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第12話 国王と国宝

 ソブラタでの用事を済ませた俺は急遽シャフタの街に帰る予定を変更して、他の街を巡ってから帰ることにした。

 警護体制を仕切るリアーネさんには軽く小言を頂戴してしまったけども。

 まずはソブラタから東の湾を越えてスイベルへ。

 スイベルでは、道の両端で土下座をする街の人たちに出迎えられた。

 なんでも急遽の事だったので、オルトラさんがテンパってそういう事になったらしい。

 もちろん俺はお江戸の将軍様ではないのですぐにやめてもらった。

 ベルは残念がっていたけど。

 そしてスイベルでもジャンプして地形を確かめ、各砦への移動は小型の飛空艇を使っているとの事だったので、それに乗って各砦も見て回った。結果、スイベルでの用事を全て終えるには4日もかかってしまったのだが、最後にどうしても気になっている場所があったので見せてもらうことにした。

 街の東の端。街が外敵に襲われた際、直ぐに対処できる場所にそれはある。

 千代の家だ。

 千代の家は和風建築の豪邸だった。

 畳も敷かれていて、庭も見事な日本庭園。茶室もある。しかも食事に醤油と味噌汁が出てきた。

 残念ながら米はなかったけど、代わりに麦飯があり、大変であっただろう千代さんの努力に感謝し、泣きそうになりながら夕食を頂いた。

 そして俺はどうしても千代の家でもう一日のんびりしたくなり、セレビスに行く予定を一日伸ばして千代の家にもう1泊させてもらった。

 すると、日本史のある真実も知る事になった。

 千代さんが自らに起きた事を巻物に書き残していたのだ。

 しかもそれにまつわる刀もあった。

 ただ、巻物は数本あり、書かれている文字も戦国時代ものだったのでさすがに一日では全て解読できず、家宝なのに申し訳ないと思いつつも好奇心を抑えられず、千代から巻き物を預かりスイベルを後にした。もちろん醤油と味噌も分けてもらった。

 ちなみに、俺は図書館の古文書に嵌っていた時期があるので古文書も一応は読める。なのでこの時はかつての自分にも心から拍手を送った。


 セレビスは全ての街の中心に位置し、物流の拠点として栄ている。

 ただし、今は農園の街のサンメニアを除き、それぞれの街は飛空艇で直接つながっているので、実は今後の事が不安視されている状況だ。

 この街でもまずはジャンプして地形を確かめた。

 するとそこには今後の不安を打ち消す狼煙が上がっていた。

 温泉だ。

 当然街の人たちもその場所は事は知っていたが、異臭が漂い灼熱の赤い湯が沸く不気味な場所なので、気味悪がられて避けられていた。

 つまり温泉を掘るという発想には至っていなかったのだ。

 北に大火山があり、身近の山に温泉が湧くこの街で温泉が出ないとは俺には思えなかった。

 しかも俺たちの仲間には地下のエキスパート、ジャフール族がいる。

 俺は密かに、やがて別の形へと発展していくであろうこの街の未来を妄想しつつ、セレビスでは2泊し、最後の街サンメニアへと向かった。


 農園の街サンメニア。

 正直ついに来れたという感じだった。

 その期待は裏切られることなく、広大な土地に見事な農園が広がっていた。

 当然俺は農園を案内してくれた『メラニー』さんを質問攻めにした。

 メラニーさんは農園の責任者らしく肌がこんがり焼けた20代後半くらいの女性で、麦わら帽子がとても似合う人だった。ちなみに彼女はサンメニアの首長『ヤープ』さんの娘でもある。

 そして農園を見渡してひとつ疑問に思うことがあった。

 壁がなかったのだ。

 ところどころに塔のような建物が建っているのは見えたのだが、害獣の侵入をアレで防げているとは思えなかった。

 聞くと。この街には結界師という職業があり、その人たちが農園の外周に等間隔で建てられた塔に詰めて交代制で結界を張っているとの事だった。

 大変そうだな……と思わず呟くと、結界師は結界のエキスパートなので疲れ過ぎないように上手くやっているとメラニーさんが教えてくれた。

 それならとサーキットを作る時は相談に乗ってもらおうかと思ったのだけど、ラナさんに「必要ありません」と一刀両断された。

「結界の事なら私がいれば十分です」と。

 ちょっと怒ってるっぽかったので強めに頷いて返した。

 

