば切りがない。

 だがそんな信じられない事態を全て超えるような発言を、ビューラがしてのけたのだ。


「私も一緒に追放されるね、義姉(ねえ)様♡」



 ◆◇◆◇



 ――冒険者。それは一般市民から発生する小さな手伝いから、魔物の巣食う洞窟へと足を踏み入れて討伐をする危険な仕事まで――ありとあらゆる仕事を請け負う汚れた者たち。

 そして彼らが所属する組合には、ランク制度が設けられている。以前は存在しなかったのだが、あまりにも無謀な冒険者が命を落としていくためにココ数年で新設されたのだ。

当然ながら上へ行けば報酬は増えるが、その分危険が伴う。

そのためランクが上の人間は、回りから尊敬されつつも「化け物だ」と怯えられてもいた。


 ランクを分けられていると言っても、大雑把に四種しかない。

下からブロンズ、シルバー、ゴールド。そして遥かに上の実力を持つものだけに与えられる、レッド。世界に数人と言われる逸材で、ランク制度を設けてからの間でドラゴンを一人で討伐した者だって存在する。


「申し訳ないです。お二人にお渡し出来る依頼がありません……」

「別に急ぎで欲しいわけじゃないし……。常に高ランクを求めてるわけじゃないから。ねぇ? 義姉様」

「ええ。とりあえず今持て余してるもので構わないわ」

「はい! では確認してまいります」


 スタッフが奥へと消えていくのを眺めながら、二人はほぼ同時に嘆息した。

 この二人、ベルヴァとビューラは長いこと組んで冒険者をやっている――レッドランクだ。

先日も、大多数の冒険者の命を奪ってきた凶暴な魔物を討伐したばかりだ。


「最近やりすぎですかねぇ。平和なのはいいことだけど、来る度にレッドランクがいつもあったよね?」

「そうね。わたくし達は表のストレスもあるから、ついつい派手にやっちゃうのよね……」

「わかるぅ……」


 表のストレスというのは、勿論公爵令嬢として振る舞わねばならないことだ。父親の愛人の件――は、まあついてきたオマケが最高に素晴らしい贈り物だったことで許すとして。

あの頭の足りない皇太子の相手をしなくてはならない心的ストレス。

婚姻の適齢期が近付くにあたって増える仕事。その激務による身体的ストレス。

 そんなベルヴァのストレスを発散できる唯一の場所が、この冒険者組合なのだ。

家のいざこざ、政治、結婚。そんな面倒なことを考えなくていい。受け取った依頼のまま化け物を悪人を狩り、血肉を浴びる。何も考えずにただひたすら切る斬るKILL。

それがどれだけ彼女に幸福をもたらしただろうか。


 元々公爵令嬢としての嗜みの一つに、魔術の制御と応用、そして剣術も取り入れられていた。

騎士達とは違い、実践には不向きの訓練だったものの――ベルヴァの奥底に眠る快感と欲求を呼び覚ますには十分だった。

 それまで〝お嬢様〟として生きてきたベルヴァは、ある夜ついに夢を実現させた。ストレスが決壊したことによって、彼女の溜め込んでいた欲望が溢れ出したのだ。

こっそりと寝室を抜け出してやってきたのは、今や御用達の冒険者組合だった。


 そこからは早かった。元々基礎力はあった彼女。

公爵令嬢として厳しく育てられ魔術の適性も高かったからか、入りたてのブロンズランクからメキメキと力を伸ばし――今やレッドランクに鎮座している。


「そう言えばこの間お茶会で、義姉様が悪事を働いているという噂を聞きましたよ」

「あくじ……」

「私を虐めてるだとか……」

「貴女を? 貴女とじゃなく?」


 確かに〝趣味〟がお互いバレたくないということで、表では一切関わらないようにしていた。……とはいえ、義理の姉妹なのだ。

距離をおいていれば不仲が囁かれる。しかし愛人の娘と仲良くするほど、〝公爵令嬢〟は出来た少女ではない。


 しかし本当の彼女達が不仲かといえば、見ての通りノーである。

本来の二人はお互いの命を預け合う、仲間であり家族であり親友でもあるのだ。





 その出会いは、数年前。

公爵が愛人とその娘を連れてきた時だった。ベルヴァは酷く絶望した――表では。

正直その時点でのベルヴァは、既にストレスの発散方法を心得ていた。冒険者組合には長いこと籍を置いていて、最早熟練者。年齢こそ若く女であるものの、組合に入り浸る人間であれば誰もが彼女を知っていた。


 ビューラが家にやってきた晩も、そのストレスを忘れるためにこっそり家を出る。

当然ながら表から出ることなど不可能で、見つかってしまえば家族会議ものだ。だからベルヴァは必ず自室の窓から出る。

 バルコニーに出て、夜風に当たればその気持ちよさで嫌なことも忘れられる。……と、同じタイミング。

隣のバルコニーにも人が立っていた。


「……え?」

「ん……?」


 お互いに気付いて見つめ合う。……隣の部屋といえば、今日屋敷にやってきた義理の妹の部屋だ。

時刻はもう既に眠っていてもおかしくない、深夜も深夜。草木も眠るなんとやら、である。

 そんな時間に、少女がバルコニーで――しかも、寝間着などではなく薄汚い旅人のような衛兵のような戦闘をこなすような服。

というかそもそもとても見たことのある様相。

いやもっと言えば、冒険者としてチームを組んだこともあるかもしれない見た目。とてつもない見覚えに、何度もペアを組んだことのある気の合う少女を思い出し始める。


 恐らくビューラと思われる少女は、体型を隠すような体をすっぽり覆うようなマントをしている。ストールで顔の殆どを隠し、一見判別出来ないものの――その唯一覗く瞳はまだ幼さを感じる少女の目だった。

