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第8話 言語篇と生命篇

 朝食を食べ終えると、俺は賢者の書『言語篇』を取り出した。

 うん。辞書だね。

 この世界のあらゆる種の言語を人語に訳してある。

 と言ってもその人語は俺には日本語に見えているけど。

 この世界の人語も見たいな。

 と、思ったら日本語がズレてこの世界の人語の文字が出てきた。

 どゆこと?

 まぁ便利になっただけで、問題がある訳ではないので深く考えない。

 これでこの世界の文字も勉強出来るかな。

 会話はできるけど書くことは出来な……出来るのかな?

「ラナさ……ラナ。書くもの……ある?」

 ラナさんが紙とペンを持って来てくれた。

 一応、聞いておこうかな。

「紙はお高い物?」

「はい。上質の紙ですね」

 聞き方が悪かった。

「ごめん。聞き方が悪かった。紙って普通に手に入る?」

「質によりますね。一般的に出回っているものは低質なもので、安値でどこででも手に入ると思いますが、中質からとなると街の規模の店か良質なものを扱っている行商人からしか買えないかと」

 ということは紙を作る技術はそれなりに確立されているのかな。

 この紙も向こうの世界の洋紙と遜色無いし。

 これは上質なものらしいので試し書きに使うのは気が引けるけど、他のは無いそうなので使わせて頂こう。

 ペンはインク式。大賢者様ご愛用の物なので聞かなくても見た目と持ち心地でわかる。これはお高い物。

 ありがたく使わせて頂きます。

 まずは日本語で……ありがとう。当然普通に書けた。

 次はこの世界の人語で……って。人語はひとつしかないのかな?

「ラナ。この世界の人語ってひとつだけ?」

「ですね。土地によっては微妙に違っているところもありますが。基本的には同じです」

 じゃ、人語で……! 紙の上に書きたい言葉の、この世界での人語文字が浮かび上がる。

 それをなぞって書き、ラナさんに見せる。

「? ……どういたしまして?」

 通じたようだ。俺はこの世界の人語文字でもありがとうと書いた。

 この世界の人語、勉強すべきかしないか。

 やっておこうかな、一応。

 言語篇のページをパラパラ捲る。


 鳥語?

 訳せているという事は、シャシャート様も鳥と会話ができたのだろうか。

「シャシャート様って、鳥と会話できたの?」

 言語篇に目を向けたまま尋ねてみる。

「できなかったと思いますよ」

 あれ?

「できないのが普通だよね?」

 言いながらラナさんを見る。

「……はい」

「ラナは?」

「できません」

「じゃあ、これを見ながらだったらできる?」

 言語篇を渡す。

「鳥の言語、ですか。ピピピッピがこんにちは?」

 言えてないね。

 ということは……持っているだけじゃ使えないってことかな?

 イヤ、逆に俺がいま持ってないから……

「ラナ。そのまま」

 ラナさんが言語篇を持っている状態のまま言語篇に触れる。

「ラナ。さっきみたいに鳥語しゃべってみて」

 ……ラナさんがしゃべる鳥語はただのピピピだった。

 やっぱり持ってるだけで使えるわけじゃないんだ。

「なんですか?」

 質問の意図が分からないし、自分だけ何かを理解していてずるい。みたいな表情をしている。

 説明した。

 シャシャート様は鳥と会話が出来なかったのになぜ鳥語の訳を載せることが出来ているのか、そしてなぜ俺は鳥と会話できるのか、という疑問を。

「ユイ様は鳥と会話ができるのですか?」

 とても驚かれた。

「うん。 でも、他にも出来る人がいるからここに鳥語が書かれているんじゃないの?」

 ラナさんは「暫しお待ちを」と、言語篇を俺に預けてどこかへ駆けて行った。


 戻ってきた。

 一冊の本を手に持って。

 それは賢者の書『生命篇』だった。


 そこに書かれているものは図鑑。

 植物。動物。魔物。魔獣などのこの世界のあらゆる生物を収めた……収めようとしている書だ。

 なんでも、この書に生物の情報を記載するにはこの書を持ったまま対象に触れれば出来るらしく、それによって対象の生物の記憶などの私的な情報以外が記載されるらしい。あくまでコピーのようなものなので対象の物体は消えないそうだ。そして、言葉を持つ生物であればその言語は、言語篇に記載されると。というのも賢者の書10冊は全てリンクしており得た情報はそれそれの篇にそぐった書に記載されるようなっているからとの事だった。

 生命篇に言語を載せてもいいような気もするけど……そうしたら言語篇の価値が落ちるか。

「なので鳥語が使えなくてもこうして言語篇に訳を載せることが出来ています。ただ、それはあくまでも文字としてのみなので読んだからといって使えようになるわけではありません」

 なるほど。

「ちなみに、この書はシャシャート様が常にお持ちだったのでこの館にありました。ぜひユイ様もこの書の完成を目指して下さい」

 いや、そんな気合い入れられても。

 面白そうだけどさ。

 ちなみに、新しい情報が記載されるとそこには印が付くらしい。

 NEW! とでも着くのかな。

 生命篇にその印は……ないね。

 じゃあ、ここへの道案内をしてくれたあのカワセミみたいな青い鳥でも探して見てみようかな。

 ……あ! あった。

 名・セラート

 別名・幸福の使者

 とても綺麗な青い鳥。その飛行速度は超高速で捕まえるのは非常に困難。また、出会った者を幸福が訪れる地に導くと言われている。

 ここって幸福が訪れる地なのかな。

 半ば無理矢理案内させたけど。だからって逆に不幸になったりしないよね。

 遭遇難易度S

 エス!!