 こうして俺たちは全ての街を視察を終え、20日振りにシャフタの街に戻った。


「遅くないですか?」

「ご、ごめんなさい」

 飛空艇を降りるとアリーシアさんが仁王立ちで待っていた。

 仕事だからと言い訳したいところだけど、千代の家や他の街でものんびりしていただけの日があるだけに強気に出れない。なんだかんだで各街の人たちと宴会みたいな事もやっていたし。

 振り返るとラナさんですら目線を逸らし、あらぬ方向を見ている。

 なのでただただ平謝りして許してもらった。

 シャフタの街中に戻ると、街の中心が賑わいを見せていた。

 時計塔が完成していたのだ。

 転移陣を中心に掘り下げられていた空間は地下室として塞がれ、平らになった地面の上に緻密なデザインが施された時計塔が建っている。

 学術院の鐘も時計塔に移された。

 ただし、時計の針はまだ動いていない。

 動かす日は決めてあるので。

 

 数日後。その日がやってきた。

 建国日だ。

 各国への宣言は書簡で行われ、竜国の特別郵政機関により各国に届けられる。

 その機関は高速飛行が可能な竜人族で構成され、各国の国書を運ぶ役目も請け負っているため各国に支部があり、自由に出入国する権利が与えられている。

 そして街の人たちには時計塔の完成式の時に建国することを伝えた。

 正直受け入れてもらえるかかなり不安だったけど、反発の声は上がらず、逆にその日から街はお祭り騒ぎになっている。


 正午前。

 この国に城は無いので、学術院の正面入り口の上部、鐘あった場所を謁見場として整えそこで俺の国王としての挨拶が行われた。

 内容は事前にみんなで考えたのだけどいきなり全部ぶっ飛んだ。

 大勢の人の前で演説なんて俺には無理。

 ただ、逃げるわけにもいかないので、国王としての体裁は脱ぎ捨てありのままの自分で必死に挨拶した。

「ユイ様。素晴らしい挨拶でした」

「あれだけ一緒に考えてくれたのに全部ぶっ飛んじゃってごめんね」

「いえ。綺麗な言葉より拙くても真心を込めた本心ほうが胸に響くこともあります。実際街の人たちにはちゃんと伝わったようですし」

 俺たちは万雷の拍手に包まれている。

 きっと気を使ってくれてもいるのだろう。優しい人たちだ。

「それではこちらを」

 ラナさんから王笏を受け取る。

 ちなみに王冠は被っていない。どうしても恥ずかしさを拭えずに断った。

 直前までラナさんたちとイヤイヤイヤイヤの応酬を繰り返していたけど。

 そして未だ拍手が鳴り響く中、時計塔に向けて王笏を翳す。

 拍手が鳴り止み、ラナさんが正午の30秒前に向けたカウントダウンを始める。

 正午に時計が起動するように動力となる魔力を放つのだ。

 各街でもそれぞれの首長さんが同時刻に鐘を鳴らす手筈になっている。

 放つタイミングはゼロの声と同時。

 王笏に魔力を込める。

「2……1……0!」

 俺は七色に変色させた魔力を時計塔に向けて弓なりに放った。

 虹を描くように。


 放たれた虹は無事予定通りのタイミングで時計塔へと到達し、時計の針は新しく生まれた国と共に動き始めた。

 建国を祝福する鐘の音を鳴り響かせながら。


「ユイ様! 完成しました~」

 何が?

