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第9話 ターミナルではしゃぐ国王(仮)

「よろしくお願いしますッス!」

 大きなリュックを背負ったトーマが深々と頭を下げる。

「お、おう」

 今日は飛空艇に乗ってソブラタに行くので、転移陣で出迎えていたトーマは見るからにワクワクしている。

 もちろん俺も。

 ターミナルは街の南東にあるのでいつもとは逆の方向に歩き出す。

「師匠。ここら辺来るの初めてッスか?」

「え? ……なんで分かったの?」

「いや。それだけキョロキョロしてたら誰でも気付くッスよ」

 ラナさんにやベルたちに視線を移したらみんなに頷かれた。

 は、恥ずかしい。

「ターミナルはもっと凄いッスよ」

 マジで?


 マジだった。

「おおおおおお」

 巨大なターミナル。

 外観も内観もめちゃくちゃデザインに凝っていて荘厳壮麗。にもかかわらず街の景観とも上手く馴染んでいる。

 デザイナー呼べ! と、思わず叫びたくなった。

「やはり美しいですね」

 ラナさんとベルは俺が学術院で働いている間に街を見て回ったらしいが、何度見てもこのターミナルには目を引かれるらしい。

「フヒヒヒヒ」

 ターミナルに見惚れている俺を見て、トーマが気味の悪い笑い声で自慢気にニヤついている。

「なんだよその気持ちの悪い笑い方」

「別に~」

 お得意の『ッス』はどうしたよ。

 まあ、いいや。それより。

「アリーシアさん、この素晴らしいデザイン考えた人って誰なの? 会ってみたいんだけど」

「イヒヒヒヒ」

 またトーマが変な笑い方をしやがる。

 嫌な予感がする。

「母ちゃんだよ」

 トーマからアリーシアさんに視線を移すと、アリーシアさんは恥ずかしそうに恐縮する。

 トーマじゃなくて心底ホッとした。

「握手して下さい」

「ええっ!? そ、そんな滅相もない」

「そんなことないわよ。前にも言ったけどこの建物はとても素晴らしいわ」

 ラナさんの言葉にベルも頷いている。

 それを見てアリーシアさんはそっと手を差し出してくれたので、俺はその手を両手でつかんで握手した。

 そしてまたトーマが気味の悪い声で笑う。

「ニヒヒヒヒ」


「ヘヘヘヘヘ」

「ユイ様。その笑い方気持ち悪いよ」

「えっ!?」

 ベルの言葉で我に返る。

 停船所に並ぶ飛空艇を見て無意識に変な声で笑っていたようだ。

 トーマじゃあるまいし。恥ずかしい。

「師匠は子供だな~」

「あなたも同じように笑ってたわよ」

「えっ!?」

 アリーシアさんの指摘にトーマも驚きの声を上げる。

 俺と同じリアクションするなって。自分を見てるみたいで余計恥ずかしくなるだろ。

「あれ? ユイ様?」

 俺が赤面していると、最近よく聞いている声に呼び掛けられた。

 声の方に視線を移す。

「ああ。『ジル』。何してんの?」

 ジルは第7研究所の所長で、俺が作って欲しい物の相談に最近よく乗ってもらっている。見た目は俺と同じ年齢くらいだが、ダークエルフなのだそうで実際は俺よりかなり年上だ。

 ちなみに、この世界におけるダークエルフとはハイエルフと他種族との混血種の事を指し、ジルはハイエルフと人族との混血らしい。それを聞いてハーフエルフとは違うのかと尋ねてみたら、ハーフエルフはエルフと他種族との混血種の事で、エルフとハイエルフが違うようにダークエルフとハーフエルフも違う種族となっているそうだ。そして"ダーク"と名付けられた理由は、ハイエルフはとても高貴で高潔な種族と位置付けられおり、尚且つ出生率も極めて低い希少種な為、他種族との交配は不浄な行為とされ、その結果生まれた子が例えハイエルフの性質を持っていたとしても穢れの子としてダークエルフと呼ばれるようになったらしい。ただそれは大昔の事で現在はダークエルフだからと忌避する者はいないそうだ。

 そのジルは俺の耳元まで近づき、小声で俺の問いに答える。

「実は、例の"車"の試作機が出来上がりましたので、その試走に」

 俺は思わず目を見開いでジルを見る。

「マジで?」

 ジルはコクリと頷く。

 見たい。

 でももうすぐ飛空艇の出発時間。

 ……残念だけど試走を見るのは諦めるしかないか。

「俺も見たいけど……用があってダメなんだ。次はいつやれる? その時は絶対見たいから」

「申し訳ございません。今日の試走次第なのでなんとも」

「そっか……じゃあ、良い結果が出ることを祈ってるよ。そしたら近いうちにまたやれるよね」

「はい。もちろん」

 ジルは頼もしい笑顔で返事してくれた。

 良し。信じて待とう。

「あっ、そうだ。ラナに会いたいって言ってたよね。いま丁度いるから紹介するよ」

「えっ!?」

 ジルの驚きの声と共に、ラナさんとジルの間にいた千代が後ろに下がり、ジルの視界にラナさんが映る。

 と、同時にジルは片膝を床に付き、頭を下げた。

「えっ!?」

 それを見て今度は俺が驚く。

 だが、ジルは俺の驚きを気にする事なく、ラナさんに頭を下げたまま自己紹介をする。

「ジル=グラフィニールと申します。お初にお目にかかり光栄でございます」

「グラフィニール……懐かしい名ね」

「ハッ。エマ=グラフィニールの一子でございます」

「エマ……えっと、ごめんなさいね。ミアは子沢山だったから何番目の子だったかしら」

「第2子でございます」

「ああ。あのハイエルフとしての性質が強かった……見たところあなたもそのようだけど?」

「はい。ダークエルフでごさいます」

「ダークエルフ。その呼び方まだあるの?」

「ハッ。ラナ様のおかげで忌避としての意味合いはなくなりましたので。むしろ羨望の種族名として見られることもあり、私自身も気に入っております」

「そう。良い方向に変わってくれたのなら私も嬉しいわ」

 なにこの会話。

 その後も『皇国』とか『神樹』とか気になる言葉が交わされてるけど、もしかしてラナさんって……。

 詳しく聞きたかったけど飛空艇の出発アナウンスが聞こえてきた。


 俺たちはジルや見送りとして一緒に来ていたアリーシアさんと別れ、ソブラタ行きの飛空艇に急いだ。


 飛空艇での旅は丸一日あるけど、ラナさんとジルの会話の事、そして何やらみんな興味がありそうな車の話で、退屈はせずに済みそうだ。


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