 ベルヴァも同じく身分が分からないように顔を隠している。フード付きの装備に、目元を隠す黒いマスク。

ビューラと同様にストールをしているが、緊急時以外には首に巻かれているだけだ。


 見つめ合っていたのはたったの数秒だったが、お互いの脳内で繰り広げられた思考は一時間にも及ぶような長さであった。

走馬灯のようにフラッシュバックされる今までの記憶達。共に高め合い競い合い分かちあったあの瞬間。

 血にまみれても笑顔ではしゃぎあった快感。分かち合える同性がいるのだと知った喜び。

 忘れるはずもない。つい先日も一緒に魔物を狩り殺したばかりだから。


「ベルヴァ……お義姉様……?」

「ビューラ、貴女……」


 お互いに趣味が一緒だと分かれば確執など消え去った。

表向きを繕わなければならなかったのは苦しかったが、二人とも趣味が露呈するのを恐れて隠し通すことを決めた。

 ただしここでいう恐れたと言うのは、バレてしまえば趣味が行えなくなってしまうという懸念からである。

令嬢としての正しい振る舞いがどうこうではなく、戦って汗を流し血を浴びれなくなることを恐れていただけなのだ。


 だからビューラは大人しい儚い少女に、ベルヴァは厳しくも聡明で見目麗しい令嬢へと徹することにした。

でなければ本性が現れて、素の状態で喋ってしまいそうだったからだ。

不仲を見せつけるだけだったはずなのに、どうしてだか回りの勘違いか画策のせいであんな事件になるとは思いもよらなかったが。





 そんなこんなで現在はレッドランクの冒険者ペアとして、二人一緒に行動することが多い。

家も一緒なため予定も調節しやすいのだ。


「今から来週のパーティーが不安だわ」

「貴族が一堂に会する機会ですからね。あのバカが義姉様を裁くなら、そのタイミングだろうね」

「あぁー! 嫌だわ。人間関係も剣でぶった斬れれば楽しいのに」

「それが出来たら私達こんな苦労してないからねぇ」

「――おまたせしました!」


 二人が社交界(おもて)の愚痴を繰り広げていると、スタッフがパタパタと駆け足で戻ってくる。良い感じの依頼が見繕えたのだろう。

二人も二人で、やっと殴れる! と歓喜する。


「ランクは低めなのですが、村人が何人も襲われて殺されていまして。緊急性のあるものです。誰も好んで受けてくれないので困っていた依頼でして……」

「ランクが低いのに?」

「あ、低いと言ってもゴールドランクです! 汚れ仕事や後始末の部分もありますので、その……」

「ほら、ビューラ。ゴールドの連中はレッドに上がれもしない、ただの高慢ちきもおりますから」

「なるほど! 流石です義姉様」


 実を言うとこのレッドランク義理姉妹、汚れ仕事も大好きなのだ。喜んで引き受けるほどである。

しかも組合が消費できずに渋っている依頼を片っ端から片付けてくれるので、組合にとっては最高の取引相手ともいえよう。

 姉妹はストレスを発散できてアドレナリンでハイになれるし、ついでにお小遣いだってもらえる。組合は溜まりゆく無理難題な依頼達が消費される。

お互いにウィンウィンの関係を築けているのである。


「目的地はこちらの地図に記載しました」

「有難う」

「いいえ。ご武運を!」


 組合を出ると二人は馬屋に向かった。長い休みであれば徒歩でも構わないのだが、一晩で行って帰って来ねばならない。

その為に世話になるのが馬屋なのだ。


「もう少し遠かったら〝あれ〟を呼ぶんだけれどね」

「あんまり都市部に近い場所で呼びますとねー。目立つとまた面倒くさいもん」

「そうね。大事になって困るのはわたくし達だものね」


 時刻的には真夜中だが、こんな時間でも馬屋は問題なく営業している。

それはこの都市において冒険者という存在が重要であるからだ。

 お硬い王国の騎士団や衛兵とは違って、適切な金銭を積めば何でもやってくれる。王国騎士なら絶対に断るであろう畑仕事や、汚れ仕事も。なんでもだ。

それはもちろん都市部内だけではない。組合自体は国境をまたいで存在するので、仕事とあればどんな場所へも行かねばならない。

 当然ながら徒歩で向かうものも存在するが、健脚な冒険者ではない限り大抵は馬を用いる。

そしてそんな頻繁に使われる馬だからこそ、二十四時間営業で貸し出しを行っているのだ。


「こんばんは。いい夜ね」

「やあ、アンタらかい。仕事かね?」

「ええ」

「なら悪い知らせがあるなあ。アンタらの愛用してる一番速い馬が、今日は生憎貸し出しされてるんだよ」

「まあ……」


 夜の数時間だけが彼女達の自由時間であるがゆえに、スピードというものは重要視される。

もう数年と冒険者をやっている二人は、この馬屋とは顔なじみである。だからその特権として、毎回店主には一番いい馬をあてがってもらっているのだが――今回は店主の言う通りその馬は出払っているらしい。


