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第10話 飛空艇を満喫する国王(仮)

 かつて西の大陸では人族とエルフ族の争いが長きにわたり続いていた。

 やがてその争いは人族対エルフ族という単純なものではなくなる。

 人族同士、エルフ族同士でも争うようになり、更に他種族までをも巻き込み、大義なき混沌の大戦へと拡大していった。

 だが、そんな疑心暗鬼が渦巻く動乱の中にあっても惹かれ合う想いは容易に種族の壁を超える。常に中立を保っていたとあるエルフの国の王女と、とある人族の国の王子が恋に落ちたのだ。

 幸い、両王家はこの縁に戦争終結への希望を見い出し受け入れる事にした。しかし、時代はそれを許さなかった。王女はハイエルフであった為、周辺国のみならず自国内のエルフ族からも反発の声が上がったのだ。

 それでも優しき両王家は二人の幸せを想い、戦争に巻き込まれていない他国へと密かに逃がす決断をする。

 それが更なる悲劇のきっかけになるとは知らずに。

 争いはさらに激化してゆく。

 国が無くなり、生まれ、吸収され、また無くなる。繰り返される混沌は徐々に人々から正常な判断能力奪い、ついに、とある人族の国が凶獣の尾を踏む。

 東の魔獣『ガレア』に匹敵する魔獣『モルゼラーヴァ』を嗾けエルフの国を襲わせたのだ。

 魔獣モルゼラーヴァは嗾けた人族の国の思惑通り、とあるエルフの国を灰燼に帰した。だがその凶撃は収まることなく周辺の国々をも襲った。

 そして訃報がとある2ヵ国に届く。

 密かに幸せな生活を送っていた元王子と元王女の命もその凶撃によって奪われたのだ。

 その訃報を受け、王女の父『オルガ=メルフォール王』は嘆きの底に落ち、慈悲と慈愛に満ちていた心を復讐心で塗りつぶした。

 小月が姿を消し、大月のみが赤く三日月型に輝く深夜。オルガ王は密かに城を抜け出し魔獣モルゼラーヴァと対峙した。そしてハイエルフとしての膨大な生命力の全てを破壊の力へと変換し魔獣モルゼラーヴァを消滅させることに成功する。

 その偉業は人族もエルフ族もその他種族も安堵させたが、一人の少女にとっては受け入れがたい悲劇でしかなかった。物心つく前に病で亡くなった母のようでもあり憧れでもあった優しき姉を失い、いつも笑顔で見守ってくれた温厚な父をも失った少女は、辺り一面焦土と化した地の中心でミイラのように瘦せ衰えた父の亡骸を抱きしめ、血の涙を流す。

 やがて純白のナイトドレスを真っ赤に染めた少女は、その涙が乾く間もなく魔獣モルゼラーヴァを嗾けた国を跡形もなく消滅させた。

 人も街も城も。

 そのたった一人の少女による殲滅攻撃は止まるなく戦争を行う国々に向けられ、少女は『紅涙の殲滅王女』と呼ばれるようになった。

 そして少女の圧倒的な力によって次々と国が滅ぼされていく中、ある男が感情を失くた少女の前に立つ。

 大賢者シャシャートである。

 すでに大陸に戦争を行える国はなく、少女が恨みを向ける相手もなくなっていた。

 だが少女は感情と同時に自我も失っており、少女は大賢者シャシャートへと牙を向く。

 大賢者と少女の戦いは日が沈む頃に始まり、再び日が昇り始めた頃、魔力を使い果たした少女が気を失った事で終わりを迎えた。

 その後、目覚めた少女は大賢者シャシャートのメイドになると宣言。消滅を免れた国々は『メルフォール王国』を中心とした連邦国となり、その元首には『ノア』という名の幼児が就いた。ノアは魔獣モルゼラーヴァの凶撃により命を落とした元王女『ミラ=メルフォール』と元王子『ノイ=グラフィニール』の間に産まれた双子の兄であり、ハイエルフの性質を持ったダークエルフである。同然忌避の子が元首に就く事には反発の声が上がったが、ノアの叔母にあたる紅涙の殲滅王女『ラナ=メルフォール』のひと睨みでかき消された。しかしノアはまだ幼児であった為、大賢者シャシャートが後見人となり、そのメイドであるラナが情勢安定に奔走することになる。

