表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
45/51

第5話 まずは水

 昼食を終え、千代に稲を渡す。

 分身体が学術院にいるので千代に渡せばすぐに送れるのだ。

 ちなみに学術院にいる千代の分身体は、千代の姿を二頭身にデフォルメしたぬいぐるみを使っている。

 元々は千代そのものの分身体だったのだけど、分身体は用がある時以外はただ立っているだけとの事だったので「じゃあ人形で良いんじゃね?」と言ったら、これが分身体を生み出して動かすより格段に楽だったらしく学術院の分身体はぬいぐるみになった。

 なので時折学術院を駆け回る千代のぬいぐるみは、学員たちを和ませマスコット的な存在として可愛がられているらしい。

「あの……ユイ様」

「ん?」

 千代が困った感じで何かを伝えたそうだ。

「たった今、分身体がトーマ君に捕まりまして……」

「トーマ? なに?」

「その……『暇ッス』と」

 何やってんだか。

 そういえば、ここ数日はシャフタの街には行ってなかったな。

 じゃあ、あいつにも手伝わせるか。

「転移陣使っていいから来いって言ってやって」

「かしこまりました」

「……どう?」

「すぐに来るそうです」

「ホントに暇なんだな」

「トーマ呼んで何するの?」

 ベルが遊びの気配を感じたのか割って入ってきた。

「ついに水田を作るのです!」

「ああ、あの絵の」

 俺は拳を握って意気込んでいるが、ベルはあまり関心がない様子。

 土木系には興味がないのかな?

 こいつが目を輝かせるような景色を作りたいな~。


 まずはジャンプして上空から泉が森のどの位置にあるのかを確認してみる。

「なるほどね」

 泉は森の北東にあった。

 つまり敷地の北東の角エリア。それでも壁までは窮屈に感じないだけの距離はある……けど、上から見るとバランスが悪い。

 カメラを取り出し、あとでみんなと相談できるように写真を撮る。

「拡張出来ないかな」

「出来ますよ」

 びっくり。

 独り言のつもりだったのにいつの間にかラナさんも飛んできていた。

「結界とか、壁の再建とか問題ないの?」

「はい、問題ありません。あと丁度良い機会ですのでご進言したい事があるのですが、よろしいでしょうか?」

「もちろん。なに?」

「転移陣をユイ様にあまり近くない者が使用するのは問題がありますので、飛空艇の発着場を館の側に造られてはいかがかと」

「あー」

 館の敷地を囲む壁の南側に目をやる。

「敷地の西側を拡張するとして……バランス的にはあの辺かな?」

 南西側を指差す。

「そうですね。ただ、もう少し館から離した位置にすれば、トーリム族やティーニア族の者たちにも解放できるかと」

「ああ。そうね。そうしよう」

 ラナさんに承諾の笑顔を向ける。

「はい。ではその方向でアリーシアと相談致します」

「お願い。あ、あの辺りも写真撮っとこうか」

「そうですね」

 俺は飛空艇の発着場の予定地も写真に収めた。

 そして、あらかた周囲を撮り終わり、森に降りようとしたら館の2階の窓からこちらに手を振る人影が目に入った。

「トーマ君ですね」

「何やってんのあいつ」

「ユイ様を探し回っていたのではないですか?」

 そういえば館のどこにいるかは言ってなかった。

「あ。千代に捕まった」

「タイミング悪く入れ違いになっていたようですね」

 千代に任せておけば大丈夫かな。


「では!」

 泉の淵で少し緊張しつつ鍬を持つ俺。

 いよいよ水道を掘るのだ。

「あっ。この辺ってどっちにしろ泉になるんだっけ?」

 フィリアレットさんを見る。

「そうよ。だからそんなに意気込む必要はないと思うけど?」

 ポリポリ。

 改めまして。

「よいしょっ」

「ユイ様」

 鍬を振り降ろそうとした瞬間ベルさんに止められた。

「ん?」

「岸際から掘られますと、流れ込んでくる水と一緒に掘っていくことになりますが」

 え?

