第7話 穴があったら入りたい
夜になった。
ラナさんは「お食事をご用意致しましょう」と場を離れた。
行きしな、壁や天井に備え付けられた魔光石と呼ばれている石に魔力を流し、照明として光らせていった。
電気の照明と変わらない明るさだ。
消す時は魔力を吸収するか、できない人は台座の下に取り付けられている黒いコップのようなものを被せるらしい。
ラナさんはもちろん吸収できるそうだ。
俺はお風呂を勧められたので、入らせて頂くことにした。
普通の大きな風呂だった。
ドラム缶風呂みたいなのを想像していたけど、水は湖から引いているのだろうか?
シャワーもある。
体を洗って湯船に浸かる。
疲れがドッと抜けていく感じ。気持ちいい。
異世界に来たんだよな。
向こうの世界は今頃どうなっているんだろ?
山の入口のおじいさんが最後の目撃者だよな。
警察に色々聞かれてるのかな。で、俺は山で遭難していることになっていて……山狩りとかされていたり? テレビカメラとか来てたりするのかな。
立川さんは心配してくれていたりするのだろうか。
だとしたら申し訳ないな。逆にされてなかったら寂しいけど。
そういえばラノベ! 読めないじゃん!
ほかの作品の続きも、コミック化も!
愕然とする。
……空間魔法でなんとかできないかな。俺が来れたんだから。
うん。夢として抱いておこう。諦める必要はないよね。
お風呂から上がるとテーブルには料理が並べられていた。
服はシャシャート様のものを着替えとして用意してくれていたのでそれを着ている。
だいぶ大きい。
ちなみに新品との事。
古着しか着たことないから別に気にしないんだけどね。下着以外は。
料理はとても美味しかった。
ステーキがメインの料理で今まで食べた中で一番おいしいステーキだった。
肉は、その動物の姿を聞いた感じだと牛の肉だと思う。
あれ? 今までステーキ食べたことって……やめ。悲しくなりそうだからこれ以上思い出すのは止めておこう。
何の肉かもだけど、いつの肉かも気になったので聞いてみたら、食糧庫には劣化防止の魔法をかけてあるから問題ないそうだ。これも空間魔法で使える人は少ないとラナさんは胸を張っていた。大きな胸を。
なので俺は安心して料理を楽しんだ。
他の料理も美味しく、俺の料理でこの世界の人を驚かせるのは無理だと実感した。
食事をした後はすぐに寝た。
ラナさんに聞きたいことはまだあったけど、疲れていたんだと思う。精神的に。
朝。
ベッドから起きてバルコニーに出るとラナさんが庭の花たちに水をあげていた。
ラナさんが手を振ってくれたので振り返す。
機嫌は良いみたいなので一安心。俺が永い眠りから勝手に起こしてしまった様なものなので気にしていた。
……あれ? ラナさんっていつ起きたんだろ?
結界が解除された瞬間?
一気に顔が赤くなった。
み、見られていた? 夜中、怖くて間が持たなかったから、楽しい事しようと歌ったり踊ったりしていたところを。
朝食。
パン。ハム付き目玉焼き。サラダ。紅茶。
味……それどころじゃない。
聞くか聞かないか。
チラチラ、ラナさんを見てしまう。
聞かないほうが幸せだったということも……。
「ラナさんっていつ起きたんですか?」
聞いてしまった。
……変な間。ラナさんにジッと見つめられる。照れる。
あっ。敬語だった。
「ら、ラナって……い、いつ起きたの?」
年上の人にタメ口。ソワソワする。
「夜明け前頃ですね」
いやそうじゃなくて。
「イヤ、永い眠りから」
「ああ。失礼致しました。結界が解除された時ですから、ユイ様が庭の門を開けられた時くらいではないかと」
ギクッとした。つまり……。
「ということは……俺が館に入るところは?」
「見ていましたよ」
!!
「なんで出て来てくれなかったんですか!!」
あ、また敬語に。
「なんで、出て来てくれなかったの?」
「出て行こうとしたら何故かまた外に出られたので。その後もタイミングを見失ってしまって」
目頭を押さえる。何やってんだ俺は。
「ということは……夜も?」
「はい。歌と踊りがお好きなんですよね」
顔が赤なる。
「とくにあの踊りは印象的でした。後ろ向きで滑らかに歩く」
ムーンウォークですね。はい。やってました。
階段を上った所の廊下が滑らかだったので、つい。行ったり来たり。
フォーッ! とか。
穴があったら入りたい。




