52話 鉄拳のハーマング
ドラゴン道場から魔王城までの道中、無視出来ない難所の一つ。
鉄拳城。
魔界序列8位、鉄拳のハーマングが統べる山間の関所だ。
まず目に入った外観が力強い。
岩をドデカい拳の形に切り出した様な見た目、マッスルパワーを感じる。
「なんか本当に暑苦しそうだな、やっぱどうにかスルーできないか? 」
「難しいですです。ただ、前に説明した通り、奴は搦め手とかは使ってこないシンプルな奴ですが、強い奴強い奴に挑戦して行く本当に魔界人じみた魔界人なので、シュレイドさん程の実力者をタダで通してはくれないでしょうですね」
「いや、こっそり行けばバレねーですわよ! 」
慎重なリィリィと、短絡的なセレーネ。
俺の心は、とりあえず楽そうなセレーネに傾いた。
「そう上手く行くかねぇ……」
ダメで元々って感じで。
鉄拳城の内部は外観の印象通り、岩の荒々しさが目立つ無骨な内装だった。
静まり帰った城内は普通なら不気味に感じる所だが、何故か暑苦しいものを感じた。
「あの柱に隠れながら行きますわよ」
セレーネが指差す方には何本か柱が立っていた。
柱と柱の間を通る時は無防備を晒してしまうが、まぁ見渡す限りだと一番マシなルートだろう。
シュタタッと一行は柱の影に隠れた。
そして息を潜め、辺りの様子を伺う。
「六万五千八百九十六……六万五千八百九十七……」
「なぁ、なんか上から物音がしないか? 」
「私嫌な予感がしますわ……」
「ですです(肯定)……」
三人は恐る恐る上を見上げた。
そこには、立っている柱の横に地面と水平になるように引っ付いて、腕を上下させている筋肉質な男が居た。
「おや、誰かと思えばリィリィではないか! 」
「げっ、」
リィリィは、まるで風呂場でゴキブリを見つけた時の様な顔をした。
「リィリィ、それに横の二人もトレーニングしながらで申し訳ないね」
そう言うと男は目を見開いた。
「俺は魔界序列8位、鉄拳のハーマング! この城の主だ!」
「ハーマングさん、ここを通りたいんだけど」
シュレイドが事情を話すと、ハーマングは快活に笑った。
「はははっ、いいとも! 」
ハーマングは見た目通りの明るい人の様だ。
機嫌が変わらない内にとっとと通り過ぎてしまお———
「と、言いたい所だが、シュレイド君のような逸材をむざむざ素通りさせるのは些か勿体ないのでね、ここを通りたければ俺を倒して見せろ! 」
上げて落とされた気分だ。
「まぁそんなことになるだろうと思ってたですですよ、けっ! 」
「まぁそう気を落とすな、長旅で疲れているだろう? 晩飯を振る舞おう。全開の相手との勝負じゃないと意味がないからね」
魅力的な提案をするハーマング。だが、
「リィリィ、これって罠だよな? 」
「それはねーですよ、コイツは」
「騙し打ちなどつまらんからな! はっはっはっ!」
生粋のファイターって訳か。
見た目の筋肉といい、俺の全開を望む所といい……つくづくシンプルな奴だ。
「ササミのボイル、プロテインスープ、ビッククェークのもも肉と野野菜のサラダ……どれも疲れた筋肉に沁みるぞ」
シンプルなグレーの岩テーブルに、これまたシンプルな白い皿が並べられた。
「脳筋料理ですです……」
「ザ・たんぱく質って感じだな」
微妙な反応をするリィリィとシュレイドを他所に、セレーネはガツガツとササミのボイルを頬張っていた。
「ん、うまうまですわ! 」
「筋肉が喜ぶ声が聞こえるだろう? 」
「幻聴ではなくて? 」
もっちゃもっちゃ。