 足元に岸際に目線を落とす。

 ……確かに。泥水を浴びながら鍬を振る自分の姿が目に浮かんだ。

「え~と。ということは?」

「岸際は最後。もしくは試しつつやられるのであれば途中に堰を設けた後になるかと」

「な、なるほどね」

「ししょ~」

「うっせぇわ!」

 では改め改めまして。際の土は堰として残し、とりあえず鍬の幅分を南に真っ直ぐ掘ってみる。

 ……。

「これくらいで水が流れるか試してみる?」

 水面より少し低い深さで10メートル程堀った。

「じゃあ、俺が平らに均すッスよ」

 え?

 トーマは俺が掘った溝をコンクリートの溝のように滑らかに均した。

 土魔法で。

 あっという間に……。

 ラナさんを見る。

 目を逸らされた。

 ベルを見る。

 目を逸らされた。

 フィリアレットさんを見る。

「だって楽しそうに掘ってたから」

 は、恥ずかしい。

 言ってよ。

「どうしたんスか? 水流さないんスか?」

 スカスカうっせぇよ。流すよ。全部流してぇよ。

 バケツに水を汲む。

「じゃ流しま~す」

 いろいろな思いを込めて。

「お!」

「流れたッス」

「無事端まで流れましたね」

 深さは一定に掘ったから、この端までは若干下っている事になる。この傾斜が南西エリアまで続いていればこのまま一定の深さで掘っていくだけで南西エリアに水を運べる事になる訳だけど……。

「リン。ここから先の森の中の地形ってどんな感じなの?」

「ん~……普通」

 普通って何?

「ここから先はどうするの?」

 ベルも少し興味が湧いてきたようだ。

 ……イヤ。気を使ってくれてるのかな?

