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第7話 イケパラ

 え~っと。ラナさんは……。

「いた」

 水路の終着予定地で誰かと会話しているようだ。

「ラナ。今日の夜デザート……誰っ!?」

イヤ、知らない人だろうなとは思っていたけど、ラサさんと一緒に振り向いた人物があまりにもイケメンだったので大げさに驚いてしまった。

「これはユイ様。お呼びいただきありがとうございます」

「ど、どちら様でしょう?」

 こんなイケメン知らない。

「あっ。この姿でお目にかかるのは初めてでしたね。プテグです」

 はあ?

「またまたご冗談がお上手で」

「いえいえ本当にプテグですよ」

 ラナさんを見ると頷き返された。

「イヤイヤイヤ。全然違うじゃん」

「何がですか?」

 イメージだよ!

「あっ。理想の姿になれるのか」

「いえいえ、この容姿は意識外のところで自動的に形成されるもので、自身の意思で好きに変化させることは出来ません」

 無理矢理変えたとしても次に変化した時には自動形成された姿に戻っているらしい。

「え? でも若いじゃん」

 今のプテグさんの見た目は20代。

「若いですから」

「……ティーニア族の族長って世襲制?」

「いえ。族長の独断指名によって選ばれますが、そこに血縁関係は考慮されません」

 つまりその若さで長として選ばれるだけの能力があると。

「……そちらのお二人は?」

 こちらもイケオジとイケショタ。

「いつも後ろに控えていた二人です」

「ギオです」

「ニールです」

 イケオジのギオさんの方が族長っぽいんだけど?

「なにか?」

 思わずギオさんを見つめてしまった。

「いや。ギオさ……ギオの方が族長っぽいなと思ってさ」

「ええっ!?」

 プテグさんの反応に薄い笑みを浮かべるギオさん。

 めちゃくちゃかっこいいんですけど?

 ニールは子供らしく笑っている。

「でも、分かりますけどね。ギオは人気ありますし」

 プテグさんも思うところはあったのか。

「人気だけで族長が務まる訳ではない、お前が族長であることに不満を抱いている者は誰もいないよ」

 言う事もかっこよ。

「そ、そうか?」

「あの人以外はね」

 あの人?

