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第9話 釣り

 思い返せば、俺には友達と呼べそうな存在が1人いた。

 小学6年の時の1年間だけ。

「釣り好き?」

 初めてクラスメイトになり、俺の前の席になった『青井君』が自分の席から振り返りながらそう言ってきたのがきっかけだった。

「やったことない」

 普通ならこの一言で、俺への興味を失っていてもおかしくなかったと思う。

 でも彼は違った。

 逆に喜んだ。

 彼が求めていたのは初心者だったから。

「じゃあさ、今日の放課後釣り行かない? 道具は全部貸せるからさ。あ、部活かなんかある?」

「いや、部活はやってないけど……おれ自転車持ってないから無理だと思う」

 だいたいこれで誘われなくなる。

「大丈夫。大丈夫」

 なにが?

 放課後。

 校門の前に1台の車が止まっていた。

「あれウチの車」 

 青井君くんはそう言うと車に掛け出し、運転席にいた母親に俺を紹介した。

「ごめんね。うちの子に付き合わせちゃって」

「いえ。円川結と言います。よろしくお願いします」

「しっかりしてるねー。優介、あんたもこれくらいちゃんと挨拶しなさいよ」

「はいはい」

 普通の母子の会話。

 普通の母親。ちょっと羨ましかった。

 車は近所の川の川岸に止まった。

 そこには船を降ろすためにコンクリートのスロープが造られており、ボートが1台止められていた。

 ボートの上には男性が一人。

 彼の父親だった。

 

 青井君の父親はバスプロで、青井君もバスプロを目指しているとの事だった。

 バスプロと言ってもバスの運転手ではなくブラックバスを釣る、釣りのプロ。

「ああ。バスの運転手」と言ったときは爆笑された。いい思い出。恥ずかしいけど。

 それでそんな彼の父親曰く、釣りのプロは自分が誰よりも釣る技術だけではなく、初心者の人でも釣れるように教えられる技術を持つ事も大事らしい。

 そしてそれを聞いた青井君は釣りを教える相手を探していて、俺を誘ったそうだ。

 それからは毎日のように川へ。そして休日は湖へと連れて行ってもらって釣りをした。

 青井君が卒業と同時に他県へと引っ越すまで。

「また一緒に釣りしよう」

 引っ越しの前日、青井君は俺がいつも借りていた釣り具一式をプレゼントしてくれた。

 当然、俺の宝物になった。

 でもその後、釣りをしたのは一度だけ。

 その宝物を持って一人で近所の川に釣りに行ったけど、貰ったルアーの1個を根掛けて失ってしまい、それからは失くしたり壊したりするのが怖くて全くしなかった。

 だからもし、向こうの世界の物を1つだけ持ってこれるとしたら、楽しみにしていたラノベではなくその釣り具一式を俺は選ぶと思う。

 

 青井君は今どうしているのかな。


 青井君との思い出を思い出しつつ俺は今、水面のウキを見つめている。

 そう、釣りをしている。湖で。隣ではラナさんも。

 なぜなら館の一室で釣り具を見つけたから。

 シャシャート様のものらしい。

 釣りに関しては楽しい思い出しかない。青井君に貰ったルアーのひとつを失くしてしまった事以外は。

 なので釣り具を見つけた瞬間ワクワクが止まらなくなり、ラナさんを誘って釣りに来たのだった。

 ちなみにこの世界にも釣り文化はあるそうだ。

 ただ、この世界には普通の魚以外に魔魚と呼ばれる凶暴な魚もいるらしく、そいつを釣ってしまった場合は逆に攻撃をされて命を取られることもあるので、釣りはとても危険な行為とされているそうだ。

