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47話 さんすうドリル



 セレーネがさんすうドリルで修行している間、俺とリィリィは、道場の書庫でこの世界について勉強していた。


 所狭しと並んだ本棚の一つにリィリィと二人で寄りかかり、『まかいのれきし』という本を手に取る。


 魔界と人間界は元々一つの島だったが、現在の魔界にあたる部分に魔力異常が起こり、魔界は別世界へと転移した。


 ゲートストーンとは、その時の異常により発生したものと言われている。

 ゲートストーンが古い地層から見つかる事が多いのはこの為である。


 ふむふむ……


 「魔界が人間界と別世界にあるってのはワタシ等が船で来ちゃった以上怪しい説ではありますですですけどね」


 「歴史は変わるってやつな」


 「ですですね〜」


 傍に置いてあったコップで熱いお茶を飲んだ。




 さんすうドリルを3冊解き終わった辺りで、スーパーかしこいセレーネさんは気付いてしまったのですわ!


 「この……さんすうドリルに何の意味が……? 」


 マナ師匠から言い渡されたのは「これを二問同時に、出来るだけ早く解いていくんだよ。」


 セレーネは言われた通りにやった。

 2×3と8×4を同時に考え、4×7と1×6も同時に……そんなこんなで30分余、セレーネは最初の疑問に辿り着いたのだった。


 「演算能力の向上さ」


 上からの声にセレーネが見上げると、そこにはマナ師匠が天井からぶら下がっている姿が見えた。


 「うわっ! いつから居たんですの!?」


 いやそんな疑問はいいですわ、私が今最も気になるのはこの修行の意味。


 それを聞かぬ限りは、もうさんすうドリルなんてやってられない気分だった。


 「いつから居たのかと問われればずっと居たよ。あんまり集中してるから邪魔しちゃ悪いと思ってね」


 かかっと笑ってマナ師匠は言葉を続ける。


 「さっきの言葉も当然聞いてた。何の意味があるか……だったっけ? 意味はちゃんとあるよ」


 「どんな意味が———」


 と、セレーネが言い終わるよりも早くマナ師匠は言葉を返した。


 「演算能力の向上さ」


 「えんざん……能力……? 」


 知らない単語が出てきましたわ……


 「うーん、演算ってのは掻い摘んで説明すると『さんすうがどの位できるか』ってコトだね」


 ?


 「あー伝わってないかぁ……いいかいセレーネ、人はね、目から入る情報を無意識の中で計算しているんだよ、『飛んできたあのボールはあとどのくらいで自分に当たるか』とか、『あの道にリンゴが……2個落ちている』とか」


 まるで幼な子を相手取るかの様な口調に舐められてる感じがしてならないが、セレーネはそんな事よりも話の内容に耳を傾けた。


 「セレーネは目が良いよね。だから人より多くの物が見えるんだ。だから無意識の計算も人より多くしなくちゃならない」


 「あー、何となく話が見えてきましたわ。つまり私の良い目のポテンシャルを存分に発揮する為にその……演算能力とやらを鍛えてるんですのね! 」


 セレーネの言葉が的をいていたのだろう。

 マナ師匠は顔を明るくした。


 「そうそう、そうゆう事! いやーアタシも優秀な弟子に恵まれてんなぁー!」


 だけどそれだけじゃないよ。とマナ師匠は視線を鋭くした。


 「セレーネにはその超人的視力以上の目———魔眼を身に付けてもらう」


 「魔眼? 」


 「特殊能力を持っていたり、見えない筈のものが見えたりする目の総称さ。セレーネの視力の良さは正直言って異質だ。もうこの時点で魔眼と呼べる程に———だから多少鍛えればすぐにでも真の能力が目覚めるだろう……」


 「急に色々言われても困りますわ、そもそも演算のトレーニングと魔眼に何の関係が———」


 「ああ、ごめんごめん。だからね、見えない筈のものが見える魔眼に目覚めて見えるものが増えちゃうと『無意識の計算』が増えちゃうでしょ? そん時に頭がパンクしない様に脳トレしてるって事さ」


 「もう今の説明の時点で頭パンクしそうなんですけど……」


 「さっ、説明は終わりだ! ほらっ、ドリル頑張れ〜」


 セレーネの横にさんすうドリルの山がどさどさと積まれる。


 「ぐぇ〜」


 これには流石のセレーネも顔を顰めるのだった。

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