 振り返るとジルが満面の笑顔で駆け寄ってきた。

 そして一枚の紙を俺に差し出す。

「おおっ!」

 そこには先程の虹を放つ俺の姿が映っていた。

 そう写真だ。

 写真からジルに視線を移す。

 ジルはドヤ顔で更にカメラを差し出した。

「まだユイ様がおっしゃられていた物よりは大きくて重いのですが」

「いやいやいやいや。十分綺麗な画質だし。カラーだし。凄いよ」

 ジルは頭を掻きながら照れているが、まだまだ改良させる気満々のようだ。

 この感じなら望遠撮影やマクロ撮影ができるカメラもいずれ完成させてくれるだろう。

「そうだ! みんなで写真撮ろう」


 俺たちは時計塔に移動した。

「あれ? 師匠はどこッスか?」

「トーマ。ユイ様は国王様になられたのだから、もうその師匠という呼び方はダメよ」

「え~」

「アリーシア。師匠のままでいいわよ」

「ラナ様。しかし……」

「それをユイ様は望んでいらっしゃるわ。あなたもそれは理解しているのでしょ?」

「みんなに国王様国王様って距離置かれたら、国王やめるって言いだしちゃうかもよ」

「ベル様……そうですね。言い出しそうですね」

「みんなでなに笑ってんの?」

「ユイ様! って、そ、その者たちは……」

「友達も一緒に撮ろうと思ってさ、連れてきた」

 俺は館に戻りセナとリン、リンの取り巻き5人衆、そしてオーマを街に連れてきた。

「ちょ、ちょっと! やっぱりまずいんじゃない?」

「あ、姐さん、オレこんな大勢の人に囲まれるの初めて」

「ビビってんじゃねーよ!」

「てめぇも震えてんじゃねぇかバカ」

「……おめぇもな」

「……」

「ど、堂々としていればいいのである」

「オーマの旦那。羽、逆立ってますぜ」

「お前らちょっと騒がしいよ。セナを見習え」

 セナは俺の頭の上で堂々としている。

「……」

「……セ、セナのアニキ?」

 セナは人の多さに酔って目を回していた。

 俺たちは慌ててセナを介抱する。


「ラ、ラナさま。あの青い鳥セラートですよね? そ、それに……ラ、ラーフと……」

「オルフェロスよ」

「ど、どど、どうしたら……」

「アリーシア落ち着きなさい」

「し、しかし。幸福の使者と死の使者が同時に居るなんて。し、しかも……し、神鳥様ですよ。それも叡智の。我々にとっては崇拝すべき存在で……ひ、跪いたほうがよろしいのでしょうか?」

「気持ちはわかるけど必要ないわ。ユイ様が先程おっしゃられていたでしょ。友達だって」

「友達……」


 なんか、アリーシアさんに羨望の眼差してジッと見つめられてるんですけど。

 それに街の人たちもざわついてるし、中にはこちらに跪いて拝んでいる人もいる。

「なんであの人たち拝んでるの?」

 セナが無事復活したのでラナさんたちに近づき尋ねる。

「オーマは叡智の神鳥ですので、この国の人たちにとっては崇拝の存在なのです」

「へぇ……」

 向こうの世界と一緒か……。

 俺の肩に止まっているオーマを見る。

「賢者の書にもそう記載されているはずですが」

 すみません。最近見てませんでした。

「主。何やらワレの話をしておらぬか?」

 さすが叡智の象徴。察しが良いね。

「それにあの者達。……ワレを拝んでおらぬか?」

 ……。

「いや。俺が拝まれてるんだよ。俺今この国の国王になったばかりでさ」

 本当の事言ったら絶対調子に乗る。

「国王!? やるではないか! よし。特別にワレが祝福してやろう」

 え?

 オーマは俺の肩から上空に飛び立ち、とても綺麗な声で鳴きながら旋回すると、無数の白い羽を舞い散らせた。


 この後、オルフェロスは祝福の神鳥としても崇拝される存在となり、この国の国章にも採用された。

 もちろん、オーマには教えなかったけどね。


「では、撮りますよ~」

 ジルは指でカウントダウンし、シャッターを押す。

 そこには時計塔と俺たち、そして街の人たちがみんなで写っている。


 その後、再び各街を回り、それぞれの街の人たちとも一緒に写真を撮った。


 そしてそれが1冊のアルバムとなり、学術国家『ユイノス王国』の国宝第一号となった。


第3章終了です。

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