「心配しないでくれよ。次に速い馬はあるから」

「そうなのね。ではそちらをお借りできます?」

「おうとも!」


 二人は馬を借りるとすぐさま都市を出た。メイド達が〝令嬢〟を呼びに来る時間までに帰宅しなくてはならない。

正直に言えばもっと早めに帰宅して、多少の仮眠を取れればと思っているくらいだ。


 それに依頼内容が少々手こずる内容だったから、一分一秒でも時間が惜しい。

 今回の依頼内容は、村近辺に出ている狼のような魔物――シャドウ・ハウンドの討伐。

非常に気性が荒く血肉に飢えている。集団で己よりも弱い生物を襲い、その肉を貪る。死肉にも群がる傾向があり、特にそういったことがザルな地方部では多く見られる魔物だ。

 光を嫌い、同じくものを照らす炎も嫌う。闇に住まうシャドウ・ハウンドは、そういったものを好まない。

彼らが狩りをするのも夜で、真夜中に出歩く非常識な者たちを食い荒らすのだ。

 適切な血肉の処理と、彼らの嫌う光と炎を配置しておけば襲われることはまずない。

しかし都市部とは違ってそういった管理が難しい地方では、シャドウ・ハウンドにとっては格好の的なのだ。


「どうします?」

「適当な木を加工して、明かりを作ってあげましょう。魔術で強化すればちゃんとしたものが届くまでは、使えるはずだわ」

「はい、義姉様」




 数十分ほど馬を走らせれば目的地の村はすぐそこだ。馬屋の主人が次に速い馬だというだけあって、一番速い馬に負けず劣らずの速度であった。

このままであれば無事に仮眠の時間を取れそうだ、と二人は喜ぶ。


「ぎゃああぁ! 誰かぁ!」


 こんな依頼の状況で叫び声を聞きつければ馬鹿でも分かるだろう。

誰かがシャドウ・ハウンドに襲われている。

 ベルヴァとビューラはアイコンタクトをすると、急いで馬から飛び降りる。先に飛び出したのはビューラの方だった。

馬にも劣らぬスピードで、声のした方へと駆けていく。


「私は馬の護りを固めたら行くわ!」

「はい!」


 使い捨ての馬ではなく金を払って借りたものだ。シャドウ・ハウンドのいる森に捨てていくなんてことが出来るはずもない。

シャドウ・ハウンド達の意識が今襲われている人間に向いているとしても、暗闇を支配する彼らの領地に踏み入れた(えもの)を放っておくはずがない。

 ベルヴァは二頭を紐で木に縛った。二頭ともいい子たちだが、縛らずしてその場に待機してくれるほど出来た馬でもない。


「〈光の精霊よ、この地を照らせ〉」


 ベルヴァが呪文を唱えると、光の粒達がふわふわと現れた。馬のいるあたりを囲うように浮遊すれば、馬の周囲をドーム状の膜が包み込んだ。

シャドウ・ハウンド対策というよりは、野営や夜中に本を読むときに使う魔術だ。本当に明かりを必要とするときに使うだけで、防御も攻撃も何も出来ない。

 生活魔術、とでも形容するべきだろうか。多少の教養のある一般人でも使えるような魔術だ。

炊事の為の火をおこしたり、洗濯物を乾かすそよ風を生み出したり。膨大な魔力や勉強が無くても使えるような、そんな魔術の一つ。

 急場凌ぎだが、シャドウ・ハウンドには最適だろう。

 冒険者に貸し出されるだけあって、馬達はこういう事態に慣れっこなのか大人しく待っている。ここで暴れられたらまた別の魔術を唱えねばならなかったが、その必要がないことにホッと胸をなでおろす。