 だがそれでも釣りを愛好するものは多く、愛釣者団体も各地にあるとか。

「団体の行事として市場に出回らないような珍しい魚を試食会として会員にふるまったりもしているので、それを目当てに入会する美食家も多いんですよ」

 横で一緒に釣りをしているラナさんが教えてくれている。

「ただ、入会するにはそれなりの条件もありますけどね。魔魚と戦える強さを示す試験とか」

 まぁ、だろうね。凶暴な魔魚がいるわけだしね。

 そんな魔魚の影響で魚は高級食材となっていて、更に珍しい魚となると釣りをしない者にとっては団体の試食会か大金を積まないと口に出来る機会はないらしい。

「シャシャート様も入会してたの?」

 そんな気がする。釣り道具持ってるくらいだしね。

「はい。ただ、入会というより最初の団体の発起人がシャシャート様です」

 なんでもやってるねシャシャート様。

「なのでシャシャート様は愛釣者の方たちからは『釣神』としても崇められています」

 大賢者に釣神……凄いね。

 なんか他の事でも崇められてそう。

 ピクッ

 おっ! ウキに反応が。

 エサはミミズ……のような生き物。

 賢者の書には『インテ』という名前で載っていたが、ミミズと思っていいと思う。

 エサ釣りも教えて貰っていたのでなんとか針に付けられた。正直、気持ち悪かったけど。

 釣り糸は『スポル』という蜘蛛型の魔獣が吐く糸を加工した物らしく、今使っているのはその中でも高品質の糸だそうだ。

 釣り竿は長い。鮎竿のように10mくらいはある。

 魔魚がいるのでウキ釣りならこれでも短い方らしい。

 なぜか軽々使える。

 俺が体力バカになってるせいもあるだろうけど、竿の性能のおかげもあると思う。

 他にもシャシャート様の釣り部屋にはルアーやリールがあったけど、ルアーは失くすといけないし、リールはメンテナンスの仕方が分からないので使うのは遠慮した。

 ちなみにリールの性能はまだまだ向こうの世界程のものではなく、本で見た昔のシンプルなリールに似ていた。それでもかなり試行錯誤されている感じはあり、もう少しで、何かのきっかけ次第では飛躍的に成長しそうな気はした。

 俺は……分解とかはしたことがないので、そのきっかけにはなれないと思う。

 おそらくどこかの釣り好きがやり遂げてくれるのだろう。命がけで遊んでいる人たちなのだから。


 ウキの動きが慌ただしくなってきた。

 そろそろ来るかな。


 ウキが沈む。


 竿を素早く立ててアワセる。

「フィーッシュ!」

 ラナさん、そのまま聞こえたのか、魚と訳されて聞こえたのか知らないけど不思議なものを見る目でこっちを見ない。久し振りの釣りでテンション上がっているんです。

 魚が強めの引きで抵抗する。

 うん。いい引き。

「コレコレ~」

 自然と笑顔になる。

 すると魚がジャンプ。

 大きい。60センチくらいかな。

 黒い魚体にオレンジ色の模様が所々に入っている。

 オスカー? 図鑑で見た熱帯魚が頭に浮かんだ。

「魔魚です。その魚」

 ラナさんの声だ。

 瞬間。その魔魚は空中で頭を振って針を外すと、鋭いギザギザの歯をを剥き出しにして俺に向かってきた。

 が。

 俺に接近したところでラナさんにぶっ飛ばされた。

 俺もリスの時みたいにビンタしようと構えていたけど、それより先だった。

 地面でピクつく魚。

「やりましたね!」

 ん?

 ラナさんは凄く喜んでいる。

「この魔魚、凄く美味しいんですよ」

 この魔魚は『テラーラ』と呼ばれていて、捕獲されることは稀で愛釣者団体の試食会でも、出せば試食希望者が殺到する人気魚らしい。

「焼きますぅ~? 煮ますぅ~?」

 ラナさんは右手を頬に当て、どう料理するか考えながらクネクネしている。


「ボクにも一口頂戴」

 小鳥が俺の左肩に止まる。

 カワセミみたいな青い鳥。セラートだ。

「君は、あの時案内してくれた鳥?」

「ソダヨー」

 なんかそんな感じの言い方流行ってたな。

 なぜそんな言い方に訳す。

「少しでいいからさー。捨てる部分でいいからさー」

 セラート達にとってもテラーラは美味魚と言われているらしく、俺が釣り上げたのを見てこんなチャンスは二度とないと、思わず出てきてしまったらしい。

 普段は逆に捕食される側だろうしね。

「ラナ。この鳥も一口食べさせてくれって言ってるんだけど良いかな? 実はあの日、館までこれたのはこの鳥が案内してくれたおかげでさ、お礼として食べさせてあげたいと思っているんだけど」

「もちろんです。一緒に食べましょう」

 この場で食べることにしたので、切り身にしてシンプルに塩焼きにしてくれるそうだ。

 俺は料理ができるまでもう少し釣りを。

 手伝いは必要ないって言われたし。

 ちなみにラナさんもアイテムボックスを使える。たぶんラナさんも結構凄い人なんだと思う。

「ねえねえ、次は『ホルマ』釣ってよ」

 俺の頭の上にいるセラートからリクエストがきた。

 というかなぜそこに。

 絶対にフンをしないように釘を刺した。

「しないから、ホルマ。ホルマ食べたい」

 そんなに美味しい魚なのかと聞いたら、凄く美味しいらしい、特に赤い卵が。

 イクラ?

