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序1 転移と記憶

 俺の異世界転生はいつも夢オチだった。


 飛んでいる龍の背から落ちて絶叫したら目が覚め。

 魔王を倒して勝ち鬨を上げたら目が覚め。

 エルフのお姉さんと仲良くしていたら目が覚めた。


 今だって……


 絶対夢なんだ。


 目の前で咆哮するバカデカイ四足魔獣。

 深紫色の鱗に覆われ、頭部には4本の角、頸部から尾の付け根まで続く銀色の鬣。

 自身の暴虐さを顕現したかのような牙と爪。

 

 禍々しい。


 怖い。

 動けない。

 震えるだけ。


 喰われた……丸呑みで。


 暗闇の中、体が勝手にうねる。ねじれる。千切れて……くっついた?

 痛みはない。

 感覚だけが伝わってくる。意識があるのが良いのか悪いのか……。

 消化されている感じはしないけど……人の形はまだ保たれているのだろうか。

 お尻から出されるのかな。

 それは……嫌だな。

 このままはもっと嫌だけど。

 体のどこかが泡のように膨らんで……弾けた。

 

 ただただ気持ちが悪い。

 

 

 俺は今日何をしていたんだっけ……。



 俺は……本好きの中学生。

 だけど本を買うお金は持っていない。

 滅多に帰って来ないシングルマザーの母親が、食費だけで無くなる程度の僅かなお金しか毎月振り込んでくれないからだ。

 母は俺の面倒を見る気が全く無い。

「図書館行ってなさい」

 小さい頃の俺は本さえあれば大人しくしていたので最初は本だけは買い与えてくれていたが、次第にそれも嫌になった様で、図書館の近所に引っ越しその言葉を口癖にしていた。

 決して俺のためにではない、自分の時間と金の為に。


 そして10歳頃、母は俺にATMの使い方を教えた。

 俺が一人で生活出来ると判断したからだ。

 今更母の存在などどうでもよくなっていたのでむしろ喜んだ。

 これからは好きな本を買えると。

 だがよく考えずに意気揚々と本を買った結果、月末食費がなくなって地獄を見た。

 それでも、渡されていた母親の電話番号には意地でも掛けなかったが。


 掛けるぐらいなら死んだ方がマシだった。


 俺が本好きなのは知っているくせに、それを全く慮らない僅かな金額しか振り込まないとは…。


 あのクソバ……。


 ということで、ケチな母親のせいで本は買えないので今日も図書館に行った。

 日曜日なので朝から。

 開館時間と同時……はなんか恥ずかしいので開館して10分後くらいに入った。

「や。おはよう」

「おはざっス」

 小さいころから通っていれば司書の人と顔見知りになるし、中にはそれなりに会話をする人もいる。

 とくに今挨拶をしたお兄さん、『立川さん』とは通い出した頃からの知り合いで俺の家庭の事情も話している。

 その時はとても驚いて、困った顔をしていたけど、次の日漫画を持ってきてくれた。

 図書館の漫画は教育系しかなかったので凄く嬉しかった。

 世界が広がった気がした。

 今でも立川さんが買った本は必ず貸してくれている。

「そうそう。あのラノベ。もうすぐ読み終わりそうだから明日来るなら貸せると思うけど…。明日来る?」

 あのラノベ。次巻を楽しみにしていた作品の最新刊だ。

 立川さんも気に入ってくれているようで新刊が出るたびに買ってくれている。

「来ます!絶対!明日!!」

 上着のポケットの中で右こぶしを握る。

「じゃあ明日持ってくるよ」

「よろしくお願いします!」

 深々と頭を下げた。


 今日は釣りの本を読むことにした。

 物語モノは明日のラノベの為に避けた。


 20分くらいたった頃、女の子の声が耳に入ってきた。

 3人の女の子。

 同じクラスの女子達だ。

 最悪。

 受験が近いから勉強をしに来たのだろうか。

 家でやってくれよ。

 俺は定時制に行くつもりだけど今の学力なら問題ないらしい。

 それでも一応やることはやるやるけど無理はしない。

 あのラノベは絶対読む。


 一人の女子と目が合う。

 気付かれたようだ。

 一気に居心地が悪くなった。

「あれ?もう帰んの?」

 来てすぐに帰るのは珍しいので立川さんは不思議そうな顔で尋ねてきた。

「う、うん……。明日!」

 あのラノベよろしく!という感じで軽く手を挙げる。

「おう」

 立川さんも手を挙げて応えてくれた。


 そして図書館を出た俺は……。


 もう一つのお気に入りの場所。図書館裏の小山にある、お地蔵さんの所へと向かった。

「お。兄ちゃん行くんか?」

 山道の入り口で、入り口近くに住むおじいさんに声を掛けられた。

 おじいさんはお地蔵さんがある小山の中腹辺りを指差している。

「あ、はい」

「じゃあ掃除頼むわ」

 おじいさんは箒を掃く仕草をする。

「最近腰が痛くてよ。行けてねぇんだわ」

「そうなんですか……。分かりました。やっときます」

「ありがとな。助かるよ」

 お地蔵さんがあるところまでは約20分。

 そこからは街並みだけでなく遠くに海も見えるので図書館の次に良く来ていた。

 人もなぜかあまり来ないし。

 なので司書の人たちと同じように先程のおじいさんとも顔見知りになって、掃除もよく頼まれていた。

 実は最初に頼まれたときに「良い事あるかもよ」と、とても胸に刺さる言葉を言われたので頼まれていない時も気になる箇所があれば掃除をしていたりする。

 よし、今日も誰もいない。

 小山の中腹。

 その少し開けた場所に大きな銀杏の木があり、その隣の祠にお地蔵さんが一体祀られている。

 辺り一面には銀杏の葉が落ちていた。

 それはそれで綺麗だけど、まずはそれを箒で掃き集めることにした。

 箒は祠の裏に置いてある。


 そう……俺はお地蔵さんのところの掃除をしていたんだ。


 箒で銀杏の葉を掃き集めていたら、銀杏の葉が俺を中心に舞い上がって……。


 青い魔法陣が足元に現れた。


 一瞬その輝きに見惚れたあと……視線を上げるとあの魔獣がいた。


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