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第11話 浮気防止薬に怯える国王(仮)

 ソブラタのターミナルに着くと、先入りしていたリアーネさんとソブラタの首長のアルバーさんが出迎えてくれた。

 二人は俺が目立つのを嫌うことを知っているので従者は二人とも一人しか連れていない。

 なので今回はお忍び気分で自由に見て回れると思ったのだが、ラナさんとベルの存在感が想像以上に街の人たちの目を引き、そこにアルバーさんもいたので、察しの良い人の呟きから俺たちの正体はあっという間にバレた。

 たちまち人だかりができ、千代とリアーネさんの顔が引き締る。密かに警護してくれていた人たちも何名か俺たちの側に駆け付けた。

「あれが館の主? 子供じゃないか」

「平凡な顔だな」

「なんか期待外れ」

 き、気にしない気にしない。

 無視無視。

 たから君たち、そんなあからさまにイラついた表情で睨まないように。

 怖がってらっしゃるから。

「師匠のことあんな風に言うなんて失礼な奴らッスね」

「いきなり喧嘩売ってきたのは誰だったかな?」

「ア……アレは……け、喧嘩は挨拶みたいなもんッスから」

 まぁ、陰口言われるよりは全然良いけどね。

「申し訳ございません。私たちが目立ってしまったせいで」

「フード付きの服着てくるんだった」

 ラナさんとベルが恐縮している。

「いや。良いって良いって。いずれこうなってただろうし。こうなったらなったでやり易くなる事もあるから」

 俺は丁度良いと判断し、やりたかった事をやることにした。

「ついて来れる人はついて来て」

 そう言うと、俺は軽く力を込めてジャンプした。

 思いっ切り飛ぶと、最近は宇宙まで行きそうな気がしていて正直怖くて出来ない。

 さすがにそれは無いとは思っているけども。

 続いてジャンプしたのはラナさんとベル。

 他のみんなはただ俺たちを見上げていた。

「どうなってんスか、あの人たち……」


「名案でしたね。これでユイ様を見下せる者はいないでしょう」

「単純だけど、できる奴は世界中でもそうはいないよね」

「まぁ、そういう思惑も少しはあったんだけどさ、それとは別に上から地形を見ときたかったというのもあるんだよね。この方が飛空艇使うより簡単だし」

「なるほど」

 俺たちは地上を見下ろしながらソブラタ周辺の防衛力強化について話し合った。

「ユイ様。ちょっとキツくなってきた」

 そうだった。空中浮揚を可能にする重力魔法は魔力の消耗が激しいんだった。

「ゴメンゴメン。そろそろ降りよう」

 その時、俺の視界の端を何かがひらひらと横切った。

 俺はそれを目で追い素早く左手で掴む。

 ゆっくり手を開くと、そこにはひとひらの花びらが収まっていた。

 ……もしかして……この花……

 地上を見渡すがそれらしき花は見えない。

「ユイ様?」

 ラナさんが不思議そうに俺を見つめる。

 ベルは本当にもう限界だったようで、俺たちを見上げながらゆっくり降りて行っている。

 その姿は可愛いらしくて、ちょっと面白かった。

「ああ。ゴメン。なんでもない。降りよう」

 俺はその花びらをソッとポケットにしまった。

 必ず探すと心に決めて。


「申し訳ありませんでした!!」

 は?

 地上に降り立つと、街の人たちから一斉に謝られた。

 どうやら地上ではアルバーさんを中心にいろいろと話し合っていたそうだ。

 俺は本当に怒ってないと伝えるとみんな安堵してくれた。

 素直に謝れると言いうことはきっとみんな良い人達なのだろう。それにアルバーさんも街の人たちに相当に慕われているようだ。アルバーさんを中心に笑顔が広がっている。

「師匠。上で何やってたんスか?」

「……秘密」

「え! やらしいことやってたんスか!?」

「なんでだよ!」

 街の人たちにも変な視線を向けられる。

「そ、そんなわけないでしょうよ! ち、地形を見てたの! 地形を!」

「ち、乳形?」

 面白くねぇよ! 今言ったやつ誰だこの野郎!

 俺と街の人たちと訳の分からない問答は暫く続き、ラナさんとベルは溜め息を吐いた。

 

「いや。主様よ。乳は大事だぜ。乳は」

 もういいっつうの! 

「形とか大きさじゃねえんだ。ぬくもりなんだ」

 良い事言ってるっぽいけど、ただの下ネタだからな!