 ニールが意味深な事を言ったので聞いてみる。

「あの人って?」

「族長のお姉さんの『プルラ』さんです」

「お姉さんいたんだ」

「はい。これがなかなか気性の荒い姉で……以前にはギオに戦いを挑んだことも」

「えっ!?」

 ギオさんに視線を移す。

「はは。コテンパンにされました」

「マジで!?」

 プテグさんに視線を戻すと頷き返された。

「なので私が族長に選ばれたときは、なぜ自分ではないのかと前族長に食って掛かったりもして大騒ぎになりましたよ」

「い、今は?」

「今はリアーネ様の護衛となり族長への欲はだいぶ薄れたようです」

 ……。

「リアーネの側にそんな大人の女性なんていたっけ?」

 トーリム族はリアーネ以外はみんな見た目は子供。そこに大人の女性がいれば絶対目に付いていたはず。

「それが、姉上の人の姿の時の見た目はなぜか子供なのです」

「ど、どれくらい?」

「そうですね……ベル様と同じくらいでしょうか」

「知ってた?」

 ベルとラナさんに聞いてみる。

「ううん」

「私も。ただ飛び抜けて戦闘力が高そうな子はいましたが」

「それです」

 プテグさんが即反応した。

「ああ。あいつ。確かに強そうなのいたね」

 ベルに強そうと思われているとは。

「でもなんでそんな人がリアーネの護衛してるの?」

 視線を交錯させるティーニア族の三人。

 そしてプテグさんが口を開く。

「姉上は、その……リアーネ様に心酔しておりまして」

「っていうか、あれはもう惚れてる?」

 ニールの言葉にギオさんが頷く。

 そういえばリアーネといる時に鋭い視線を感じたことが何度かあるような……。

「でも。それならもう後継問題で揉めることはない?」

「まぁ……大丈夫だとは思いますが。あの姉上の事なので」

 ギオさんもニールも苦笑いを浮かべている。

 俺も一応気を付けておいた方がいいかな。

「と、ところで君たちは皆そんな整った顔立ちしてるの?」

 まさかとは思うけど。

「整っているのかどうかは分かりませんが、皆こんな感じの顔ですね」

「女性も?」

「はい」

 マジか。

「これならティーニア族って言っても誰も笑わないよね」

 ちょっ、ベル。本人たちの前でそれは。

「え? 笑?」

「イヤイヤイヤ、まさに君たちにティーニア族の名は相応しいって事」

「そ、そうですか……ニヒヒヒヒ」

 イケメンになってもその笑い方は変わらないんだな。

 ちょっと安心したよ。

 ……それにしても、今更だけど、どうして姿を変えるなんて事が出来るんだろう。

「改めて聞くけど、その姿って魔法で作ってるわけじゃないんだよね?」

「はい」

「悪いけどちょっと触らせてくれない? 指先だけでいいから」

「もちろん構いませんよ」

 プテグさんは嫌がるそぶりを見せる事なく手を差し出してくれた。 

 人差し指の先を触る。

 普通に人の指だ。魔力で作った擬態じゃない。

「これはもうさ……こちらの姿も本来の姿と言えるんじゃない?」

「! そう……ですか? 今までそういう意識はありませんでしたが、確かにそう言われてみれば……」

「生まれてくる赤ちゃんはあっちの姿?」

「はい」

「今まで例外は?」

「ありませんね」

「……人の姿で産んだ者は?」

「……いません」

 ……。

 ……。

 俺が何を考えているのかはみんな察しているのだろうけど、誰も何も言わない。

「ま、まぁ。それは安易に試して良い事じゃないし、忘れよう」

「そ、そうですね」

 興味はあるけど、生まれてくる子と母親に何かしらのリスクを背負わせてまで確かめる事じゃない。

 それに試さなくても一つの仮説が頭に浮かんだ。

 ティーニア族のDNAの中には人の遺伝情報もあるのかもしれない。という。

 それも美男美女の。


「あれ? そういえばスカスカ小僧は?」

「スカスカ小僧? ……ああ、トーマなら館で洗い物してるよ」

 洗い物? 本当にお手伝いさせられてるんだ。

「あいつそういう事できるの?」

「アリーシアがきちんと教育しているようで問題なくこなせてましたよ」

「へぇ~」

「ところで先程の『今夜デザート……』とは、なんだったのですか?」

「まさか、やらしい事?」

「違うわっ!」

 どう想像したらそんな言葉に繋が……『今夜デザートになってくれない?』

 なるね。オヤジ臭いど下ネタに。

「そんなんじゃなくて、俺が言おうとしてたのは今夜デザートになっ……じゃなくて」

 あぶねっ。

「えっ?」

「ユイ様?」

「違う違う違う。じゃなくて! だから! 今のはベルの言葉に釣られただけ」

「え~。ホントに~?」

「ホントだって! 俺が言おうとしてたのは『今夜デザートの作り方を教えてくれない?』だから!」

 今度はちゃんと言えた。

