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ワクチンが遅れたなんていうけれど……

 日本は新型コロナウイルス感染症が流行する前から重度の「ワクチン忌避」なんていう病気に、長期にわたって侵されていました。

 それでなくても保存条件が厳しいワクチンです。この情勢下で「ワクチンなんて信用できない」なんて声が上がって大量に廃棄する羽目になったら、ちょっと冗談では済まないと思います。


 ワクチンを入手するからには、ある程度は接種しないと駄目でしょう。せっかく入手したワクチンを、日本人同士が空気を読んで一致団結して「打ちません」なんて言って大量に廃棄する羽目になったら、それこそ目も当てられません。


 ワクチンを手配して「いりませんでした」は通らない。いや、通るかもしれませんが、その後に「やっぱりいる」はね、さすがに駄目だと思います。そうならないよう慎重に、諸外国の結果を待ってから接種を始める。治験の結果だけで「このワクチンは大丈夫」なんて思う人は少数派だったと思いますし、現にマスコミも、ワクチン接種開始時にかなり強引にワクチンの安全性を疑問視するような主張をして批判を浴びていました。


 結果として接種がこの時期になったのは結果論かもしれません。でも、自国でワクチンを生産していないことも考慮すればね、そこまで悪い対応でもなかったと思うのですよ。


  ◇


 新型コロナウイルス感染症が流行する直前の2018年、第一三共が開発していたmRNAワクチンの治験に、国は予算を出しませんでした。その結果、治験は行われずに、ファイザー等の海外の製薬会社に大きく水を開けられることになりました。


 これはなんというか、とても惜しいことだとは思います。ですが、開発を続けていたら良い結果になったのかは、結局のところ、わからないと思います。


 一部で人体実験なんて言われていた医薬を日本が開発し、日本人相手に治験をする。例えばその最中にGoToキャンペーンのような消費を促す政策を行ったら、「人体実験のために感染者数を増やすつもりか」とか、そんな声が上がっていた可能性だってあったと思います。


――結局ね、ワクチンに対する理解がない以上、国内でのワクチン開発なんて無理だと思うのですよ。


 日本には、mRNAワクチンを作るだけの基礎技術があって、実際に物も作られた。なのに、人間に投与されることなく終わってしまった。mRNAワクチンというのは技術の塊です。その技術が今こうやって実現して、その効果もはっきりと数字で示されて、安全性も確認されて、必要性もはっきりしている。そんな今の状況でなお、デマの拡散に躍起になっている人がいて、そのデマを信用する人もいる。


 私は、政府がワクチンに対して慎重になるのも理解できます。諸外国で接種を始めていたワクチンを国内でもう一回治験をするなんて、時間のかかることもしました。その治験がなければもっと早く接種を始めることもできたかもしれません。でも、その治験によって、接種をさらに確実に進めれるようになった可能性だって十分にあります。


 もし仮に、政府がワクチン接種を確実に進めるために調達を遅らせたのだとしても、そのことを責めるつもりにはなれません。


 結局、ワクチンを遅らせたのは、日本人のワクチンに対する理解の無さだと思います。ワクチンに対する信頼性を損ねることに躍起になる人がいて、ワクチンに対する信頼性を広めることに躊躇した人がいる。そういった一人一人の主張や沈黙が、ここまでワクチン接種を遅らせたのだと思います。


  ◇


 この新型コロナウイルスのワクチン、有効率が90%以上と、数字の上でちょっと信じられないほどの効果を出しています。ですが、この90%という数字は、何を指しているのでしょうか? いえ、別にどうやって算出したのかとか、そういったことを言っているのはないのです。


――原理上、ワクチンを接種すれば、抗体が身体の中に構築されますよね。そこにワクチンの有効率だとかそういった数字は関係ありません。接種すれば「ほぼ全員に」抗体が構築されます。それは、有効率の低いワクチンでも同じです。


 同じ病気でも、抗体があるかないかで症状は変わります。おたふく風邪なんて、抗体があるかないかで怖さが全く違うじゃないですか。

 もしも「一生に一度はおたふく風邪に感染する」と仮定したら、いつ感染したいですか。大人になってから感染したいですか。重症化しにくい子供のうちにかかっておきたいと思いませんか。


 安全に抗体を構築できるワクチンは、子供の頃に感染するよりもさらに安全だと思いませんか。大人になっても安全に抗体を構築することのできるワクチンは魅力的ではないですか。


 ワクチンってね、「発症を90%抑える」とか、そういう効果で語る医薬品ではないと思います。社会的にはそういう効果が大切なのかもしれません。でも、接種する人にとってのメリットはそこではありません。


――ワクチンで一番大切なのは「怖い病気を怖くない病気に変える」この一点ではないでしょうか。


 ワクチンを接種すると、病気そのものが変わります。新型コロナウイルス感染症が、風邪か、インフルエンザ程度の病気に変わるのです。だから、国民の大部分が接種すれば、誰かに感染させても怖くなくなります。

 新型コロナウイルス感染症が怖くなくなれば、この騒動は終わります。だから、大切なのはより多くの人がワクチンを接種して、新型コロナウイルス感染症がより多くの人にとって「怖い病気」でなくなることです。


 集団免疫なんて副産物でしかありません。感染者が出なくなろうが、一千万人でようが関係ありません。「怖い病気を風邪にする」ワクチンに求められているのはそれだけです。


 既に、社会を回せるだけの人がワクチンを接種するであろう見込みは立っていると、私はそう思います。

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