57話 ゲルパニック
ゲル城。
城内のあちこちに蛍光色でゲル状のドロドロが撒き散らされており、非常に気色悪い城だった。
ぬっちゃぬっちゃぬっちゃ……
足音揃えて三人は進む。
「アルカリっぽい匂いがするな……」
「毒毒しい感じがしますわよね」
「ゲルゲルの野郎の趣味ですです」
少し進むと、城の中央辺り、立派な階段の前に出た。
登るしかねぇだろうな……なんて考えてた時だ。
「ぐわああああああああああ! 」
「今のって悲鳴!? 上の方から聞こえましたわよね?」
「ああ、俺にも確かに聞こえたぜ」
一体上で何が……
「行って確かめるしかねーですよ。どうせゲルゲルのやつも最上階ですですから」
リィリィの言う通りだ。
俺たちは慎重に階段を登った。
そして最上階。
階段を登ってすぐに大きな扉があった。
「あっ、それはダミーだから触っちゃダメですですよ」
「ドラゴン道場の時もそうだったけど、魔界には立派な門を必ずトラップにしないといけない文化でもあるのか? 」
シュレイドは呆れながら、大きな扉の隣の質素な扉を開いた。
「これはっ———
飛び込んできたのは驚愕の光景。
豪華そうな大部屋中に飛び散ったゲルと血、部屋の中央で少年にナイフを突き刺すチェックのワイシャツを地肌に羽織った男と、ナイフを胸に受けて瞳を閉じた少年。
「ちっ、エンドロールぐらいゆっくり見させろよ……」
男は気怠げに萎えた瞳でシュレイドを睨んだ。
「シュレイドさん、気を付けて。殺されてる奴、ゲルゲルですです」
つまり、あの男は当初予定していたゲルゲル以上の実力者って訳か———
「おい、ぺちゃくちゃ喋ってんじゃねぇ! ぶち殺すぞ……」
男は気怠げな瞳のままに荒々しい声を上げた。
穏やかとは程遠い。
戦いは避けられなさそうだ。
「リィリィっ! 」
「合点ですですっ! 」
シュレイドの合図にリィリィが相手の強さを相手の重さにする固有魔法、『重圧』を発動した。
先づは相手の力量を測る!
「ぐおっ、何だこれ……」
男は膝をついた。
「シュレイド、チャンスですわっ! 」
「ヴォルカニックスピア! 」
即座に炎槍を放った。
迷う心も、余裕も、今は無い!
室内で放たれる超至近距離の炎槍に、避ける術は無し。
ドオオオオオオオオオオオオオオオン!!!
「当たりましたわ! 」
「が、意味は無い。映画館ではお静かに! 」
なんと、男は手に持ったナイフで炎槍をバラバラにしたのだ。
それも無傷で———
コイツ、明らかに強い……
男はゆっくりと立ち上がると、気怠げに言った。
「———積み映画を作る時間だ」
!?
男の持つナイフが、黒と黄色の危険色の糸でシュレイドの首と結ばれた。
———否、それは強烈なイメージだ。
だが起こる。
これから『奴のナイフ』『俺の首』の要素を含む危険な何かが———
「ヴ、ヴォルカニックスピアっ! 」
「……遅い」
ガキィン!
男のナイフと———シュレイドの顎がぶつかり合った。
「ほぅ、咄嗟に顎を引いて首を守ったか」
「それだけじゃないぜ、足元をよく見な! 」
そう、男のナイフ攻撃の一瞬、俺はヴォルカニックスピアともう一つ、魔法を発動していたのだ!
「氷魔法コキュートス、お前の素早い動きは封じさせてもらったぜ! 」
男と、そして至近距離でコキュートスを発動した俺の足は氷付いていた。
「シュレイドさん、油断しちゃダメです! そいつはどうか知らないですが、魔界の奴らはその状態で平然と自分の足を切り捨てて戦いを続けるのが普通ですです!」
魔界の普通のレベルやば過ぎるだろ……
「しかしそんな事をされちゃたまったもんじゃないぜ……」
「いや、自分の足を切り捨てるなんて魔人じゃないんだしやらねーよ」
「なん……だと……」
確かに、意識を集中してみてもマナ師匠、エレキ、ハーマングと相対した時に感じたオーラみたいなのをこの男からは感じない。
俺はてっきりコイツが気配を消しているのかと思っていた。
ナイフ持ってるから暗殺者タイプっぽいし。
だがそれはどうやら偏見だった様だ。
「ああ、俺は真人間唯一の魔界序列者、序列9位観客一人の映画館の殺人鬼だ! 」
「いや殺人鬼は真人間ではないだろ……」
もしかしたら異世界言語の翻訳機能のバグとかなのかもしれないが、それはともかくシュレイドと序列9位、殺人鬼とのバトルは幕を開けたのだった。