 一方、ノアの双子の妹は『ミア』と言い。ミアは人族寄りでハイエルフの性質はなかったが、父『ノイ=グラフィニール』の国に引き取られ、やがて4男4女の子供をもうけて幸せに天寿を全うした。


「な、なんですか?」

「紅涙の殲滅王女?」

 俺がからかうように指差すとラナさんは照れながら慌てふためいた。

「ちょ。やめて下さい。その時のことはホントに覚えてないんですから」

「ふ~ん。でも、ということはさ、ジルとラナさんは親族ってことだよね?」

「そうなりますね」

「へぇ~」

「な、なんですか? ジロジロと」

「いや。そういえばどことなく似てるな~と」

「そうですか?」

「うん。なんか似てる」

「似てた似てた」

「似てたッス」

 ベルは信憑性あるけど、トーマは流れで乗ってるだけじゃないか?

 ラナさんは照れた感じで頬を掻く。

 なんか嬉しそうだ。


 そこへ昼食が運ばれてきた。

 ここは飛空艇の食堂。

 丸いテーブルをみんなで囲んでいる。

 飛空艇の乗り心地は抜群で、揺れも全く感じないので並べられた食事も動く事無くその見た目と香りで俺たちの食欲をかき立てている。

「いただきま~す」

 美味しい。

 やっぱりこの世界の料理は美味しい。

 けど。米のメニューはここにもなかった。

 あと醤油。なんだろう、この……美味しいけど醤油をかけたい感は。

 醤油もなんとかしたいな。それと味噌も。

 味噌汁食べたい。

「そういえば師匠。車ってなんスか」

 口拭けよトーマ君。

「やっぱり聞こえてた?」

 一同に頷く。

 俺は車について説明した。

 ただし街中を走らせるつもりはない。

 あの街並みに車は似合わないし、危ないからね。

 とはいえこの世界には結界魔法がある。

 事前に車や周囲に結界を張り、一方方向に走るだけならば、たとえ高速域で競いながら走ったとしても負傷・死亡事故は防げるはず。

 つまり俺はカーレースをやりたい。

 それに操作系の競技であれば身体能力の差が激しいこの世界でもスポーツ競技として成り立つだろうし、いずれは感動を与えてくれるヒーローも出て来てくれるはず。

 なので俺はジルにレースカーとしての車の開発の相談をしていたのだ。

「そのサーキットってところで乗り物に乗って順位を競うんスか?」

「そう。誰が一番速く車を走らせることが出来るかを競う。そこに戦闘能力は関係ないからお前がラナに勝つ可能性だってある」

「えっ。……いや。それはさすがに」

 トーマはラナさんに視線を移して微妙な反応を見せる。

 ラナさんも。

「でも、熱くなるだろ? 戦闘能力が高くなくても勝つ喜びを味わえて、賞賛されて、みんなと感動を共有できる。俺はそういう場所とチャンスを作りたいんだよね」

 それを積み重ねていければ、この世界はもっと楽しい世界になるはず。

「確かに……ワクワクするッス」

「まぁ、なんであれ私は負けないでしょうけど」

 あれ? ラナさんって意外と負けず嫌い?

 それを見て不敵な笑みを浮かべるベル。

「あら? その笑みは何かしら? ベル」

「別に~」

 勝つ気満々だ。

 火花を散らすラナさんとベル。

 ……ちょっと不安になってきた。

 トーマも蒼褪めてるし。


 食後、この飛空艇に備え付けられている遊戯でラナさん対ベルが勃発したのは言うまでもない。


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