「いや! 俺は大きい方が良い!」

「はぁ? 小さい方が良いに決まってんだろ!」

 おっさん共、昼間っから酔っ払いやがって。

 ひと悶着あったおかげか、いつの間にか街の人たちと打ち解けていて、何故か今は皆で昼飯を食べている。

 ……俺がノリで奢るって言ったからだけども。

 ちなみにおっさん共は漁師で、すでに仕事は終わっているのでお酒も飲んでいる。

「で? 師匠は大きいのと小さいのどっちが好きなんスか?」

 このマセガキ。答えられるわけねぇだろ! 

 じ、女性陣の視線が痛い。

「おう、トーマじゃねえか!」

「父ちゃん!」

 ナイス! 父ちゃん。グッドタイミングだよ。

 ……父ちゃん?

 振り返ると、いかにも漁師という感じの色黒マッチョな中年男性が白い歯を輝かせていた。

 アリーシアさんって、こういう人が好みなんだ。

 それはラナさんたちも思ったようで、何やら女性陣でひそひそ話が始まっていた。


 昼食を終え。話の流れで俺たちもトーマの妹を見にトーマのお父さんのお宅にお邪魔する事になった。

「真逆だな」

「うん」

「ですね」

 トーマのお父さんの奥さん『ピニア』さんはアリーシアさんとは真逆の可愛い系の女性だった。

 胸も……。

 寒っ。

 またしても女性陣の冷たい目が。

 女性の勘、鋭すぎない?

 乳ネタが続いていたから、つい目がいっただけなのにそんな目で見なくても。

「トーマ君。抱いてあげて」

「いいの?」

「もちろんよ。お兄ちゃんでしょ」

 トーマは恐る恐る赤ちゃんを抱く。

 優しそうな女性で良かった。アリーシアさんの事を思うと複雑だけど。

 ラナさんもピニアさんの事を気に入った様で、しばらく会話した後、アイテムボックスから瓶を1つ取り出し彼女にプレゼントした。

「出産祝いよ」

「これは?」

 ラナさんはトーマのお父さんが瓶に気付いていない事を再度確認すると、彼女の耳元でその瓶の中身について説明した。

 その声は俺にも聞こえなかったが、ピニアさんが思わず呟いた事で何かは分かった。

「浮気防止薬?」

 その後の会話は聞こえなかったが、ピニアさんは説明を聞き終えると涙を流した。

「お、おい。どうした?」

 トーマのお父さんが慌てて駆け寄る。

「なんでもない。大丈夫。嬉しくて……」

「そ、そうか」

「ラナ様。本当にありがとうございます。このご恩は一生忘れません」

「無くなったらアルバーにでも手紙を渡して知らせなさい。またあげるから」

 それを聞いてピニアさんは再び涙を流しお礼を言った。


 その様子を見て、俺はなぜか嫌な予感が全身を駆け巡っていた。

 

「ラ、ラナさん? ピニアさんに何あげたの?」

 トーマのお父さんの家を後にすると、俺は我慢できずに尋ねた。

「浮気防止薬ですよ。あの男には必要でしょうから」

「そ、それってどんな物なの?」

「唾液と混ぜて男性器に塗り込むとその唾液の持ち主以外では不能になります」

 ふ、不能!

「本当ですか!?」

 女性陣が一斉に食いつく。

「本当よ。ある大魔女様の秘蔵の薬でね。随分前に頂いたのだけど使う機会がなくて困っていたのよ」

 女性陣の目が輝く。一方男性陣は動揺を隠せていない。意味が分かっていないトーマ以外は。

「た、たくさんあるの?」

 女性陣にナイス質問とばかりに視線を向けられる。

「はい。なんでも怒りに任せて作り過ぎたとかで、邪魔だからと私のアイテムボックスに山のように詰め込まれました」

 その言葉に女性陣が歓喜する。男性陣は顔面蒼白だ。

「ち、ちなみにその効果時間は?」

「気になります?」

 俺の問いにラナさんは意地悪な笑みを浮かべ、全員固唾を飲んで次の言葉を待つ。


「秘密です」


「えええええええええ」

 全員の叫びだった。


 だがその後、ラナさんを囲んでひそひそと話す女性陣の姿があり、俺の視線に気付いた彼女たちはとても恐ろしい笑顔を俺に向けた。


 俺は、心底震え上がった。


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