「どうせなら小川みたいな感じで流したいよね」

「賛成!」

 リンが直ぐに同意してくれた。

 そして他のみんなも。

「じゃあ、木を切る前にルートと幅を決めようか」

 上空から撮影した写真を並べ、紙にも上から見た西側の敷地のおおよその見取り図を描く。

「小川を造るとして終着地点の構想などはございますか?」

「あー。フィリアレットさんは泉の水は枯れないって言ってたけど、出来ればちゃんと循環できるようにしたいよね」

 そう言うと、フィリアレットさんは嬉しそうな笑顔を見せてくれた。

「そうなるとジャフール……じゃないや……なんだっけ?」

「ティーニア族」

「そうそうティーニア族……ブフッ」

 ベルお前もか。

「ベル。ダメよ。ホントに」

「はい。ごめんなさい」

 ホントだぞ。あいつらの前で誰かが笑ったらと想像すると気が重くなる。

 ……別の名前を考えておくべきだろうか。

「で? あいつらがなんだって?」

「ああ。んと、地底に水を戻すならどういう地質が適切かとかティーニア族に聞いた方が良いんじゃないかと思ってさ」

 なるほどね。

 そういえば温泉も戻してるって言ってたな……。

「千代。誰か呼んできてくれる?」

「かしこまりました」

 千代は頭を下げるとティーニア族の居住区へと駆けて行った。

「あとは場所か。まぁ、どうせなら南西の端まで流したいから……この辺りに溜池みたいなのを造る事になるのかな」

 見取り図に丸印を書く。

「で、四角い水田を等間隔にいくつか作って……」

 さらに水田の構想も描く。

「と。こんな感じかな」

「そうなりますと森を抜けたところにも溜池を造られた方が水の調整、管理がしやすくなるかと」

「そっか。じゃあ、ここにも溜池を造って……と。で、ここから各水田に水が行き渡るように水道を、こう……造る……か」

 完成形が見えてきた。

「あとはどこから手を付けるか……」

 その言葉にリンが真っ先に反応した。

「森の中の小川は私たちに造らせて欲しい」

「……良いよ。任せた」

「任された!」

 下手に俺がやるより、リンたちの方がより自然で美しい小川を造ってくれるはず。

「ありがとう」

 めずらしくリンが真っ直ぐお礼を言ってきた。

「期待してるからな」

「うん。じゃ、石採ってきて」

「は?」

「美しい川には必要でしょ石。と岩」

「俺が……採って来るの?」

「他に誰がいるの?」

 ……確かに。

 ラナさんにリンとの会話の内容を説明し、ティーニア族が来たら溜池の事を相談してと頼んだ。

「トーマはラナとベルのお手伝いな」

「ウッス」

「じゃ、フィリアレットさんお願いします」

「え?」

「良い石が採れるどっかの森の川までひとっ飛び」

 俺は両手を上げる。

 フィリアレットさんは期待の目を向けるリンをチラッと見て、息をひとつ吐く。

「仕方ないわね。はい」


 その瞬間、俺は一人どこかの森の中の川の畔にいた。

「さてと」

 とりあえず適当にいくつか拾ってアイデムボックスに入れて持ち帰ればいいんだよな。

 ……入るの?

 アイテムボックスの中を確認してみる。

 アイテムボックス内の整理はちょくちょくやってるから、一応は石とか岩を入れるスペースはありそうだけど……本とかがある場所に石とか岩を入れるのは、なんか嫌だな。

 っていうか、今更だけどアイテムボックスって何?

 ラナさんに空間魔法だというのは以前聞いたけど、そもそも空間魔法って? 

 ……考え出したら底なし沼だろうか?

 ……。

 魔法は魔力。

 魔力は魔素……で、その魔素が空間を……裂く? ……繋げる? ……創る?

 イヤ。もしかしてその3つ全て。

 裂いて、創って、繋げる。

 そんな感じ?

 であれば別の部屋を創って繋げれば……イメージは、あのキューブパズルなんてどうだろう。

 ただ、いきなり9面体は無理なので、まずは上段の真ん中のマスだけを今の空間としてイメージしてみる。

 そしてそのマスを左に45度回転移動させて、空いた目の前の空間に新たに同じ大きさの四角い部屋を創る。

 ……。

 出来たかも。

 足元の石を拾って入れてみる。

 入った。

 今度はこの部屋を右に45度回転させて今までの部屋を正面に持って来てみる。

 部屋は滑らかに移動し、先程までの部屋が正面に来た。

 中も問題なし。

 思わず笑みがこぼれる。

 ついでにあと2部屋創って4部屋を十字に配置し、一回転できるか試してみる。

「俺って天才?」

 異空間に創った4つの部屋を左右に回転移動させて使用出来るようになった。

 早速一部屋を本だけの部屋に……したいところだけど、今は石を集めないと。

「よし。やりますか」

 手のひらサイズの石から大岩までどんどんアイデムボックスに入れていく。

 正直一部屋の容量の制限は分からない。

 個人の魔力の差で広さが違うのだろうか? 今度ラナさんに聞いてみようと思う。

「とりあえずこれ位でいいかな」

 一か所で採り過ぎるのも良くないだろうし。

「フィリアレットさ~ん。終わりました~」

 ……?

「フィリアレットさ~ん!」

 ……。

「もしも~し!」

 ……あの女~。迎えに来ないつもりか?

 自力で帰って来いと?

 ……ふぅ。仕方ない。

「明日の昼飯は、あのジャムで何作って貰おうかな~」

「お疲れ~」

 ……。

「明日も昼飯一緒に食べます?」

「良いの? ありがとう」

「じゃ、石集め終わったんで館まで戻してもらっていいですか?」

「もちろんよ~」

 クッ。

「ありがとうございます」

「いえいえ~」

 

 帰ったらどうやり返してやろうか……。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