 あの時出会えたのって滅茶苦茶幸運だったの!?

 また会えそうな気がしていたけど、もう会えないのかな。

「そこのマークを触ると映像が出ますよ」

 ホントに!?

 触ってみる。

 ページ上にセラートの立体映像が浮かび上がる。

 ホログラフィー……だったっけ?

 凄く鮮明に再現されてる。

 360度角度を替えられるし、飛んでる動きもするし。

 向こうの世界より遥かに上の技術。

 魔法があるから出来てるのかな。

 ……この機能を言語篇にもつけて映像がしゃべれるようにしたら面白いんじゃ……そうすれば鳥語を学ぶこともできるかもしれないし。

 ラナさんに聞いてみた。

「確かに! いいアイデアだと思います! ただ、シャシャート様がいない今となっては改造は不可能かと」

 そうなんだ。

 ラナさんは悔しそうだ。

 いつか出来たらいいんだけどな……。

 

 じゃ、次はあの1本角のリスを見てみようかな。

 ……あった。

 名・ラーフ

 別名・死の使者

 死の使者って。1日に死と幸福の使者に会っていたって事?

 愛くるしい見た目に反して非常に好戦的。出会った瞬間に額の角で攻撃を仕掛けてくる。その動きは直線のみで単純。だが超高速。ゆえに出会った瞬間、瞬きをする間もなく命を取られるであろう。

 よく避けられたな、俺。

 遭遇難易度B

 危険度A

 ……ここに性悪度Aを加えたい。

 性悪度A

 加わった!

「あの……こういう名前とか補足文とかって誰が決めてるの?」

「世間に認知されているものであれば自動的に、そうでないものは発見者。シャシャート様がお付けになっていらっしゃいましたよ」

 ごめんリス。

「修正することは?」

「消すイメージで手でなぞれば出来ますよ」

 出来るんだ。

 ……しないけど。


 パラパラ

 ん? NEW! ある。やっぱりNEW! なんだ。

 げ! あいつだ。

 名・ガレア

 別名・最悪の魔獣

 暴食の凶獣。その巨躯に反し動きは俊敏。闇魔法を得意とし、星をも喰らう闇属性の究極魔法をも使うことができるとの言い伝えもある。間違いなくこの世界の最強種の一角だろう。

 遭遇難易度B

 危険度S

「ガレア……ね。やっぱりヤバい奴だったか」

 星をも喰らうって、使ったらみんな終わりだろうに誰が知って言い伝えたんだ。

 確かに使用魔法一覧にはヤバそうな名前の魔法があるけども。

 ああ、そういうのを分析する魔法を使える人でもいたのかな……シャシャート様なら使えそうだし。

 映像を出す。

「え!?」

 ん? ラナさんが驚いている。

「なぜガレアの映像が? ガレアはシャシャート様でも触れることが出来なかったので名前などの情報しか記載されていないはず……! もしかしてユイ様、倒されたのですか?」

 凄い顔で見つめられる。

「えっと……そう……なるのかな?」

 ん? となるとさっきの分析魔法みたいのはシャシャート様は使えなかったのかな。

 困った時のラナ先生。聞いてみよう。

「確かにそういう分析魔法はありますし、シャシャート様もお使いになられていました。実際、賢者の書の情報収集機能もそれが元になっています。ただその魔法は分析されるのを嫌うものには改竄された情報を見せられたり、魔法自体を弾かれてしまうことがあって、当然ガレアも弾きました。それに立体映像を出すほどの深い情報を得るにはやはり賢者の書を使わないと無理なのです」

 なるほどね。あと。

「ちょっと今の言い方で気になったんだけど。他の賢者の書も情報収集機能があるの?」

「はい。その書に沿ったものであればですが。たとえば『武器・武具篇』はその書を持ったまま武器に触れるとその武器の情報が書に記載されます」

 ほー。『武器・武具篇』も見てみたいな。


「ところで、あの……み、見せて頂いても?」

 ラナさんはガレアの立体映像を見たくてうずうずしているようだ。

「どうぞ」

 ラナさんに生命篇を渡す。


 ラナさんは暫くの間ガレアの映像を食い入るように見ていた。

 何度も角度を変えながらあらゆる方向から。


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