50話 浅い悩み
ハムカツメロン……
あの、あのエレキとかいう女が振り回してる頭……あれ……ハムカツメロンと同じ顔だ……!
見間違える訳が無い。
あの日の事は忘れたくても忘れられないぐらい目に焼き付いてるんだ———!
気が付く前に異世界転生後初の全力を出していて、認識する前にエレキは雷になって散った。
———さんっ! シュレイドさんっ! 」
遠くから掛けられる声で正気に戻る。
虚な瞳で辺りを見ると、ぴょこぴょこ動く子供の躰と、それに合わせて揺れるピンクの髪が目に止まる。
「ん、あ……リィリィ? 」
「んもー、どうしちゃったですシュレイドさん? 」
視界がはっきりしてくる。
砕け散った道場の一室と水の跡。
辺りから感じる焦げた様な匂いは俺のヴォルカニックスピアか、それともエレキの雷か———
「とりあえずリィリィ、何があったか聞こうじゃないか。」
いつの間にかマナ師匠も来ていた。
後ろには必勝と書かれた白い鉢巻とグルグルメガネをかけたセレーネも。
「———そう、エレキが襲撃に来たかぁ……」
マナ師匠が腕を組みながらもうエレキの居ない空を見上げる。
「ワタシとしてはシュレイドさんがエレキの武器を見た瞬間正気を失ったみたいになったのが気になるです」
ジトっとした目で見られても、どう言えばいいか困るな……
「アイツの持ってた頭、俺の知り合いに顔が似てるんだよ……」
知り合いって表現が合ってるとも思えない間柄だが、今は説明してもこんがらがるだけなので、そういう事にしておく。
「なんだか怪しいですですね……」
「ですわ!(肯定)シュレイドはあの生首女とどんな関係だったんですの? 」
女子二人に詰め寄られる。
どんな感してんだよ……
いや、あれだけ取り乱せば当然か。
「うーん、上手く説明しづらいんだけど、お前らが思ってるみたいな間柄じゃないぞ」
「じゃあ、」
「どんな関係だったんですの? 」
うお、息ぴったりじゃねぇか……
「負けっぱなしの宿命のライバル? 」
シュレイドがそう言うと二人は怪訝そうな顔をしたが、そこでマナ師匠が出てきた。
「うーん、分かるよシュレイド! アタシも宿命のライバルがいきなり生首になってたら取り乱すもん」
「あっ、抜け駆けですですか師匠! 」
「きったねぇですわね! きったねぇですわね!」
二人の抗議にマナ師匠は
「お前等落ち着けよ、そんなんじゃないのは分かるだろ? アタシも、シュレイドも」
「むー」
恋バナはここでしゅーりょーと、二人を制すマナ師匠。
とりあえず、この場は収まりを得た。
エレキが持っていたあの頭はハムカツメロンの頭だった。
そしてエレキは逃げた。
正直戸惑っている。
転生前にもう二度と会えないと思った相手に、転生後に会った。
生首だったけど。
いや、冷静に考えると見間違いじゃねーか?
戦闘中だったし。
「俺が、あの顔を見間違える訳ないだろっ……」
あの日のあの時が瞼の裏にへばり付いて離れないんだ……
くそっ、どうしたら……
「ねぇシュレイドさん」
思考を切り裂く声が聞こえた。
「ん、んあ……どうしたリィリィ? 」
「悩んでるみたいですですけど、ワタシ、シュレイドさんのしたいコト、分かっちゃったですですよ」
上目遣いでそんな事を言う。
見透かされてる様で良い気はしないな。
「あっ、私もシュレイドのやりたそうな事分かりましたわ! 」
えっセレーネお前も!?
「流石にアタシにも分かるねぇ……」
マナ師匠まで!?!?!?
「ふっ、ふん! 分かるもんなら言ってみやがれ!」
強がりを言った。
「「「あの生首をエレキから取り戻したい」」」
———
———
———
—————————それは、ダメだろ。
「それはダメだろ」
「? なんでダメなんです?」
「お前らの事、置いてく事になる……」
「ついて行きますわよ」
セレーネは迷いの無い瞳で即答した。
「そんな、魔界上陸直後にとんでもねーバトルを見たじゃねーか、危険だ! 」
「なら———」
「ですわね———」
「「ここでシュレイド(さん)をぶちのめして証明する(ですわ)っ! 」」
セレーネとリィリィ、そしてマナ師匠までシュレイドに飛びかかって来た。
「なんで———」
「親友も、帰るべき場所も、もう残ってない私の、最後の一つがシュレイドとリィリィとの旅なんですわ! 命懸けの理由としてはこれで十分ッ!」
セレーネの思いに圧倒されている間に彼女のアッパーがシュレイドの顎を貫く。
「ぐおっ! 」
ダメージは殆どないが、脳を揺らされてクラクラする。
「ワタシもせっかく魔界に戻れて、シュレイドさんを使って魔界キングになるって目的がありますですからねっ、第三決定『鉄槌』! 」
落とされる鉄槌。
を、もろに食らう。
くそっ、頭がクラついてなければ食らわなかったのに———
その後、リィリィとセレーネとついでにマナ師匠に踏んだり蹴ったりされたシュレイドであった。
———かくして、魔界冒険の旅が始まったのだった。