「御免なさいね。ちょっと待ってて頂戴」


 よく手入れされた栗毛をひと撫でふた撫でして、先に走っていった義理の妹を追った。




「助けてくれぇえ!」


 木の上で情けなく叫んでいるのは、成人をとうに過ぎた男。

その下には獲物にありつこうと吠えるシャドウ・ハウンドの群れ。よだれを垂らし、目の前の生きたご馳走にかぶり付きたいと必死である。

木の幹に体当たりをしたり、かじりついたりとそれは必死に襲っている。

 闇に溶け込むようなその漆黒の色合いに、瞳の赤がギラリと光る。人間の骨も簡単に砕くような顎に、剥き出しの鋭い牙。

そんな魔物が群れをなして人を襲うのだから、怯えない住民など居ないだろう。


 それだというのに冒険者達はこの依頼を後回しにしていた。

住民からすれば死ねと言われているようなもので、毎晩眠れぬ夜を震えて過ごさねばならない。

 シャドウ・ハウンドではなくとも、遠方から犬や狼の遠吠えが聞こえれば休まる気もしないだろう。

ただでさえ都心部から遠い場所にあるのだ。シャドウ・ハウンドに限らず驚異はあるだろう。

そんな村人をここまで追い詰めているのに、何故冒険者達は動かないのか。

――と、ビューラは思っていた。


「ッラァア!」


 草むらから飛び出したのは、ビューラだった。昼間には淡いピンクのドレスを纏って儚い令嬢をしていたあのビューラである。

そんな両手に光るのは、〝聖女の力〟に耐えうる特殊加工を施したメリケン――ナックルダスターである。


 常人が見たら目にも止まらぬ速さで拳がヒットすれば、シャドウ・ハウンドの体が飛び散る。

血肉がびちゃびちゃと音を立てて辺りに吹き飛んでいき、他のシャドウ・ハウンド達もたじろいだ。

 ビューラの攻撃は主にこのナックルダスター。聖女たる力を始めとした魔術を乗せて繰り出す攻撃は、そんじょそこらの冒険者では成し得ない攻撃力を誇る。

見ての通り原型を留めぬ肉片へと姿を変えるのだ。


「あハッ……♡っふぅ~……」


 素性がバレないように顔を隠していてよかった、と毎回思う。

表情が、分からないのだから。


 自分の拳が魔物や人間に当たり、肉が爆ぜていく感覚。その度にゾクゾクとした快感を得る。

人を助けているだけだというのに、自分が得ているのは金銭だけではなく――歓び。

愉悦と背徳、罪悪感。生きているという実感、そして何よりもこれに対する強い依存。

 そんな感情が入り混じって、戦闘中は常に不気味な笑みを浮かべてしまうのだ。

これはビューラに限ったことではない。ベルヴァも同じく、ニヤニヤと笑いながら戦場に立つ。

 こんな気色の悪い二人だからこそ、異母姉妹という歪な関係であっても強い絆で結ばれたのだ。


「……はあ。さて。いけない、いけない。ちゃんと仕事しなくちゃ」


 シャドウ・ハウンドはまだ動こうとしない。木の上の男を襲うこともやめた。

仲間の一匹が一瞬で肉塊に成り下がったのがしっかりと影響しているようだ。

 元々シャドウ・ハウンドは弱者を襲う(たち)がある。

故に圧倒的強者が目の前に現れれば、怯えて動けなくなるのも当然だろう。……勿論、動いた瞬間ビューラにひねり殺されるのが決まっているのだが。


「行くよ」


 とん、と跳躍すればその場からビューラが消えた。

次の瞬間にはシャドウ・ハウンド達の背後に再び姿を現す。そして一拍置いて、シャドウ・ハウンド達が一瞬にして飛散した。

 きっとシャドウ・ハウンドは殺されたことに気付いていないだろう。とはいえ意識も吹き飛ぶほど原型を留めていない。

辺りは暗闇に包まれているが、シャドウ・ハウンド達の血液で赤々と染まっていた。月の微かな明かりでもその赤がはっきりと分かった。


 ビューラが木の上を見上げると、怯えた男が必死にしがみついているのが見えた。強く目を瞑っているせいでビューラが倒したことにも気付いていない。震えたままだ。

さらに言えばビューラが来たことにすら気付いていないらしく、助けてくれと叫んでいる。


「はあ、もう終わっ――」

「ガルルルッ!」


 ビューラが一歩、足を進めた時だった。背後の草むらから一匹のシャドウ・ハウンドが飛び出してきたのだ。

惨状を見ていなかったのか、相手の力量が測れないのか、仲間の恨みか。それはわからないが、兎にも角にもビューラの死角からシャドウ・ハウンドが襲ってきた。

 咄嗟に振り向いて拳を構える――が、足元が血肉で滑り体勢が崩れる。

このままではきちんと殺せない。拳が空振りする位置だ。

後少しで牙が彼女へ突き刺さる、そんな時だった。


「ギャッ!」

「!」


 人のサイズ程ある巨大な剣が物凄い速さで飛んできたのだ。

大剣はシャドウ・ハウンドに突き刺さると、そのまま飛んで木に深々と刺さる。シャドウ・ハウンドはダラリと体を垂らし、動かなくなった。

大剣が胴を貫けば、誰だとしてもひとたまりもない。

 飛んできた方向を見ずとも、ビューラにはその人物が分かっていた。


「油断しないの。危ないでしょう?」

「うぅ……ごめんなさぁい」


 投げたのはベルヴァであった。

ベルヴァはビューラの側を横切ると、突き刺さった大剣の方へ歩いていく。大剣を掴んで軽々と引っ張った。

べちゃりとシャドウ・ハウンドであった肉片が地へと落ちる。それを見たベルヴァの表情は、ビューラ同様恍惚に満ちている。

もう二度と戻れない快感を知ってしまった顔だ。

 ブオンという音を立てて大剣を振るえば、シャドウ・ハウンドの血液が取り払われた。

慣れた動作で大剣を背中に戻す姿は、昼間に公爵令嬢として振る舞っていた少女とは思えぬ達人ぶりである。


「それにしても派手にやったわねぇ」

「はい! 楽しかったよ!」

「そう。なら良いわ。私は彼と話をして落ち着けてくるから、馬達を回収してくれるかしら?」

「はーい!」


 表であれば「お義姉様が私に命令をしたんです、よよよ……」なんて、皇子に告げ口するほどだろう。

だが冒険者としてのこの姉妹は、皇子のことを罵り合う仲である。決してアルバートを味方にしたいなどとは微塵も思っていないのだ。

剣すらまともに握れぬ青二才に何を守って貰おうと言うのだろうか。

 所謂親の七光り。皇帝という父親が存在しなければ、その地位その権力は得られなかったであろう無能だ。

むしろアルバートに守ってもらうよりも、ビューラが自分の拳で言い聞かせた方が強いところだってあるのだから。


 ベルヴァはビューラを見送ると、未だ木の上で震える男に歩み寄る。

この惨状を見たらまた別の意味で震え上がりそうだが、依頼として来ているし、何より早く帰るという目標もある。彼女達はタラタラしていられない。


「ねえ、貴方」

「ヒィッ!」

「ちょっと……。貴方が「誰か助けて」って叫んだのでしょう? だったら来た救世主に気付いても良いのではなくて?」


 ふう、とため息をつきながらベルヴァは言う。流石の男も気付いたのか、薄目であたりを見渡した。

あの恐ろしい魔物は見当たらず、顔を隠した少女が立っているだけだった。

〝本当に撃退したのか〟という疑問はあれども、もうこの木の上で震える心配がないことを悟る。


「君が助けてくれたのかい……?」

「まあ……そうですね」

「あ、ありがとう……! 妻子を残して死ぬところだった」

「あら、ご家族が?」


 聞けば男は、突然体調を崩した子供のために村から出てきたのだという。運悪く手持ちの薬草が切れていて、子供も苦しそうにしていることもあって覚悟を決めて森へと入ったのだ。

