第5話 メイド
「おはようございます」
とても優しくて綺麗な声だった。
振り返るとメイドさんがいた。
透明な薄い緑の瞳で、
淡いピンク……桜色の長い髪を後ろで纏めた、20代前半くらいのとても綺麗なお姉さんだ。
「だ、誰ですか?」
テンパって何を言っているんだ俺は。
向こうからすれば人の家に勝手に入ってきておいて、お前こそ誰だな感じだろうに。
「お初にお目にかかります。『ラナ=メルフォール』と申します。これからどうぞよろしくお願い致します。ご主人様」
ラナさんは丁寧に深々と頭を下げた。
それよりも……何よりも気になる単語が。
「ご主人様?」
「はい。私と。この館の」
振り返るが周りには誰もいない。
どうやら確実に俺に言っているようだ。
……なんで?
場所を移した。
綺麗な中庭が見える館のテラスに。
ラナさんはお茶を淹れてくれている。
紅茶かな?……あるの?
まあ、こんな洋館を建てる文明があるのだから、あってもおかしくないか。
……文明。
勝手にあまり発達していない中世くらいのイメージを持っていたけど、物凄く発達していたらどうしよう。
向こうの世界の知識とか料理のチートはないのかな。
あんまり知らないから関係ないか。
中学生だし。料理も貧乏料理しか知らないし。
よく言えば節約料理? 豪華な料理が載った本も見たことはあるけど、虚しくなるからあまり見てないし。
でもこの世界の料理はどんなんだろ。
タコとか……忌嫌われているけど、料理して食べさせたら美味しくて感謝される展開とかあるかな。
……たこ焼き食べたくなってきた。
腹減っ……てない? 昨日から何も食べてないけど?
「お待たせ致しました」
ラナさんが品の良さそうなカップに紅茶のようなものを淹れてくれた。
「ありがとうございます」
毒? ないでしょ。
命大事には絶対だけど、この人の雰囲気で、この展開で毒が入っていたらそれはそれで人間不信で生きていけないと思う。
いい香り。
紅茶っぽい。
味も。
紅茶と思うことにした。
「とても美味しいです」
美味しいと感じる味覚はこの世界の人と同じのようだ。良かった。
「ありがとうございます」
色とりどりの花が咲く中庭を眺めながらまったり。
……している場合じゃない。聞くこと聞かないと。
「それで、あの。ご主人様になったというのは?」
「そうですね……何から説明しましょうか」
ラナさんはまず自分の事から話してくれた。
「ハイエルフ? それって寿命がとても長いっていう?」
ハイエルフ!
エルフ!
たぶん俺の目は今とてもキラキラしていると思う。
「はい。そのエルフです」
長命種の宿命か、仕えていたこの館の主人が亡くなって以降寂しさが増していき、ついに押しつぶされそうになったので魔法で長い眠りについたのだそうだ。
目覚めの刻はこの館の新しい主人が見つかった時。
「新しい館の主人……それってどうやって決まるんですか?」
「分かりません」
なんでも前の主人が亡くなる直前にこの館に封印の結界を掛けたらしく、その結界を解けるのはこの館の主人と認められた者のみで、その認められるための条件というのは教えてもらえなかったのだそうだ。
「この世界のものでは絶対解除不可能。そうおっしゃられていました」
この世界のものでは……ああ、俺この世界の者じゃないね。
条件ってもしかしてそのままの意味だったのかな。
そう結界を解く条件はこの世界に存在しないものが訪れた時。
それは人であったり、物であったり、言葉であったり。
なので少年はその存在自体でも解除できたが、それは箒でも良かったし言葉でも良かった。
実際、結界を解除したのは「ス、スミマセ~ン」という小さな掛け声だった
だが当然ラナさんは俺が異世界人だということは知らないので、条件に付いて考えを巡らせた結果、とてもワクワクするキーワードを言ってくれた。
「賢者の書はお持ちですか?」と。




