第2話 1本角のリス
なんで今度は飛ばされているんだろ。
空から見える景色は間違いなく異世界だと思う。
初めて見るものはないけど広大さが違う。
どこまでも続く森。山。川。
絶景。
山を越え。
谷を越え。
誰かの街に行くのかな?
おれ忍者じゃないんですけど……。
そしてなぜ俺はまだ箒を持っている?
何か……は箒だったのね。
無意識に縋っていたのだろうか。箒に。
……股に挟んでみる。
うん。魔女だ。楽しい。
どこまで飛ぶんだろ。
着地どうすんの?
着地で死ぬとか最悪なんですけど。
とりあえずまだまだ森が続いているから、高度が落ちてきたら木に捕まって、枝で鉄棒みたいにクルンっと……。よし。それで行こう。
森に突っ込んだ。
枝に掴まることなんてできなかった。
枝と葉にもみくちゃにされて枝に引っ掛かっただけ。
うん。生きてるから問題なし!
木を降りる。
箒を拾う。
もみくちゃにされている時は必至で股に挟んでいたが、引っ掛かった時に落としていた。
森の中。
北も南も西も東もわからない。
かなりヤバイ状況なんじゃないだろうか。
とにかく歩くしかない。
水と食料が必要なのは知っている。
夜になったらもっとヤバイ気がする。怖いし。
ここは異世界、一歩一歩も慎重に進む。
木にピタッとくっついてはキョロキョロ。
木にピタッとくっついてはキョロキョロ。
またあんな魔獣に出会いたくないし。
せっかくの異世界生活、楽しむ前に死んでなるものか!
命大事に。これ絶対。
でも何もいない。
次第に普通に歩く。
木の影からリスが出てきた。
額に1本、角がある!
命大事に。思ったそばから油断していた。
ただ向こうにとっても不意の出来事だったようで、一瞬間があった。
だから避けられたのだろう。
1本角のリスはその角を長く尖らせ突っ込んできた。
高速!
ギリギリで躱せた。
リスは俺の後ろにある大木を穿ち、倒した。
そして着地して振り返ると、もう一撃、間を開けずにまた突っ込んできた。
バチィィィン
ビンタで叩き落とした。
殴らなかったのは、人を殴った経験がないからだろうか。
動かないけど死んだのかな?
「食べられるのかな」
只今絶賛サバイバル中。
一応考える。
「食べないでください!」
「え!?」
「え!?」
言葉が通じた!?
1本角のリスも困惑しているようだ。
名前でも聞いてみようかな。
「き、君の名は?」
「……名前なんてない」
やっぱり通じてる。
しかも、もしかして名前をつけたら強くなるパターン?
「名前をつけたら強くなったりする?」
「……なんで?」
聞かれても。
しないのか……残念。
「一応聞くけど君って人の言葉が話せるの?」
「話せない。そもそも人に会ったのも初めて」
どういうことなんだろう。
俺は日本語を話しているし、おそらくこのリスもリス語?を話しているはず。
だとすれば二人の間のどこかで、言葉の振動がそれぞれに理解できる言葉の振動へと変えられているということ?
唇も発声に使うから……口からでた瞬間に魔法で?……そんな魔法使えないけど。
使えるようになっていた。
それは魔法で、ではなく"膜"よってであるが。
少年を覆うその膜は少年の内外の情報と連動しており、言葉も少年が1本角のリスの言葉の情報を有していたので膜により自動翻訳されていた。
なぜ有していたのか、それは魔獣ガレアが一本角のリスを喰っていたから。
魔獣ガレアが喰ったものの情報は全て少年に受け渡されていた。
記憶などの私的な情報以外は。
「じゃあ……この辺に水場はある?飲めるような」
「……川がある」
案内を頼んだら了承してくれた。
1本角のリスの後ろを歩く。
立ち上げられた大きくてふわふわなシッポがフリフリ。
かわいい。
やがて川の音が聞こえてきた。
1本角のリスを追い抜いて駆け寄る。
綺麗な川だ。
揺れる水面に顔が映る。
忘れていた! 俺の顔は変わっていないのか?
変わっていなかった。見慣れた平凡な顔が映っていた。
イケメンになってくれてても良かったんだけど?
パキィィィン
変な音が俺の後ろで響いた。
(結界? しかもこいつの驚いた様子からだと自動?)
1本角のリスが俺の背中に向かって再度の突撃をしたようだが……俺から1メートルほど離れたところで何かに阻まれ、突撃している体制のまま宙に浮いていた。
1本角のリスが地面に落ちる。
エヘヘヘヘヘヘヘ。
可愛らしく笑っているけど、コイツ性格悪そうだな。
油断しているところを狙う。動物的本能としては正しいのかもしれないけど、コミュニケーションが取れてる相手に対してだからなぁ……。
「次やったら焼いて喰うから」
「すみませんでした!! もうしません!!」
ほんとかよ。
でも焼いて……か。
火。どうしよう。
魚が泳いでるのが見えるけど生では食べないほうがいいよな。
生魚を食べる習慣のある日本人の俺だけど、さすがにね。毒あるかもだし。異世界魚だし。
せめて焼いて食べたい。
火おこしはキャンプ系の本も読んだことがあるから、なんとなくイメージは出来るけど……。
河原の石を2個拾ってかち合わせてみる……火花は出ない。
火打ち金……だったかな?それがないと無理なのかな。
となると、魔法か。
「ファイア!」
でないね。
何かのラノベで読んだ体内の魔力を感じてどうのこうの……分からなかった。
リスに聞いてみる。
「お前って魔法使えるの?」
もう君と呼ぶ気にはならなかった。
「……使えない。っていうかいらないし。なくてもこの角と私の神速があれば一撃必殺!無敵だし。まぁ、あんたには通じなかったけどこの辺には人なんて来ないから関係ないなからっ。この辺じゃ無敵。無敵なのよ!それに狩りなんてしなくても木の実だけで生きていけるし。だから必要ないのよ!だいたい魔法なんて邪道よ。己の体一つで戦ってみなさいっていうのよ。そう思わない?」
「……はい」
すごい勢いだった。
魔法にコンプレックスでも抱いているのだろうか。
使い方とか聞きたかったけど、やめておいた方が良さそうだ。
「じゃあ、火魔法とか使える魔物は知ってる?」
「聞いた事はあるけど私は見たことはない。この辺で使ったら大変な事になるらしいから怖い魔法だっていうのは知ってるけど」
そうか森だから使う魔物はいないのか。
このリスも火自体見たことないのかもな。
っていうか、さっきから"私"っていってるけど、もしかしてメス?
お前って言わないほうが良いのかな。
女性ってお前って言われるの嫌いらしいし。個人的にはお前のほうが親密感があると思うんだけど……男の勝手な言い分ってやつなのかな。
逆だったら……女の子にお前って言われたら……確かにムカつくかな。
うん。勝手な言い分だな。気を付けよう。
「さっきこの辺に人は来ないって言ってたけど、どこに行けば会えるか分かるかな?」
「知らない……あ、でも。この川をずっと上って行った先に湖があって、その側に人の家があるとか」
「君が実際に見たわけじゃないの?」
「……うん。ばあばがずっと昔に見たって」
ばあちゃんいるのか。それなりのコミュニティはあるのかな。
「そっか……」
行ってみるかな。他にあてもないし。
「ありがとう。そこ行ってみるよ」
1本角リスと分かれて川の上流にあるらしい『人の家』を目指すことにした。
一応、「一緒に来る?」と聞いてみたけど断られた。
「なんで?」と。
聞かれても……ね。
そういう流れかと。