 さして村から離れていない場所に群生する薬草で、少しだけ採れれば十分だと思っていた。

だから明かりも何も持たずに身一つで飛び出したのだが、それがまずかった。

何事も慢心してはいけないというのを知らしめられたのだ。

こうして二人が間に合っていなければ、二度と妻子に出会えないことだったろう。


「こんな夜に立ち話もなんですから。わたくし達は組合の依頼を受けて来たんです。村へ案内していただけませんか?」

「ええ、是非」





「村人を救っていただきありがとうございました」


 ベルヴァ達を待っていたのはそんな言葉だった。

組合が長らく放置していた依頼で、人々の命がかかっているというのに。ベルヴァにとっては意外な反応だった。

 もっと「どうしてもっと早く来てくれなかったんだ!」「お前達が遅いせいで家族が!」みたいなたぐいの罵詈雑言を投げかけられると構えていたのだ。

 だが実際に彼女達に与えられたのは、感謝とねぎらい。

お疲れだろうから、とお茶まで用意してくれたのだ。


 ――数年という時間は長いようで短い。しかしそれでも、レッドランクの手練な冒険者として、酸いも甘いも経験してきたつもりだった。

 粗悪な依頼人もいれば、待遇のいい依頼人もいる。

組合に長らく放置されていた依頼であれば、その依頼者は少しばかりは苛ついていても仕方ない。

だからどれだけ罵られようと、仕事を完遂してとっとと家に帰る。そのつもりだった。


「い、いえ」

「意外ですねー、怒られると思いました」

「こ、こらっ、ビューラ!」


 表ではあれだけ儚げ美少女を演じきっているくせに、こんなところは素直なのか。思ったことをペロリと口から漏らしてみせるビューラ。

ベルヴァはわたわたと焦りながら、義理の妹を制御できなかったことを悔やむ。


「いいんですよ。……もう、見捨てられたと思っていましたから」

「あ……」


 この村の人間達は、とうに諦めていたのだ。

都市部からたいして離れているわけでもないが、森の中の完全に孤立した田舎の村落。特に売り出せる特産品もなく、目立っているような催しもない。

組合も、村の人々も、それぞれで見切りをつけていたのだ。


「……夜中に申し訳ありませんが、大人――出来れば男性を数名お借りできますか?」

「はい?」

「簡素ですが、シャドウ・ハウンドの嫌う明かりの設備を作ります。後日しっかりしたものを届けさせますので、それまでに持つものを」

「あの……?」


 村人が疑問がるのにも目をくれず、ベルヴァは美しい体勢で頭を下げた。それを見たビューラも、少し微笑んで同じく頭を下げる。

一介の冒険者というよりも、貴族がそこにいるような感覚にさせられる。そんな美しい所作だった。


「到着が遅れてしまい、申し訳ありませんでした」

「……っ」

「私情を挟むことをお許しいただきたいとは言いませんが、わたくし達は時間が限られる身。後日また伺うつもりですが、本日はこの応急処置にてご納得頂けませんでしょうか」

「何を……。我々は、貰いすぎですよ……。お、男どもでしたら、今叩き起こしてきますので! お待ちを!」


 ビューラは逃げるように走っていった男の頬に伝う涙を見逃さなかった。

彼の中には様々な葛藤が渦巻いていたことだろう。

 助けてくれた嬉しさ有り難さ、今更謝罪なんて……と思う心。レッドランクという高い地位にいる熟練の冒険者だというのに、頭を深々と下げて謝罪するその真摯さ。

混乱させてしまっただろうか……と頭の片隅で思いつつも、ベルヴァに倣って誠意を持って謝罪をしたかった。


「ビューラにお願いがあるの」

「何なりと!」

「あの馬鹿皇子に、それとなく頼めないかしら」

「組合の改善を?」

「ええ」


 口うるさい小姑のようなベルヴァならばともかく、愛しいビューラの願いであれば聞き入れてくれるだろう。

恋は盲目なのか、純粋にアルバートの頭が悪いだけなのか。

 ビューラが聖女とはいえども、公爵の愛人の子供と仲良くするだなんて普通はありえないこと。

帝国のしきたりとして必要となる聖女であるから、形式上仲良くしておく必要はあるが――アルバートの〝あれ〟は完全なる恋心、下心である。


「他でもない義姉様の頼みであれば、このビューラ頑張っちゃう!」

「有難う。貴女に何度も救われているわね」

「でぇっへへ」



 その後、村長が連れてきた男達を連れてベルヴァとビューラは外に出た。

村の周囲に一定間隔を置いて明かりを設置する。聖女パワーを伴った魔術で保護してやれば暫く持つので、ビューラは保護魔術も買って出た。

 元々森の中に住んでいるだけあって、村人達は木材の扱いに長けていた。仮眠を取れないだろうな、と覚悟していた二人だったが杞憂に終わったのだ。

テキパキと指定した通りに木材を組み立てて、ベルヴァとビューラの魔術付与が間に合わないくらいだった。




「無事に終えて良かったですわ。きちんとした明かりを作ってもらうよう、こちらから組合に話し合っておきます」

「何から何まで……!」

「ありがとうございます!」

「いいえ。では、皆様お気をつけて」

「はい!」


 村人たちに見送られながら、ビューラとベルヴァは村を後にした。

 馬に乗りつつ、ふと空を見上げる。星の位置を確認すれば、現在の時刻が大方割り出せるのだ。

時刻はまだまだ夜遅い。移動時間も含めて、受注してから五時間と経過していなかった。


「ビューラ」

「はーい」

「お腹空かない?」

「ペコペコです♪」

「決まりね」


 二人は馬を止めると、またもビューラだけが駆け出していく。

夜中の暗い森の中に妹が消えていくのを見つめながら、辺りを観察する。

 野営というほどではないが、夜食を取ろうとしているのだ。腰掛けられて火を起こしたり出来る、少し広い場所がいい。

幸運にも近場に開けた場所を見つけたベルヴァは、馬をそこまで連れていき餌を与えた。


「〈光の精霊よ、この地を照らせ〉」


 ふわりと明かりが周りを包み込んだ。二人にとってシャドウ・ハウンドなど気にするレベルの魔獣ではないので、この使用方法は本来通りの〝明かり〟としての役割だ。

これから可愛い妹と遅めの夜食だというのに、薄暗い森の中で細々と食べるのは少し違うだろう。

 そもそも〝作業〟するにあたって、暗いと手元が狂ってしまうかもしれない。

妹との楽しい食事のためでもあるし、それに及ぶための大切な明かりでもあるのだ。



 さて、その肝心の妹といえば。姉を差し置いて森の中に消えていったのには訳がある。

 彼女は元から貴族だったベルヴァとは違い、所謂平民であった。

そのため生きていくためには何でもやるしかなかった。


 物心つく頃にはもうすでに冒険者としての地位を確率していた。そして腕利きの狩人として森の中を蹂躙していた。

お金がないのであれば、自分から獲物を手に入れねばならない。そういった考えのもとビューラは生きてきていた。

 力がついて、魔術も学び、聖女の力も加わって彼女は変わった。

生活のために行う狩りから、歓びを得るために血を流させた。


 すっかり変貌を遂げた頃には、貧しかった彼女は存在していなかった。

そして気付けば上がるところまで上がってしまっていた。

 冒険者組合の顔見知りや名前を知る者たちは、ビューラを見聞きすれば恐れおののいた。ただ生きるために必死に足掻いていた少女は、いつの間にか化け物と同じところまで来ていた。