「なんでユイ様がデザートの作り方なんて教わるの?」

「ああ。実はさ。明日もフィリアレットさんに昼食をご馳走することになったんだけど。その時に出すデザートは俺が作ろうと思って」

「それは構いませんが、なぜユイ様がお作りに?」

「どっきり」

「どっきり?」

「なんか俺のこと料理下手だと思ってるみたいだから、美味しいデザート作って驚かせてやろうと思ってさ」

「ユイ様って料理得意だったの?」

「イヤ……一応は出来るという程度だよ」

 毎日自分で作ってはいたけど貧乏料理だったからちゃんとしたものは作れない。

 ましてやデザートなんて、ジュースを凍らせたアイスしか作った事がない。

「へ~。でも食べてみたい」

「私も食べてみたいです」

「そ、そう? じゃあ今度作ってみるよ」

「やったー」

「楽しみにしてます」

 とは言ったものの、何を作れば……。

 よく作ってたのはチャーハン、もとい焼き飯。

 卵と塩コショウだけで出来るので一番作っていた。

 ただ米がない。

 なので雑炊も作れないし。

 オムライスも無理。

 今思うと米料理ばっかり作ってたんだな。改めて自分は日本人なんだと実感する。

 となると米料理以外で、か……。


「あの。そろそろよろしいでしょうか?」

 イケメンのプテグさんが恐縮気味に声を掛けてきた。

 そうだ。のんびり料理の事を考えてていい状況じゃない。

 雑談もかなり脱線して話し込んでいたしそろそろ溜池の事も聞かないと。

「ゴメンゴメン。えっと、溜池の調査に来てくれたんだよね?」

「はい。丁度地質と水脈の調査を終えラナ様への説明もし終わった所でした」

「もう調査し終わったの?」

「我々独自の解析魔法がありますので」

「それって秘伝的な?」

「いえいえ。ただ我々の長年の経験と知識、そして特性によって可能となっている魔法ですのでティーニア族の者以外での習得は厳しいかと」

「へぇ~」

 見たかったな。

「あ。で、結果はどうだったの? 問題なく水は還元できそう?」

「はい。問題ありません。ただ水位の調整に関しましては溜池の大きさと水の流入量によって方法が変わってきますので、現段階でのご助言は難しいです。必要でしたらそれらを確認できる段階で再調査させていただければ、適切な方法をご提案出来ると思いますが?」

「もちろんお願いするよ」

「ありがとうございます」

「……もしかしてさ。溜池とかってあっという間にできたりする?」

 泉での事があるので聞いておかないと。

「はい。ですがそれはラナ様やユイ様でも容易にできる事だと思いますが」

 俺はラナさんを見る。

「もちろん出来ますよ」

「俺も?」

「はい。魔力を地面に流して土を固めたあと抜き上げればいいだけですから」

 そう言われると確かに簡単そうだけど……。

「ちょっとやってみていい?」

「もちろんです」

 俺は溜池を掘る予定地の端に立ち、地面に手をつく。

 そして魔力を流す。

「掘り抜きたい範囲に魔力を行き渡らせてください」

 ラナさんがアドバイスしてくれている。

「行き渡った気がする」

「そうしましたら、砂地などの柔らかい土地であればより密度を上げて固める必要がありますが、ここの土地は粘土質の土地なので少し圧力をかける程度で大丈夫だと思います」

「うん。出来たと思う」

「あとはその塊りを抜き上げるだけです」

 俺は地面につけていた手を上に翳した。地面を抜き上げるイメージで。

「おお~」

「おめでとうございます」

 宙にごっそりと抜けた地面が浮いている。

「っていう程すごい事じゃないけどね」

 いや、俺にとっては十分凄い事なんだよ。ベル。

「で、この抜き上げた地面はどうすればいいの?」

「元の場所に戻せば良いじゃん」

 ……ですね。

 地面をソッと戻す。

「とはいえ、掘った土を置く場所は必要になるよね」

「飛空艇の発着場を造る際に使えばよろしいのではないですか?」

「あー……そうしよう」

 自分のアホさ加減を逸らすネタにしたかったのだけど、すぐに解決してしまった。むしろ余計恥かしい感じに。

「じ、じゃあ……溜池に関しては今のとこはこんな感じでいいかな」

「そうですね」

 俺はプテグさんたちにお礼を言い、今度ティーニア族も使用できる飛空艇の発着場を館の側に造る予定だと伝えると彼らは大喜びで帰って行った。

 なんでもティーニア族にとって空は憧れの対象らしい。

 それを聞いて人の姿の状態にいずれ翼が生えてきたり……なんて想像してしまったんだけど……。


 まさかね。


 モグラが天使に?


 ……。


 今度プテグさんと話してみよっと。


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