 以前、死んでるホルマを食べた仲間から自慢されて、どうしても食べてみたかったと。

「分かった。じゃあ狙ってみるよ。……でもこのエサ、インテで釣れるの?」

「知らない」

 やっぱり。

 他にエサは持っていないのでインテを針に付けて投げる。


 キタ!

「フィーッシュ!」

「なにそれ」

 釣りの王様のマネとだけ説明しておいた。

 釣れたのは20センチくらいの細長い銀色の魚。

 これはホルマではなく『カフ』という普通の魚でこの辺にたくさんいるらしい。

 小骨が多く身もほとんどないそうだが、しっかり揚げると骨ごとカリカリ食べられて美味しいそうなのでキープ。〆て劣化防止魔法が掛けられた保存箱へ。

 

 その後はカフが数匹続いた。

 群れでいる魚なのかもしれない。

 そして、またカフかと水面から抜き上げようとしたとき、下から70センチくらいの赤い魚が喰いついてきてカフを丸呑みにした。

「ホルマだ!」

 頭の上でセラートが飛び上がった。

「そいつ魔魚だから気を付けて! 水玉投げてくるから!」

 そう言いながらセラートは俺から離れた。

 なぜ今言う!

 でも水玉ね。

 ウォーターボール的な魔法かな?

 正解だった。

 ホルマは水面で頭や尾ビレを振ってウォーターボールを放ってきた。

 避けられない速さじゃないけど、ホルマの動きを竿でいなしながらなので気は抜けない。

 結構いい引きするし。

 ……だいぶ弱ってきたみたいだ。

 半身に構え一気に水面から上空へ抜き上げる。

 そしてそのまま陸地へ叩きつけた。

 ホルマゲット!

 と思ったが竿と釣り糸が長いので上手く力を伝えられず、それほど大きなダメージは与えられなかった。

 どう……しよう……と思っていたら、ホルマは陸上では何もできないようであっさりとラナさんに〆られた。

「ホルマゲットー!」

 セラートが叫びながら上空から降りてきた。

 かなり高いところまで避難していたようだ。


 丁度料理もできたようなので昼飯にすることにした。


「ナニコレ」

 でっかい岩のテーブルに石の椅子。

 いえ、知ってました。見てました。視界の端で。

 ラナさんが岩を抱えてきてスパスパっと切断して作っているところを。

「身体強化魔法と風魔法を使えば簡単です」

 ラナさんはそう言うけど、たぶん簡単ではないと思う。

 ラナさんはやっぱり凄い人だった。

「お待たせ致しました」

 岩のテーブルに釣れたてのアラーラの塩焼きとサラダにスープ、焼いたパンが並ぶ。

「アレ? ホルマは?」

 セラートが動揺しながら聞いてきたので代わりにラナさんに聞いてあげる。

「夕飯に致します」

 セラートは俺を介してそれを聞くと絶望した表情で固まった。

 真っ白になったあのボクサーのように。

 かわいそうなので助け舟を出してあげる。

「そんなに食べたいなら夕食も一緒に食べればいいじゃん」

 セラートは目を見開いてこっちを見た。

「え? でも、え? 良いのかな?」

「良いよ。ね?」

 ラナさんを見る。

「もちろんです」

「良いってさ」

 セラートに教えてあげる。

 セラートは飛び上がって俺たちの周りを飛び回った。

 本当にうれしそうだ。

「じゃあ食べようか」

 ホルマは夕食にお預けになったけど目の前にはアラーラの塩焼きがある。

「いただきます」

 !!

「うまーい!!」

 もの凄くうまい。

 塩を振って焼いてあるだけなのにしっかり味があって、旨味の汁がジワッと。

 これは凄い。

 ラナさんの腕もあるのだろうか。

 焼き加減とか。

 そのラナさんもご満悦顔。

 セラートも一口食べるたびに羽をパタパタさせている。

 うん。また釣ろう。


 夕食のホルマも楽しみだ。


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