 避けられようがビューラは冒険者をやめない。

いいや、やめられなかったのである。

 まるでドラッグのように血肉に対する依存心は増えていくばかりだった。

正しい場所へと戻れる道はもうとっくに断たれて、ただひたすら暴力に飢える奈落へと落ちるだけだ。


「ただいま、義姉様!」

「あら。早かったわね」

「義姉様を待たせられないから! あ、ほら、鹿がいたんです!」

「いい感じのサイズね。処理するからこちらへ」


 幸運なのか不幸なのか、そんな落ちに落ちたビューラはベルヴァと出会った。

初対面こそ最悪だったものの、意気投合してからは早かった。同じ地獄の住人だからこそ成し得た絆なのである。


 ベルヴァはビューラから鹿を受け取ると、慣れた手付きで捌いていく。

横ではキラキラと目を光らせながらビューラがその様子を見つめている。さながら祭りにやってきた幼子だ。


「いつ見ても美しい包丁さばきですねぇ……」

「ふふ、有難う。動物は二年、海産物は一年修行したもの。腑分けなら、自信アリよ」

「私も習おうかなぁ……」

「いやだわ。聖女というだけで貴女のほうが優れているのに。これくらいさせて頂戴な」

「もぉ~、義姉様ってばぁ」


 ……などと、令嬢にそぐわぬ会話をしながらも手は止めず。

食べる肉、食べない肉。臓器。骨、皮。てきぱきと切り分けていく。

 狩った動物はこの食べざかりの冒険者姉妹が食べると同時に、全て余すこと無く使われる。

自然や命に対する礼儀という言い方をすれば聞こえが良いが、純粋に冒険者として必要なのだ。

 それは薬剤だったりとか、皮を用いた道具だったりとか、換金だったりとか。場合によって様々だが、基本的には全てを使い切る。


 なんと言ってもこのベルヴァ嬢は、口に入って咀嚼できれば何でも食べるゲテモノ食いでもある。

あろうことか治癒魔術を用いて見たことのない、明らかに色味が毒だと主張するキノコだったり、薬草だったり、魔物の肉だったりを食べたりもする。

 元々ストレスから始まったこの〝冒険者〟だ。

この彼女のゲテモノ食いも、今まで令嬢としての鬱憤が爆発して生まれた趣味なのである。


 しかし流石のビューラも、毒物を食べるのはやめてほしい、と止めることもある。

公爵令嬢として厳しく育てられた故に、その魔術は確かなものだ。治癒魔術をかければ死なないだろうと分かっているものの、大好きな義姉が毒物を進んで食べるのを許容出来る妹がいるだろうか。

