発端
そもそも私が貴族の婚約者候補として令嬢教育を受けるきっかけになったのが昨年の嵐だった。
エリューシアの王城を取り囲むように作られた王都エリューシアン、その城下町に我が家は中々に繁盛している食堂もくもく亭を営んでいる。
その王城を取り囲む壕へ水を流し込んでいる川がその嵐で氾濫の危険があるという事で騎士団や貴族の私兵などが街の人の避難や土豪作りなんかに駆り出されてたんだけど、その中に自家の私兵を指揮するテウとセイもいた。今から考えると当時彼らは13~14歳でそんな子供が指揮してるのにビックリなんだけど、この世界では10歳を超えれば貴族には色々な義務が課されるらしい。
そして彼らは支流を作り街から離れた方向へ川の水を誘導しようとしていたんだけど、確かにそのためにはテウの土魔法で地面を掘る必要があって大人とか子供とかより魔力の強さできっと彼らは適任だったんだと思う。
ただ水の流れが早くて思った方向へ水が流れて行ってくれなかった。
セイはその近くにあった大木で水の流れを変えるつもりだったんだけど、嵐の風が強すぎて幹がしなり彼の風魔法で上手く狙った方向へ木が倒れず苦戦してたのに気づいた私が雷で木を倒した事がきっかけだ。
私は避難の途中で彼らの様子を見て、意図に気づいてちょっと手を貸したわけだけど、今から考えるとあまり魔法の訓練をしてなかった割に狙い通りの結果が出たのはやっぱり一種の転生チートはあったのかもしれない。
当時彼らは雷魔法を誰が使ったのかはわからなかったんだけど、避難誘導をしていたウィステイン・ウェルドリッジ両家の私兵の誰かに目撃されてたらしい。
と言っても作戦成功に興奮していたせいで、私の事を見失ったらしく色々聞き込みして私をみつけるのに数か月かかったみたい。因みにこの国の1年も12ヶ月だ。まあその辺は日本製の乙女ゲーの舞台だからね。
そこからが大変だった。
何しろある日突然侯爵家の使いなる人がやってきて私と両親を召喚したわけだから。
もちろんご招待と言われたけど、拒否権なんてある訳もないしこっちとしては一体何でなのかわからなくて混乱しまくりだし、何か月も前の嵐とすぐ結び付けたり出来なかったしね。
そもそも魔法を使った事は誰にも言ってなかったし、家族も気づいてなかったと思うから、当日は出かける私たちより残されるマリアンヌ(姉)・ミレーヌ(妹)の方が青い顔してて留守番に呼び出された祖父母にミレーヌの方はしがみついてた。
後から考えるとこちらの立場にたった対応だったと思う。だって当日いきなり連れ去ったりせずお店も一応臨時休業って形取れたし留守と何かあった時の為に祖父母を呼んでお願いすることも出来たしね。
正式な貴族からの招待状をこちらが読めない事も考えて使者の人がきちんと内容を口頭でも伝えてくれてたし。
という訳で精一杯の一張羅を着てウィステイン侯爵へ出かけた私たちを応接室に通してきちんとソファーに座っての初対面の挨拶で何故呼ばれたかを説明された訳だ。
その場に居たのは我が家の3人、ウィステイン侯爵夫妻と嫡男ディードリッヒ様&セイ、ウェルドリッジ伯爵夫妻&テウの計10名。
「この街を救ったジョセフィーヌ嬢の功績をきちんと讃えるべきだという事で今日はこちらにお越し頂いた。君のとっさの対応のおかげで多くの人が助かった。私からも礼を言う」
「いえ、そんな」
答えた私の事をそもそも初耳の両親の方がビックリして目を丸くして見つめてたが、取りあえずそれは今はスルーだ。
「その時現場に居たセイグリッドとルティウス君の事は覚えているかね?ジョセフィーヌ嬢」
ジョセフィーヌ嬢なんて呼ばれてドギマギはしたけどそこは前世の社会人の経験値でなんとか落ち着いて返事を返す。
「あの日は嵐で視界が悪かったのでお顔まではちょっとわかりませんでした」
ウィステイン侯爵が指し示した二人の男の子に視線を走らせたけど記憶もあまり定かではなかったので正直に答えて置いた。
「セイはどうだ?」
「大木の方ばかりを見ていましたし、魔法発動後は木の方向を操るのに必死で残念ながらわかりません。テウは対岸にいましたので遠くて無理でしょう」
「君は僕たちが何をしようとしていたかわかって魔法を使ったの?」
セイと呼ばれた濃い緑色の髪の美少年がこちらを向いて質問してくるのに、なんかどこかで見たことあるような美少年だなあと思った。ゲームの「エリュスト」の攻略対象キャラだと気付くのはもう少し後の事。