第9話 水道
「どうやって土運ぼうか?」
今日は、まず2つの溜池を作る事にした。
昨日の夜。あれから更に試行錯誤して作ったゼリーは、冷蔵庫の中で来たるべき時を待っている。
だが今は溜池を作る為に掘り出した土の移動方法を考えなければいけない。
移す場所は館の側に造る飛空艇の発着場予定地。
問題は如何にして大量の土を……。
「投げちゃえば?」
は?
ベルがとんでもない提案をした。
ただ……成功するイメージは浮かんだ。
向こうの世界の常識ではありえない光景だけども。
「やって……みる?」
ラナさんに視線を移す。
「では、私が予定地の上空で受け取りましょう」
ラナさんも可能だと思ったのかは分からないけど、面白そうといった感じでやる気になってくれたようだ。
しかも俺のイメージより更に慎重に事を成す為の提案もしてくれた。
俺がイメージしたのはただ投げ落とすだけの乱暴な方法。はっきり言って頭が悪い。
でもそれを悟られるのは恥ずかしいので、ラナさんと同じイメージを浮かべていた体を装って言葉を返す。
「お願い」
「かしこまりました」
ラナさんは俺の言葉を承諾すると予定地へと飛んだ。
幅跳びのような感じで。
そういう移動方法もあるよね……。
同時に、颯爽と飛び去って行くラナさんの後ろ姿を見つめながら、自分なら一体どれくらい飛べるのだろうかという疑問も浮かんだ。
サンメニアまで行けたら何かと都合が良いけど、館からサンメニアまでは何千Kmもの距離がある。さすがに無理だろう。
ただ、シャフタの街からならひょっとしたら……。
などと考えていると、そよ風のような魔力の波が頬を撫でた。
ラナさんからの準備が出来たという合図だろう。
館の結界があるにも関わらずこんなことが出来るのはラナさんしかいない。
部分解除とかできるのだろうか?
その方法に興味はあるけどラナさんを待たせるわけにはいかないので疑問は打ち消し、俺は素早く地面に魔力を流し地面を掘り抜く。
そしてその地面を頭上に浮かべたままジャンプ。
先程いた場所の上空で、上に躱した右手の先に掘り抜いた地面が浮いている。
あとは前方に見えているラナさんに投げ渡すだけ。
ラナさんは既に予定地の上空に浮いて待ってくれている。
ラナさんに空いている左手振って投げる合図をする。するとラナさんも右手を振って準備完了の合図をしてくれたので、慎重に地面をラナさんに向かって投げた。ふわっと弧を描くように。
ラナさんは何事もなくそれを受け取ると、地面を自分の下の位置に降ろし、砂状に変えながら地上に撒いた。
暫く待っているとラナさんから終わった合図が来たので、続けてもうひとつの池も掘りに行くというジェスチャーをし、地上に降りた。
「なんて顔してんだよ」
トーマは信じられない光景を見たという感じで口を開けて驚いている。
「ありえないッス」
「簡単だって」
「いや。やり方は簡単でもあれだけの地面を掘り抜いて、しかも浮遊して投げるとか……普通なら魔力が切れでぶっ倒れてるッスよ」
「へぇ~」
「へぇ~って」
要は魔力量次第なだけなのだから、やっぱりそんなに驚く事とは思えない。
それより今はラナさんを待たせてる状態なので、過剰に驚く少年は放っておいて先程と同じように素早く二つ目の溜池も掘った。
「よし。終わりッと」
これで溜池の広さはある程度は決められたけど、深さと底質はリンたちに任せている小川が出来ないと決められないので、ここから後の作業は小川の完成待ち。
あとは……。
「次は水道か」
水田作りの知識はないので、とりあえず南北同じライン上に掘った二つの池を直線で繋げて、その左右に水田を作ってみる事にした。
問題があればその都度改善していけばいいので、今はやってみる事を優先する。
たった今掘った北側の溜池の淵に立ち、南側の溜池の方を向きながら地面に手をついて2つの池を繋ぐ水道をイメージする……。あとは先程溜池を掘った要領で魔力を流し……固め……抜く。
「なにこれ……どうしよ」
イメージ通りふたつの池を繋ぐ水道が掘れたが、300m以上はあるやたら長い直方体の土の塊が宙に浮いている。
トーマがあきれ顔で見ているけど無視。
そこへ丁度ラナさんが戻って来てしまった。
もう投げ渡せない。
……とりあえず立ててみる。
ちょっとした塔だ。
「それは?」
怪訝そうな表情でラナさんが聞いてきた。
「……水道掘ったら、処分に困ってます」
もう一度ラナさんに向こうに行ってもらうのは申し訳ないので、何か使い道になりそうなことを言いたかったのだけど、何も思いつかなかった。
「ではもう一度あちらに向かいます」
「いや……向こうに生き物はいる?」
「いえ。土を巻く前に追い払いましたので」
「そっか……だったらもう投げちゃおう」
結果。あっさり解決した。
この土の塊とは魔力の繋がりがあるので正確に予定地に到達させることが出来、塔のように聳え立たせた土塊は下から少しづつ砂化させる事で問題なく地面に帰すことが出来た。
「その顔、もう飽きたよ」
地上に降りるとトーマがまた口をあんぐりさせていた。
「……俺もッス。もう師匠の事で驚くの止めるッス」
「なんだよそれ」
俺とトーマは軽く笑い合う。
そこへ聞き覚えのない少女の声に話しかけられた。
「お菓子まだ?」