 ここでビューラが噂の通り、仲が悪く虐めてくる姉を憎んでいるのならば許すだろう。

だがこうして命を預けて一緒に食事をする大好きなベルヴァ。そんな義姉の奇行を許せるはずがないのだった。


「ね・え・さ・ま」

「はっ……!」

「よだれを垂らして臓器を見るのをやめて頂けますか」

「ご、御免なさい。ついね」

「この間魔術かけずに食べてお腹壊したじゃありませんか! 聖女の癒やしの力で治ったからって、調子に乗ってると本当に死んじゃいますからね!? 嫌ですからね!?」

「わ、分かったわ。御免なさい。この臓器は町の薬師に売りましょう」


 申し訳ないと思いつつも、ぷりぷりと怒っている妹が可愛らしくてついつい笑ってしまうベルヴァ。

自分を笑われ尚且反省の色も見られないベルヴァを見て、ビューラは小さくため息をついた。


「ビューラ、調理器具を出して頂戴」

「はぁーい!」


 ビューラは返事をすると、魔術空間から調理器具を一式取り出した。お皿やフォークも一緒に取り出すと、カチャカチャと設置していく。

ベルヴァの肉の処理も終盤に差し掛かっている。となればあとは料理するだけだ。


「ステーキ用の調味料とソースもあったかしら?」

「ありますよう!」


 魔術空間から出るわ出るわの香辛料、ソース。諸々。

本来であれば魔術空間には剣一本しまっておくのが精一杯と言われている。

そもそも剣一本だけでも相当な魔力量を必要とされ、魔術空間を扱えると聞けば驚かれるほどだ。

 だがビューラは聖女という強化(バフ)によって、魔術の威力や魔力量も同じく強化されている。

一言で言えば化け物並みの魔力量を有している。本気を出せばそこに住めると言われたときは、流石のベルヴァも驚いたものだ。


 今となってはそんな貴重な力を冒険者のときのかばん代わりとして使っている。

きっとこの国の皇帝が知れば倒れてしまうだろう。神聖な力をなんてことに使ってくれているのだ、と。

というか皇帝ではなくてもぶっ倒れるだろう。あまりにも非常識すぎるのだ。


「うへへぇ、でも義姉様ぁ? こーんな夜中にステーキだなんてぇ」

「う、うるさいわね。運動して、魔術も沢山使ったからいいのよ」

「コルセットが締まらなかったら、また侍女に叱られるぞぉ」

「貴女も食べるのだから同罪です!」

「へへーん」


 その後二人は一緒に鹿肉ステーキを食べ、少しの仮眠時間を確保した状態で屋敷へと戻った。


 日が昇り、日常が再び回れば冒険者として素をさらけ出せる時間はおしまいになる。

侍女がやってきて身なりを整えれば、令嬢として――ベルヴァ・ファン=ローンとビューラ・ファン=ローンとして生きねばならない。

本当は仲が良いはずなのに、素っ気なく振る舞わなければならないこと。

本当は無邪気に森を駆け回りたいのに、お淑やかに過ごさなければならないこと。

それらが再び彼女達のストレスになっていくのだった。



 ◆◇◆◇



「な……何を言っているんだ、ビューラ?」

「ですから、義姉様と一緒に追放されます! ねー、義姉様♪」

「そうね。そうと決まれば行きましょうか」

「はい! これであの面倒くさい顔隠しも要らなくなりますかね?」

「まっ、待て!」


 ビューラがベルヴァと腕を組む。二人の世界、と言わんばかりにその場から去ろうとする少女たちに、アルバート皇子が声を荒げる。

 アルバートは今の今まで、愛しい愛しいあの儚いビューラ嬢のために頑張ってきたのだ。彼女に害をなす女を排除し、もしも陰口なんて言っていようものならば即刻処刑した。

何度も高価な贈り物だってしてやったし、パーティーを開いてやったり、お茶会に呼んだりと甲斐甲斐しく愛を送った。


 それだというのに。この揺れる紫色の瞳は、もうあの儚げな少女ではなくなっていた。


 ここで一つ説明することがあるとするならば、先述したアルバートによる愛たちは一方的なものである。

ビューラの趣味嗜好を知っているならば、彼女が煌めく宝石や流行のドレスを好んでいないのが分かるだろう。

 だが本当の趣味をビューラが誰かに言うはずもない。知っているのは共通の趣味を持つ義姉、ベルヴァただ一人。

 だから結局、アルバートにとっては愛を送っていたと思っていても――ビューラにとってはご機嫌取りの不要物。

相手が皇族であるから「まあ嬉しい」「ありがとう」などと世辞を言うものの、アルバートに対してちっとも心を開いていなかった。


「あぁ、頂いたものなら何一つ手を付けていませんから。公爵家の私の部屋から持ってって下さい」

「はっ? え、あぁ?」


 元々皇子はたいして能がない男だが、ビューラのその言葉を聞いた反応は更に頓狂に見える。

ベルヴァに至っては情けない顔と声のアルバートを見て、クスクスと笑っている始末だ。


「待って欲しい、ベルヴァ公爵令嬢。並びに聖女ビューラ」

「!」


 そんな情けないアルバートを置いて、冷静に声を上げたのは現皇帝だった。

軽率にビューラをも連れて行くと言ったが、この国にとって聖女という存在は大きい。故に失うということは多大な損失となる。


 元々この国――テイアーズ帝国において、聖女というものは頻繁に顕現するものではない。

近い将来、この聖女が存命の間に何か大きな災厄が起こりうるときに現れるのだ。救世主として、そして災いを予兆するものとして。

 そして聖女が現れたとき。皇帝もしくは皇子にその力を受け継がせ、儀式を行う。

北の山に住まう強力なドラゴンと、帝国を守る契約を結ぶのだ。


 力を受け継ぐといっても簡単じゃない。数年という長い時間をかけて、じわりじわり、ゆっくりと聖女から皇子もしくは皇帝へその力を流していく。

あまりにも非効率だ。

 しかし聖女が頻繁に現れるわけもなく、その度に議題に出ては解決もないまま話が消滅していくのである。


「――北のドラゴンですわよね」

「…………」

「お待ちを」


 ベルヴァは微笑んでお辞儀(カーテシー)をする。

未だ腕に絡みついているビューラに対し、やさしくポンポンと触れてやれば名残惜しそうにも離れた。

 大きく開かれたパーティー会場のバルコニー。そこへ向かってコツコツと歩んでいく。

会場はしんと静まり返っていて、ベルヴァのヒールの音だけが響いていた。


 バルコニーに出ると、星の輝く夜空に向けて呟いた。


「〈我が名、我が生命、我が力に応えよ。北の黒竜よ〉」

「!! そ、それは……!」

「はっ、ベルヴァ! 意味のわからい言葉を並べて……」


 知識のないものにとって、その言葉は異国の言語に聞こえただろう。アルバートのバカ皇子に至っては、ベルヴァがついに狂ったとまで思わせた。

流石にこの状況下でベルヴァが狂ったなどと思ったのはアルバートくらいだ。

この場にいる紳士淑女の皆々様方はそう思わなかった。

 それよりも、皇帝が驚愕していたことに気が行くだろう。

息子はこうだろうとも、現皇帝も頭が悪いわけではない。そもそも頭が悪ければ国の長など務まらぬのだ。


 つまるところ皇帝は、ベルヴァの唱えた言葉を理解していた。皇族にしか伝わらないその言葉を、どうして公爵令嬢が知り得るのか。

答えはひとつしかない。


「あ、れは……」

「なんだあれは……」

「まさか――!」


 ベルヴァが言葉を呟いてから一分も経過していない。

それだというのに、星のまばゆい空にバサリと翼の音がする。


 バルコニーに降り立ったのは、漆黒の体を持つドラゴンであった。

伝承の通りの巨体に、見つめるだけで人を殺しそうな瞳。北の山々と――この帝国を守りしドラゴンがそこにいたのだ。


「我が名を呼んだか、少女よ」


 その重圧感のある声を聞けば、パーティー会場に居た誰もが恐怖を感じた。

初めてドラゴンに対峙したことと相まって、その恐怖は絶大なものだった。

 怯えた令嬢達はエスコートしている男性にしがみついて震えている。それだけならばまだしも、恐ろしくて自分の力で立つことも不可能な者もいた。だらしなくもその場に座り込んで、ガタガタと震えてしまっている。

まるで子供のように泣き出す者だっていた。醜くもあるが、この場でその者を否定できる存在なんていもしない。

 目の前に存在するのは、恐怖の権化そのものだった。


 たった一言であったが、きらびやかなこの空間を恐れで支配したのだ。

次の一言がなんであれ、貴族の面々はこの圧倒的強者であるドラゴンに逆らえることはなかった。


「は?」

「誰がそんな口利いてるの?」


 ……この二人を除いて。

 ドラゴンがビューラとベルヴァの発言を聞くと、ビクリとあからさまに怯えだした。巨体をできるだけ小さく収めんと羽をしまい込み、申し訳無さそうに佇んでいる。


「すいません、(あね)さん!! まさか皇帝の前に呼ばれると思わなくて、自分、その……」

「はあ、まぁ良いわ。さっきの一言で貴方の本物加減も分かっただろうし」

「あざっす!」

「寛大な義姉様が許したとしても、私が許したわけじゃないからね」

「ウッス、ビューラさん! サーセンッッ!」


 言わずもがなこのドラゴンはベルヴァの支配下にある。

討伐したのはまだビューラと行動を共にする前だ。

 たまたま訪れた北の山脈にて、たまたま出会った生意気なドラゴン。

鬱憤が溜まりに溜まっていたベルヴァがそんな格好の餌食を逃すはずもなく、当然の如く剣を振るった。

 のちのち知ったのが、実は帝国と協定を結んでいるドラゴンだということ。

聖女なんてここ数十年生まれていないことから、ベルヴァもベルヴァで移動用や運搬用として活用していたのだ。

そう。帝国を守りし黒竜を、泥臭い冒険者の足として。


「そういうわけでご安心ください、皇帝陛下。()()()()()()()()()あしらえる敵ならば、わたくしとビューラで迎え撃ちますわ」

「それでは、私達は追放ですので失礼しまぁす」

「………………………………待ってくれ」


 振り絞ったような声がホールに響き渡る。声の主は皇帝陛下だ。

恐怖により意気消沈していたアルバートも、父親のその言葉に元気が出たのか顔が瞳が輝き出した。

――そうだ、引き止めろ。私のビューラを、あの悪女に持って行かせるな。

そう言わんばかりに復活していくアルバート。


「いいや、言葉が間違っていた――いました。お待ち下さい、ベルヴァ様」

「……ち、父上?」


 皇帝はベルヴァとビューラへ歩み寄った。情けない息子のアルバートの横を通り過ぎて行く。一瞥もせず、眼中にないかのように進んでいく。

 ベルヴァの前に立つと、胸に手を当てそのまま跪いた。この国の一番の存在、皇帝陛下が、だ。

恐怖に支配されていたホールだったが、一気に驚愕で染まる。


「愚息のご無礼をお許し下さい。そして、厚かましいお願いではあるのですが――我が国直属の守護者として、わたくしめと契約を結んでくださいませんでしょうか」

「……流石は皇帝陛下。然るべき教育と段階を踏んでその地位にいるだけあって、理解しているのですね」

「お褒めいただき光栄で御座います」


 この黒竜は決して弱いわけではない。ここ数十年厄災が現れていないこともあって、伝承となりつつあるものだが、実際に働きを見せていたのだ。

 あるときは、国を襲った魔物の軍勢を滅ぼした。たった一匹のドラゴンであったが、城に傷一つつけることなく、この国を契約通り護りきった。

 あるときは、降雨に恵まれず作物が実らなかった。ドラゴンは強大な魔術と、長年生きてきた恩恵であるその博識を利用して国に豊かさをもたらした。


 目の当たりにしていない者たちが多いなか、そんな伝説をどう信じろというのか。

しかしながら先程この空間にもたらした死とも思える恐怖。それだけで信用に値するのだ。


 だから皇帝は理解したのだ。この少女――いや、この御方は強いと。


「私としても、その申し出は構いませんよ。ただ……もう取り繕うのは疲れてしまいましたので、本来の自分に戻りたいのです」

「……と、仰っしゃりますと?」

「そうですわね……。まず公爵令嬢として生きるのは嫌です。あ! あと冒険者組合に入り浸りたいですし、そこの対応ももっとしっかりして頂きたいですわ。ビューラを私と同じ待遇にしてくださいません?」

「く、組合……入り浸る……。わ、わかりました……」


 こうして、大多数の貴族が見守る中、ベルヴァとビューラの逆転劇――もとい、本来の姿をさらけ出すショーは終わりを告げた。


 そして全てがベルヴァの希望通りになった。

当たり前だがここでひとつでも彼女の希望に添えなければ、一体何が起こっていたのか。そう怯える人間が多かった。


 もちろん全て簡単に済んだわけじゃない。

一番最初の彼女の希望である〝公爵令嬢はもう嫌〟という願い。

あの格式高いファン=ローン公爵が納得するはずがないのだ。しかも公爵に至っては、ベルヴァだけでなく〝所有していた〟聖女の娘すら手放すことになった。

 ここは一悶着あったらしいが、流石の公爵とて皇帝命令には背けるわけもなく。

 半ば強引に同意を取り付け、ベルヴァとビューラをその家から消した。

そして二人の身分は帝国に帰属することとなった。



「あー! 義姉様見てください!」

「うん?」

「うみー!」


 ビューラが嬉しそうに指をさす先には、青々とした海が広がっていた。

丘の下には港町があり、何隻かの船も停泊している。

 二人の格好はもう令嬢のものではなく、かと言って顔を隠した冒険者でもない。

纏っているのは冒険者をやる時に着ている衣服だ。

ベルヴァは相変わらずストールとフード付きのコートを装備しているが、コレが気に入っているからだろう。

ビューラも体型を隠す大きめのマントを使い続けている。

 もうコソコソする必要もなければ、夜中に睡眠を削ってまで冒険者をする必要だってない。

真っ昼間の太陽がまだ頭上できらめいている時間帯に、彼女達は冒険者として過ごしている。


「あの林を抜ければ港町ですね」

「ええ、そうね。〝抜けられれば〟ね」


 ベルヴァは林の入り口を見つめながら、背後に携えた大剣に手をやる。

同じくビューラも自身のナックルダスターの調節をしている。位置に納得がいったのか、己の拳と拳を合わせて金属音を響かせた。

 森の中から怪しげな視線が二人を見つめていた。邪悪な気が漂って、二人に対して殺意を抱いているのがはっきりと分かった。

戦闘狂である彼女達が、この〝歓迎〟を断るはずがない。


「後衛は任せたわ」

「お任せください!」

「――行くわよ」

「はいッ」


 二人はほぼ同時に飛び出した。

認識できない速度で林の中へと入れば、次の瞬間には戦闘音。そして断末魔が響き渡る。

たとえ何であろうとも、この血肉に飢えた二人に敵意と殺意を抱いてしまえばそこで終わりだ。

その瞬間から彼女達の獲物に成り下がる。

 聖女の力を余すこと無く使った打拳は、骨をも砕き、肉を爆ぜさせる。

同じく強化された肉体に、狩人として培った知識による索敵と感覚。それらを総動員して立ち回る姿は、レッドランクに相応しいだろう。

 それに負けず劣らず、魔術を付与して戦うベルヴァ。

身の丈ほどもある大剣をいとも簡単に奮ってみせるその姿は、まさに狂戦士。


 そんな元公爵令嬢たちは、今日も今日とて戦いを求めて東奔西走する。

拳が、剣が、血肉を求める限り。


ここまで読んでいただきありがとうございます。

悪役令嬢、貴族もの、好きなんですけどどうしても書くのは苦手なんですよね。


ビューラとベルヴァの名前は、最近見た映画の元ネタから取りました。

あとアルバート皇子も、アルバート・デザルボとフリッツ・ホンカから取りました。

知ってる方からすれば……皇子になんて名前をつけてるんだ、とツッコまれそうですね。


ではまたいつか……。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